112:柿が赤くなると医者が青くなる
【仙波村】
図書館都市ダンジョン西方10里に、岸村に続いて2番目の村「仙波村」が作られた。40km離れたダンジョン本体から一直線に街道が作られ、その上空には背の高い水道橋が築かれている。将来は街道沿いに2~3里ごとにいくつかの補助的な宿場町を作る計画はあるが、今は何も無い。街道自体も土地だけは幅100m確保されているが、ダンジョン構造物でしっかり作られているのは10m程度。これでも大八車が歩行者を気にせずにすれ違うことが可能。
街道と水道橋は、河越城手前の涸れ川まで一直線に延びている。涸れ川に架かる琵琶橋までがダンジョン影響圏。川向こうは人間の、入間の領域であり、将来もダンジョンの影響圏外となる。
「これで、入間まで野宿せずに徒歩2日で行けるようになりました。」
毛や総へも、多少遠回りにはなるが入間経由で移動可能。
「ここを拠点に海賊等が出ないように見張れば良いのか。」
仙波左馬允次郎が言う。
「普段はそうです。そして、当然ながら、必要な場合は軍役の義務があります。情勢が落ち着いたら琵琶橋に関所を作り、犯罪者や禁制品をきちんと取り締まる予定です。」
「承知いたしました。」
早速、真新しい街道を一群の修羅がやって来る。一部は髪が灰緑色だったり赤みがかった緑色で、目の色は鮮やかな赤橙や黄色。残りの多くは漆黒の髪と目。黒いのはメラニンでは無くタンニンなのであるが、それはどうでも良い。最期の数人は坊主頭。
「初めまして。横野です。医師をしております。」
黒髪で丸顔の女がマリーに挨拶する。
「ようこそ図書館都市ダンジョンへ。紫蘇ファミリーのマリーです。このダンジョンで側近書記をしています。」
「西条っていいます。うちら見ての通り、柿ファミリーじゃけん『柿が赤くなると医者が青くなる』言うて、医術の心得があるけん、きっと役に立つはずじゃ。」
同じく黒髪だが、いくらか馬面の女が言うが、見ただけで柿修羅と分かる訳はない。なお、植物の柿には雌株と雌雄同株が居るためか、柿修羅も厳密には女と雌雄同体がおり、雌雄同体の見た目は男だったり女だったりする。ついでに言うと、修羅も獣人も餓鬼も種類で職業は決まらないため、医者以外の柿修羅も世の中にはいくらでも居る。
「ロカイ。別名医者いらず。だが医者だ。」
赤みがかった緑色の髪とは鮮やかな赤橙の目を持つ、男に見える修羅が名乗る。
「こいつらアロエは真の百合じゃないってファミリーを追放されて放浪している所属未定修羅じゃけん。」
「今のところ、蔓穂蘭ファミリーだ。以前は薄木ファミリーだったが、要はアロエ修羅であるということが重要で、ファミリーはどうでも良い。」
「医者同士の腕の張り合いというのはありますが、別に仲が悪い訳では無いです。単に派閥が違うだけです。」
横野が言う。
「科と思っていたけど血縁が無く似ているだけの赤の他人だった。逆に他人と思っていたけど実は血縁があった。なんて、良くある話ですからね。」
と、マリー。
「ここは修羅が支配するダンジョンと聞いたけん、人間とかに横槍入れられずに活動出来ると思ったという訳じゃ。」
「別に修羅だけが偉いって訳では無いのですが。いずれにせよ医者は大歓迎です。これからどんどん入植者が増えてサピエン先生、あ、このダンジョンの名前付きモンスターの医者ですが、1人では到底手が回りませんからね。ちなみに、このダンジョンは図書館ですから、異世界の医学書を召喚し放題ですので、研鑽を積んで下さい。生憎人間用なので修羅や獣人にはそのままでは使えませんが。」
「本は高価ですからね。それはありがたいです。」
この世界、医者は坊主頭が多い。柿修羅の医者にも法連坊とか祇園坊とか、禿頭で僧侶っぽい名前の者も居るが、別に僧侶と言う訳では無い。
広島弁がおかしいのは脳内修正してください。今の山口弁は標準語と少し違うだけだそうなので、あえて方言にはしていません。




