117:使い捨て公用車
【コアルーム】
「車は故障したら捨てる。後ろ向きとは言え、発想の転換ではあるな。」
「半年やそこらで壊れるものでも無いですし、壊れるまでには何か解決策も見つかるでしょう。」
「だけど、この世界に人工衛星は存在しないけど車を動かせるのか。」
「オートマ車ではなくマニュアル車を選んで取り寄せれば、運転免許を持っていれば手動運転が出来ます。もっとも、タクシーではありませんから、公用車は大抵はマニュアル車でしょう。なお、わたしは設定上運転免許を持っているだけのペーパードライバーですが。」
英語では Autonomous car と Manual driving car であり、変速機とは無関係。もちろんハンドル等の無い完全オートマ車と言えども、緊急時には遠隔操作で動かしたりフェールセーフで停止してレッカー移動するため、常に自動で動くことができるわけでは無い。
「ダンジョン本体を電波塔代わりに使って衛星の代用品には出来ないんだろうか。」
「自動車自体の改造が必要になりますから、今は手に余ります。いずれ人材が揃えば可能になるでしょうが。」
「つまり、必要な車は?」
「マニュアル車対応の電気自動車です。航続距離200km無い近距離用の車種で十分です。」
「電気? ダンジョンから充電できるからか。」
「はい。ガソリンや軽油は藻を栽培して精製する必要があり技術力不足で手が出ません。アルコールは召喚した酒を蒸留すれば入手できますが量産は困難です。メタンやプロパン、あるいは水素も大量生産は出来ません。さらに燃料で動く車はダンジョン内では固有法則の影響で動きませんから、車庫から出せなかったりします。ハイブリッド車は車庫の問題はありませんがガソリンの入手問題は解決できません。」
「火気使用禁止だったな。それで、科学教材キットに燃料用炭化水素を合成する藻とか無いのか。」
「ガソリンは子供には危険すぎますから、あるとしたら大人用ですが、藻類を入手出来たとしても車に使うとなると『精製』するという問題があります。」
「それで、層群間エレベーターと車の特徴をまとめると?」
「層群間エレベーターは故障リスクが無く、攻撃にも強いが、高コストで輸送力が低い。一方、車は運用の柔軟性は優れていますが、故障したり破壊されたりしうる。といったところでしょうか。なお、将来的には車は必要になります。鉄道はちょっと入手手段が想像付きませんから保留でしょう。そもそもレールすらダンジョン構造物で作る訳にもいきませんから。」
「なら、二重投資するよりは車で良いのかな。どっちみち我輩は乗らない訳だし。」
「ダンジョンエネルギーにも限りはありますから、判断は先送りして車を数台だけ召喚する。という手もありますね。街道が歩行者や大八車と兼用なので、そんなに速度は出せませんが。」
「江戸時代の大名行列を見習って、『下にー、下にー』と音声流して避けさせるとか。」
「御三家以外の一般大名は『避けろ』とか『片寄れ』ですけどね。生麦事件みたいに行列に突っ込んだりしない限り、そうそう問題は起きません。庶民にとっては祭りの仮装大名行列と同じで、道を空けて見学するのが一般的でした。」
「とりあえず車が8台、は要らないよな。」
「現状、運転免許が必要ですから免許の有無は確認しないといけませんね。でもオートマ車限定免許ってのは使えませんから。」
「では、ステータスオープンと。」
ダンジョンマスターがそう言うと、マリーがコアからマスターの履歴書を表示させる。
「マスターの場合、氏名が空白で、現住所は武蔵国足立郡……。学歴と職歴は設定だけなのでさておき、免許・資格が1級建築施工管理技士とその他いろいろ……。」
「二級建築士は受験資格はあるが取り損ねたという設定だ。」
「ステータスと言っても、ただの履歴書以上には出来ないんですよね。知力いくらとか数値化できるものでもありませんし。わたしの場合、性別欄が空白だったりしますが。」
雌雄同体では無く性別無し。
「車が要るか聞いて、ステータス……もう履歴書でいいや、免許有るか確認して、車を用意。だな。」
「それで、騎士団長とかは教習所作って免許を発行する必要があるでしょうか?」
「その頃には自動運転使えるだろうし、ヨシ!」
結局、マリーの他、医者のサピエン先生と新聞記者のファリゴールはマニュアル車免許持ち。メードのアン、営業のスカーレットとキンランはオートマ車免許、ラージャは持っていないので馬移動、ミントも運転免許無し。つまり当面使用できる車は3台ということに。




