114:見沼
【東門外と北東門外の間】
「ところで、鮎が地震を起こす。というのは本当でしょうか。確か地震は大地に力が溜まることで起きると思うのですが。」
「はい。いかにも、地震は大地に力が溜まることで起きます。ただ、かつての二郷半領水郷は、大地に溜まった力を、いくらか場所を変えて解放できる『固有法則』を持っていました。当時、我が先祖は、ダンジョンの名前付きモンスターだったそうです。」
「それって結局、鮎が地震を起こしていたってことじゃないですか。」
「そう言われて迫害されましたが、二郷半領水郷が失われた以上、我が一族に地震を起こす力はありません。」
「地震を起こせるなら、人が居ない場所でわざと起こすとか、日時を指定して避難させて起こすとかできるのですけどね。状況から見ておおかた、ダンジョン影響圏外の他の町か何かを攻撃するためにむやみに地震を起こし、ダンジョンエネルギーが枯渇して崩壊、あたりでしょうか。」
「そこまでは知りません。ただ、ずっと大昔に、武蔵と総を巻き込んだ災害があったという伝説は聞いたことがあります。」
「内容までは?」
「知りません。お役に立てずに申し訳ありません。」
【北東門外・観音寺】
マリーと吉川は自称龍が棲む蛇の池へ行く。
「ヴァサンティさん、お客さんです。今度この東に作る池に住む鮎獣人の吉川さんです。」
「吉川です。」
アオダイショウが出てくる。
「私はシャルミシュターの娘ヴァサンティ、見ての通り龍だ。私を崇めると良い。」
見た目はただの蛇。偉そうだが毒は無いし別に毒舌でも無い。
「吉川です。見ての通りの鯰です。」
「龍と鯰は近い存在だと言うし、家来にしてやるから、よろしくな。」
「それでは、吉川さんが一族を連れて来る前に、池を作ります。お疲れでしょうから、今日は一泊していかれると良いでしょう。」
「いえ、一刻も早く吉報を伝えたいと思います。」
【南東門外2里・岸村】
吉川は故郷へ帰り、マリーは岸村へ向かう。
「これはこれは書記長殿、いえ、図書頭様、岸村の田植えは終わりました。」
岸播磨介が出迎える。
「今は百姓が居ないので水田も少ないですからね。この夏に移民が大量に来るでしょうし、知行が5,000石で石盛は1反1石ですから、来年は500町の水田が必要ですね。」
「今は一族郎党だけで管理しているからな。」
「もうすぐ、この方面担当のキンラン紫蘇(修羅)が来ますから、来年用の水田を作って、遅まきの大豆と玉蜀黍を播いて冬に備えます。あと、これから、水路から水を引くだけではなく、必要に応じて雨を降らすことになりました。」
「え、雨だと。どういうカラクリかは知らないが、砂漠で雨なんか降らせたら鉄砲水が起きるぞ。」
「龍を雇いました。ダンジョンからの水を制御して降らせますので大丈夫です。それで、龍の遊び場に池が必要なのですが、岸村の東から南へ抜ける谷をせき止め、ダンジョンから供給される水を溜めて、池を作ります。面積7,000町(70k㎡)と龍が棲むには十分な広さになります。」
「名前はどうする?」
「形はだいぶ異なりますが、異世界から名前を持ってきて『見沼』あたりでしょうか。位置的には『浦和競馬場調節池』ですが、馬も居ないのに競馬場というのも変です。」
「釣りとか出来るのか?」
「魚が増えれば出来そうですが、そもそも増やすための魚が必要ですから、どうなのでしょうか。少なくとも鮎獣人は住むことになりますが。」
「鯰は蒲焼・鍋焼・蒲鉾になるが、獣人では食べられないぞ。」
マリーは岸村の南、図書館都市ダンジョンの東から岸村の南に抜ける谷が図書館都市ダンジョンの西の大きめの涸れ谷に合流する地点に、土砂をダンジョン構造物として長さ500m・高さ15m足らずの堰を作る(15m無いのでダムでは無い)。ため池は堤体の劣化や地震・洪水で決壊する危険性があるが、ダンジョン構造物なら適切な設計さえしていれば、ダンジョンが存続する限り土砂で埋まるまで使用可能。
貯水量6億m3・湛水面積70k㎡。これだけの水があれば、雨を降らすには十分。現状では貯めるのに相当日数が必要だが。




