118:狐カフェ
【琵琶橋】
図書館都市ダンジョンと入間を結ぶ街道が完成し、途中の仙波村が本格稼働することで、入間との交通は大幅に増えた。琵琶橋の対岸、入間側には関所が置かれ、何かあったら即座に仙波と図書館都市ダンジョンへ報告出来るよう電話が設置された。
田植えが概ね終わったある日、仙波左馬允からマリーに、面倒な客が居るから応援を頼むという電話が入る。
「遅いね。この陽子様を一刻も待たせるなんて。神通力とか無いの。」
見たところ、かなり高齢の狐獣人。文字通りの古狐で、妖狐と名乗っているので化け狐と思われる。
「わたしは天狗ではありませんし、それに、このダンジョンの固有法則に神通力はありません。多少天狗になっているかもしれませんが。申し遅れましたが、紫蘇図書頭です。」
「これから、この街道は狐狸も通るんだし、好物くらい用意しておきなさいよ。気が利かない。」
「狸は鶏頭が好物だと聞きましたが、狐の好物は何でしょうか。」
植物のケイトウでは無く、鶏の頭なのであるが。
「昔から狐の好物と言えば、鼠の天ぷらだねぇ。」
「稲荷寿司では無いのですか。」
「あれは人間がお祭りの後の直会で食べる用だ。人間は鼠を食べないからね。逆に油揚げは狐にはあまり向かないから、常食しない方が良い。狐が食べるのは基本的に鼠、それに兎。あと食後に果物だよ。基本は肉食寄りの雑食、残飯なんか食べている犬っころとは身分が違う。」
犬は逆に狐を見下しているし、お互い様。
「鼠ですか。」
「鼠を増やすと良いよ。食べる獣人は多いからね。」
「鼠は管理しきれず逃げ出したら食料を食い荒らしますからね。難しい問題はありますが。」
「それで本題だけど、これから、このダンジョンはどんどん人が増えるだろ。で、修羅はそうでもないけど、人間やケダモノは、ね。そうなると狐にとっては商売の機会って訳だ。ダンジョンにとっても風紀の悪化とか治安の乱れとか抑えられるから悪い話じゃない。もちろん世の中には狐では無く猫や狸が好きって人も居るけど、そういうのは狐ではない種族がやればよい。」
「……猫や狸……えっと、猫カフェならぬ狐カフェを開きたいと。」
「ああ、ここでは『かふぇ』と言うのか。なら狐カフェだね。狐の巫女さんを呼んできてね、ダンジョンの力があれば『化ける』ことが出来るから、完全に人間の姿になっても良いし、耳と尻尾だけ残しても良い。それで、そういう店を開こう。って訳だね。」
「店ですか。」
「目立つ建物が良いね。いっそ天守とか。」
「異世界に天守閣は19ありますが(第二次世界大戦が無く、松前城は火災により焼失したため)、もちろん、どれも図書館ではありませんから召喚出来ません。このダンジョン、図書館しか召喚出来ないのですが……昭和時代に堺県で天守閣風図書館を建てた例がありますね。『復興天守』という元の城跡に厳密では無い天守を建てた事例ですが。」
「広さはどの程度だい。」
「3階建てで300坪くらいですね。」
「少し狭いけど、最初は仕方ないか。何か特殊な外観の建物が入手出来るなら、他にも用意して。目立ってなんぼの商売だし。」
「場所はどの辺にします?」
マリーは地図を広げる。
「裏側で良いよ。例えば、この、本体のすぐ北側で道沿いでも無いあたり。」
「なら、その辺りに城、というか天守閣風の元図書館を召喚しましょう。」
狐カフェです。




