111:村山党のセン馬一族
【西門外、鴨川西岸】
観音寺を作った翌日、入間の代官が見慣れない武士団とその一族郎党と思われる人々がやってきた。ただ、馬も馬獣人も居ない模様。
「図書頭どの、入間に居る仙波氏が、一族の一部を分家させてこちらへ移住させたいと言っておる。」
「セン馬ですか。入間の川越城が日本でのセン馬発祥の地と聞いておりますが。」
江戸時代、川越城下で人に噛みつく4頭の馬を去勢したのが、日本で最初のセン馬と言われる。
「はい。我が仙波氏の本拠にして発祥の地は河越城の南です。仙波氏は村山党の一員で、党内では最も左翼(東側に居るという意味)となります。申し遅れましたが、某、仙波掃部助の子、仙波左馬允次郎です。」
新武士団の統領と思われる、まだ若い男が答える。
「村山党ですか。この図書館都市ダンジョンもいずれは議会を開設しないといけませんから、政党も必要ですね。ちなみに、逆に村山党で一番右翼と言えばどなたでしょうか。」
「金子氏でしょうか。おそらく。」
もちろん、一番西の方に居る。という意味。
「なるほど。この世界、他の党はどのようなものがありますか。」
「児玉党や横山党あたりが有名ですね。児玉党は毛に近い地方、横山党は相撲に近い地方が本拠地です。」
「異世界の政友会とか民政党とか社会大衆党とは全然違いますが、それでも党の2つ3つも揃えば議会開設の時でしょう。」
そもそも近代的政党なんて存在しない。
「代官どのから、このダンジョンでは知行を戴けると聞きましたが。」
仙波左馬允が言う。
「騎士団(岸団)が5,000石になる予定ですから、それに準じて順次4,000石分の水田を用意します。ただし、今年の苗は間に合いませんから、米の収穫は来年秋からになります。あと、馬を飼うための牧草地を用意し適時雨を降らせます。」
「図書頭どの、雨を降らせるだと?」
驚く代官。
「昨日、龍を雇いましたので。」
「龍って言っても、そう簡単に雨を降らせられるものでは無いぞ。」
「龍が雨を降らせるには、そもそも十分な水が必要ですからね。幸いこのダンジョンは潤沢に水を供給出来ますから、龍が居れば雨を降らせることは可能です。」
「それこそ、入間ごと、このダンジョンに売却したくなるな。代官にそんな権限は無いが。」
「さて、知行の場所ですが、まず、入間への街道を整備しないといけませんから、入間との中間よりも入間寄りに宿場町を作り、そこまで街道と水道橋を引きます。そこをセン馬氏の知行地にすると良いでしょう。」
「入間側なら、いざとなったら父と兄の応援も得られます。」
「入間方向へ引き返すことになってしまいますが、明日、現地に向かい、早速家を建ててしまいましょう。その前に、騎士団の岸播磨介さんとの顔合わせが必要ですね。」
「岸殿ですか。こちらに来たとは聞いておりますが。」
「このダンジョンの南東にある岸村に居ます。今、親戚を呼び寄せていますから、中山街道方面に陣屋を作る予定です。もし、村山党で他にもこちらへ来られたい方がおりましたら、まだ武士団は募集しておりますので。それこそ先ほどの金子氏でも。」
「父に相談します。」
「ちなみに、左馬允さんのお父上は馬は飼っていますか。良ければ馬を殖やしていただければ。」
「おりますが、父と兄の乗馬2頭だけですし、どちらも牡ですから増やすことは出来ません。」
「それは残念ですね。こちらには馬獣人が3名おりますが、3人とも牝で増やすことが出来ないので困っています。」
「動物の馬と馬獣人では国津罪ですぞ。」
と、代官。
「人間は要らないほど殖えるのに、馬も馬獣人も殖やせない。困ったものですね。」
セン馬の「セン」の文字が表示できないためカタカナです。




