107:召喚モンスターの問題
【コアルーム】
紫蘇(修羅)が召喚出来なくなった図書館都市ダンジョン。
「機械技師の召喚が出来ないとなると、ミントに怒られますね。これ、システムの不具合でしょうか。」
「パソコンではあるまいし、ダンジョンそのものにOSとか無いだろう。」
「マスター、Dungeon Operating SystemだとDOSになりますが、確かにそんな前世紀の遺物など博物館にしかありませんね。」
「確かキーボードから命令打ち込むんだったか。」
「そんなの扱えるの、ミントだけでしょう。このコアの操作は一応『グラフィカルユーザインタフェース』になっていますけど、『ダンジョン大百科』によると操作系もダンジョンにより異なるそうです。このダンジョンは図書館ですから、OPAC、つまりOnline Public Access Catalogによくある操作系に準じているのでしょう。もっともオンラインでもパブリックでもありませんが。」
「なるほど。これがゴブリンとかゾンビとか出てくる地下迷宮なら、魔方陣で召喚したりするんだろうか。」
「どうでしょう。そもそもそういうダンジョンが存在するかも不明ですが。ダンジョンは基本的に1つまたは一群の異世界から、そのダンジョンに合ったアイテムやモンスターを召喚しますが、このダンジョンは修羅も獣人も居ない世界に由来するのに、マスターは獣人でわたしは修羅ですから、何か特殊な理由があるのでしょう。固有法則が『部外者立入禁止』と非常識に強力なのも謎です。」
司書では無く紫蘇なのはダンジョンマスターが悪い訳だが、そもそもダンジョンマスターが獣人である理由は不明。図書館でヨシ! なんてやったら蔵書が多数行方不明になりそうだ。
「非常識に?」
「正攻法では絶対攻略不可能ですから。召喚モンスターの問題は、その代償なのかもしれませんが。」
「現在召喚出来るのは、シバンムシ・チャタテムシ・紙魚などの害獣・害虫だけか。」
「召喚リストにはマスターの眷属すら居ませんね。」
「眷属?」
「一般に『眷属』とは、仏様に従う従者とか、神の使者の動物とかですが、ダンジョンの場合『ダンジョン大百科』によると、海賊船ダンジョンでマスターが海賊船長なら海賊の子分、古城ダンジョンでマスターが吸血鬼なら雑魚吸血鬼と、基本的にはダンジョンマスターの眷属が召喚可能です。『手下』といった方が分かりやすいでしょうか。」
「我輩の眷属か。」
「必ずしも工事現場とは限りませんし、工場勤務の機械技術者が居ればミントも……召喚出来なくて正解かもしれませんね。ヨシ! とか言って労災頻発されたら困ります。眷属は自動的に名前有り一般になり、知能はあるけどダンジョン影響圏を出ることは出来ませんし、コアへのアクセス権限はありません。でも死亡復活はしますから、労災事故の度にダンジョンエネルギーを浪費されたらダンジョンが破綻しかねません。」
「名前有り一般?」
「海賊の子分には全員名前がある。ということです。もちろん、海賊ならともかく元から知性の乏しいモンスターを名前有り一般にしても、会話が出来たりはしません。また、やはり人数には制約があるので、軍隊を編成するのは無理でしょうが。なお、このダンジョンでは名前有り一般は設定できません。……あ、それで眷属も召喚出来ないのか。」
「また、何らかの解放条件に引っかかっているのかな。住民増やすか、ダンジョン増築するか、それこそサピエン先生が言っていたみたいに本を増やすか。」
「普通は、モンスター数が1桁なら、名前付きの副官1~2名と、あとは名無しでしょうからね。中間管理職が必要なのは、もっとモンスターの数が増えてからでしょう。このダンジョンの全員名前付きって運用が特殊なんでしょうね。」




