119:ダンジョンモンスターの有効活用法
【第四層群広間】
マリーが陽子を車に乗せて細かい打ち合わせをしながら戻ってくると、ちょうどアンが多数の吉川一族の応対をしていた。
「アン、どこかに鼠は居ないだろうか。」
「マリーさん、ダンジョンの召喚モンスターリストにありますよ。」
「あ、そうなのですか。なら召喚するから、この狐さんに鼠の天ぷらを作ってくれないかな。鼠を入れる籠も……名前無しダンジョンモンスターなら逃げないか。」
「厳密には『生きて』いませんから、単純な命令に従うだけで逃げたりはしません。」
「それなら、第三層群の調理室に鼠を召喚しておくので、料理出来たら応接室へ。」
アンは層群間エレベーターで料理に向かった。
「陽子さん、鼠の天ぷらが出来るまで応接室でお待ちください。」
「鼠の天ぷらが出てくるなら文句は言わないよ。」
「それで、吉川さん、かなり急いでこちらに来られたようですが。」
「いよいよ食べる物が無くなりまして、餓死する前に避難しました。我々鯰は別に鼠を料理する必要はありませんから、そのまま戴ければ。」
外見は服を着た人間大の鯰だが、なぜか手足はある。鯰絵に出てくる擬人化された鯰そのもの。
「誰かが居るフロアにはモンスターを直接召喚出来ない。という制約はあるのですが、この第四層群も塔屋階には住民の方は居ませんので、そこで召喚しましょう。5階までお越し下さい。」
マリーは塔屋で鼠を召喚してはバケツに入れて5階へ運び鯰に給餌。
「いやぁ、助かる。小さいとはいえ池に、鼠とはいえ食料まで戴けて。」
感謝する吉川。
「池は、まだ大きくなりますよ。一度に水を貯めるのは無理ですから。」
さすがに6億トン、尾瀬原ダム程度ともなると水を溜めるだけで何日では済まない時間が必要。
吉川一族に混じって、鯰には見えない者が数名。
「ワタシ達は、プルトゥゲシュ、コノ国のヒト、河童ト呼ぶデス。ワタシはアントニオ・アウグスト・サントス・ペレイラと言いマス。」
「ああ、河童ですか。胡瓜が好物の」
「胡瓜のこと、ペピーノて言います。でも、ワタシ達、ペピーノだけ食べるではアリマセン。」
「河童はどういう仕事が出来るのです?」
「人により違うデス。ワタシはデウス様に仕えるパードレ、コノ国の言葉で坊主デス。」
「つまり河童の和尚さんですね。確かに河童にも寺は必要でしょう。」
「アナタの名前はプルトゥゲシュの言葉ではマリアになって、女のヒトでは一番多い名前になりマス。」
「へぇ。そうなのですね。」
語源は違うのであるが。
【コアルーム】
「移民はどんどん来る、食料の輸入は滞る。困った物です。人間に鼠を食べさせる訳にはいきません。」
食料の輸入は予定より大幅に滞っているのに、移民の流入は予想より早い。
「確かダンジョンモンスターで虫も召喚出来たな。最悪、昆虫食か。」
「一般には食用にされる昆虫は限られます。蚕の蛹・イナゴ・蜂の子・一部の芋虫くらいです。蚕も芋虫みたいなものですから、3種類ですね。『芋』虫と言う以上、縄文時代には重要な食料だったのでしょう。」
そのあたりは江戸時代には広く食べられていた。当然、この世界でも食用にされる。
「でも、狐と鯰の餌は片付いたか。」
「ただ、鼠のドロップアイテムが鼠の死体というのは、ダンジョンエネルギーの効率としては最低です。鼠なんてどこにでも居るものですから、ダンジョンモンスターでは無い鼠を仕入れて増やす方が得です。もっとも、逃げ出したら、この図書館都市ダンジョンに鼠が蔓延ってしまいますが。」
通常、ダンジョンモンスターを倒すと確率で何らかの「ドロップアイテム」を落とす。もちろんダンジョンエネルギー節約のための仕様。
「難しい問題だな。」
「ただ、荷物に紛れて鼠が入り込むのは時間の問題でしょうから、鼠対策は必要でしょう。図書館の備品にゴキブリ駆除ロボットはあった気がしますが、鼠には対応していたか……。」
図書館など薬剤を使えない場所では、害虫は物理的に狩るのが早い。




