108:街道五方面作戦
【コアルーム】
「今後の方針だが、当面は紫蘇(修羅)8人を中心に廻すしか無いな。マリーさんは全体の調整、ミントさんがシステム管理、サピエン先生は医療、あとの5人で5方面の開発か。」
「引き続き大成町から北西、毛方面はラージャとハルナ、東町から東の織田城方面はアンにお願いするとして、上小町から西の入間方面はスカーレットを中心に必要に応じてわたしもサポートに入る、吉敷町から南東の総方面は騎士団長とキンラン、最期に土手町から北東はファリゴールに任せます。」
「田植えと種まきが終わったら……。」
「営業のスカーレットとキンランに、このダンジョンの経済的な仕組みを作って貰いましょう。ですが、近隣より大量に移民が来るでしょうから、夏本番までに遅まきの大豆と玉蜀黍を可能な限り植えないといけません。」
「どれくらい来るだろうか。」
「10万は想定しておくべきでしょうね。とはいえ、種の召喚にはダンジョンエネルギーが必要ですし、田畑の管理には人手は必要ですから、一度に来られても困ります。」
「いっそ、一部をダンジョンエネルギーに転換してしまうとか。」
「マスター、さすがにそれは邪悪に過ぎるかと思います。それに、移民を殺害しても、武将や熟練冒険者と違ってそんなにダンジョンエネルギーを得られませんよ。確かに人口爆発に対して有用な解決策ではありますが、このダンジョンの理念にも反します。」
優生学では遺伝的問題は去勢すれば済む話であり、遺伝以外は医療や福祉の問題なので、『生きるに値しない命』という考え方は好まれない。
「大急ぎで作付けを増やさないといけないな。」
「『通勤五方面作戦』ならぬ街道五方面作戦で幹線街道を先に作ってしまい、その道を使って一挙に田畑を増やしましょうか。」
「通勤五方面作戦?」
「昭和時代の、鉄道省による東京の通勤鉄道を整備する計画です。このダンジョンに鉄道はありませんから、その代わり5本の街道を1日行程の10里、つまり40kmまで、次いで3日行程の100km圏までは整備し、街道沿いを優先して開発します。」
「片道3日か。車でもあれば……。」
「移動図書館や図書館公用車を備品として召喚しても、整備できませんし、すぐに産廃になってしまいます。マスターの眷属として自動車整備士を召喚出来れば、ある程度は延命できるでしょうが、人工衛星がありませんから、手動運転しか出来ないという問題もあります。」
「いっそ鉄道とか?」
「図書館の備品に電車はありませんから無理です。図書自動搬送システムのAGVはありますが輸送力は論外ですし遅すぎます。一応5本の街道は幅100mの用地を確保していますから、当分は何とかなるでしょう。」
「それこそ『商都梅田』なら本質が駅なんだから、電車を召喚出来そうな気がするが。」
「さすがに、場所も分からないほど遠くのダンジョンから電車を運んでくる訳にもいかないでしょう。眷属の問題を解決できれば、下から2番目の第58層群にはバスターミナルがありますから、移動図書館の本棚を撤去すればバスやトラックとして使えるでしょう。なにはともあれ、まずは1日行程まで『街道五方面作戦』です。」




