101:いずれ枯渇する図書館
【コアルーム】
「ふと思ったんだが、全国の図書館の数はいくつだ。」
サピエン先生が聞く。
「え~と、公共図書館は約4,000ありますね。現在482層群ですから、まだまだ余裕はあります。」
「百万町の農地を作った時、村の数はどの程度になる?」
「1村が50~80戸程度、人口は200~400人で農地は平均200町として5,000……あれ。建て替えなどで、なぜか新旧両方召喚出来たりする場合もありますが、足りませんね。特に第一層群みたいな小さい図書館だと1棟に50戸は入りませんし。」
「となると、図書館が尽きた時点で大量の建材を確保しないといけなくなるな。ただ、この世界は砂漠だから木材は貴重だ。」
と、ダンジョンマスター。
「壁と屋根だけなら、城壁作ったみたいに作れないことも無いですが。でも、それだと、ちゃんとした家に住めるのは初期移民の特典。となり不公平ですね。」
「ダンジョンの成長に伴い、図書館率の低い複合施設もかなり召喚可能になったから、今後、複合施設内の小規模な分館や公民館の図書室なども召喚出来れば延命できるか。」
「あるいは、現状、大学図書館は高コストとはいえ召喚可能ですが、大学以外の学校図書館……小学校は全国に3万校近くありますし、その多くが何らかの図書室や図書コーナーを持っていますから、これが召喚出来るなら問題は一挙に解決します。中等教育に関しては世界により大きく制度が異なりますから、召喚可能になってもコストは割高になりそうですが。」
第二次世界大戦が無かった世界の日本では、学校制度は従来の複線型が進学率向上に伴い変化したものになっているため、新制中高は『大部分の世界にある』という訳では無い。
「実際、大学図書館は割高とはいえ召喚出来る訳だし、小学校も解放条件を満たせば召喚出来そうだな。第三層群は妙に安かったが、最初の1棟だけはボーナスがあったとか。」
「次の区切りとなると、『ダンジョン内の同時滞在冒険者数』1万人か、『ダンジョン高低差』10万フィートか。」
と、ミント。
「前者なら、幅が30m無いためダンジョン本体には使っていないものの階数が多く床面積が広い図書館、あるいは図書館付き集合住宅が、東京と台北には多数ありますから、城壁各門に作る町にこれらを使用して暫定的に移民を滞在させ、人口が1万人になってから学校校舎を並べて農村を作っていきます。後者だと、高さ30kmは現実的では無いですから、別の手段を考えましょう。」
「割高だけど『一部の世界にしか無い』図書館とか地道に集めるか。」
「マスター、一部の世界にしか。ですか。商都梅田は各層群に大軌梅田とか東横新宿とか一部の世界にしか存在しない駅まで無理矢理押し込まれているせいで迷宮化が酷いそうですが、このダンジョンの場合、別々の層群になりますから、何とでもなるでしょう。ただ、召喚コストが割高になってしまいますが。」
「それにしても、人口爆発で土地が足りなくなる心配より先に、図書館が足りなくなる心配が出てきたか。」
「マスター、日本語圏以外の図書館を召喚すれば数の問題はありませんが、コストが問題になりますからね。帝国図書館すら手が出ないのに、大英図書館とかどうなることやら。」
「帝国図書館は、何か未知の解放条件があるのかもしれないぞ。人口や高さだけでなく、蔵書の種類、あるいは図書館なので貸し出し数、というか読まれた本の数とか。このダンジョン、ほとんど燃料用の本と新聞しか召喚していないだろう。一度、この第三層群の蔵書約200万冊を全て召喚し、手分けして一通り読んだら何か変わるかもしれない。」
「サピエン先生、それだと本を読ませるための、1日中本を読むことが仕事という者が必要になります。……でも、必ずしも紫蘇(修羅)である必要は無いでしょう。本の虫と言いますし、本を読ませるだけの虫なら低コストで召喚できたりしませんか。モンスター召喚リストの最期の『シバンムシ』『チャタテムシ』『紙魚』って普通に考えたら害虫ですが、名前付きにすれば本を食べたりはしないでしょう。」
アンは読書専門のモンスターを召喚することを提案。ちなみに召喚リストの先頭には『紫蘇(修羅・特殊)』とある。
「脳のサイズという制約があるから、虫を名前付きにしても本を読むことが出来るかは疑問があるが。」
「マスター、さすがに害虫はやめたほうが良いでしょう。制御できずに大繁殖したら悲惨なことになります。わたしは大抵の虫には耐性がありますけど、それでも害虫ダンジョンなど見たくありません。大学図書館の第三層群と、自治体図書館の第六層群の蔵書を全種類召喚してみて、何が起こるか確認してからで良いでしょう。」




