第四十二話「意地の拳」
『さぁ……行こうか!』
ドォオ!
通信回線から聞こえてくる若い男の声と同時に、海賊の御手型機甲鎧が両肩の噴射機から火を吹かせてこちらに突撃してくる。
速い! まるで機体が損傷を受けていないかのように……いや、これが本気の速度なのか。
とにかくあんな速さで接近されたらもう神器の弓矢は使えない。ここは神器の槍で応戦を……。
「カズト、ダメ!」
『おいおい。それは悪手だろ?』
え? ………っ!?
ドカァァン!!
左手にZINを集めて神器の槍を作り出そうとした時、アオと通信回線からの若い男の声が聞こえてきて、次の瞬間に激しい衝撃が襲ってきた。
いっ、一体何が………って、左腕が!?
画面を操作して衝撃が起こった左手を見ると、左腕の肩から下が跡形もなく吹き飛ばされていた。
『神器を作り出すんじゃなくて、逃げるか両腕の武装を展開させるべきだったな』
通信回線からの若い男の声を受けて前方を見れば、海賊の御手型機甲鎧が右の掌をこちらに突きつけた体勢で停止していた。
『神器は確かに強力な武器だ。機甲鎧の必殺技とも言ってもいい。だけどな、神器は作り出す時に少し時間がかかるんだよ。その少しの時間が致命的だったな』
………っ!
「あー、もう! 腹立つ~!」
勝ち誇ったように言う若い男の声に俺は思わず奥歯を噛み締め、アオも苛立たしげに唸る。
確かに若い男の声の言う通りだ。俺はいつの間にか神器の威力に酔って、神器を過信しすぎていたのかもしれない。だが今はその事を反省するよりも先に知らなくてはならないことがある。
……アオ、あの海賊は一体何をしたんだ?
「カズトが神器の槍を作ろうとした時、右手に持っていた三本の刃を投げつけてきたの。それで左腕に刺さった時に刃が爆発したの」
刺されば爆発する、投げクナイの神器。それがアイツの神器か。
『そういうこと。もっと早くに気づくべきだったな』
ヴゥン!
海賊の御手型機甲鎧が右手を握りしめると、再び右手が緑色に光出して指と指の間に三本の刃が現れる。
『さてと……。死にたくなかったら、必死で避けろよ?』
ドォオ!
海賊の御手型機甲鎧は両肩の噴射機を吹かせると俺達の乗る機甲鎧の周囲を縦横無尽に飛び回り、緑色の光の雨が、神器の投げクナイの群れが俺達に向かって飛んできた。
『いけない! お二人共、早く逃げて!』
「言われなくても逃げるっての! カズト!」
通信回線から聞こえてくる緋乃の悲鳴のような声にアオが怒鳴るように答えるとこちらを見てくる。
ああ、分かっている!
幸いと言うか海賊の御手型機甲鎧から放たれる神器の投げクナイは狙いがそこまで正確ではなく、機甲鎧を動かして無数の神器の投げクナイを回避する。しかし……。
ドォン! ドォン! ドォン!
いくら狙いが正確ではないとはいえ、無数に飛んでくる投げクナイを全て回避することはできず、数本の投げクナイが刺さっては爆発する。
「うう……。視界がグラグラ揺れる……。カズト、大丈夫?」
大丈夫……とは言えないな。さっきから爆発の衝撃で操縦席が豪快に揺らされて吐きそうだし……、それ以上に機甲鎧の被害が大きい。
海賊の御手型機甲鎧が神器を使いだしてから僅か数十秒で俺達が乗る機甲鎧は見るも無惨な姿へと変わり果てていた。
全身の装甲は爆発の衝撃でほとんどが破損し、内部の機械が露出していたる所で火花を吹いている。最初に破壊された左腕を除く機体の四肢を見れば、右足の足首と左足の膝から下が吹き飛んでいて、無事なのは右腕だけという有り様だ。
どう見てもこれ以上の戦闘は不可能だろう。というかあれだけの神器の攻撃を受けて生きているのも不思議だ。
そう思って機体をもう一度見てみれば、操縦席がある胴体だけが他の箇所と比べて被害が少なく見える。これってやっぱり俺達を殺さずに捕まえるつもり、ということなのか?
「……かもね。どうする? 降参する? 今、降参したら殺されることはないと思うけど?」
アオの言う通り、今ここで降参すれば俺達は殺されずにすむし、緋乃を初めとする護衛の人達も助かるかもしれない。というより俺達にはもう降参する以外の選択肢はないだろう。
……………だけど。
「カズト?」
力量は海賊の御手型機甲鎧の方が圧倒的に上で、俺達の勝率は皆無に等しい。これ以上戦うのは無謀以外のなにものでもないだろう。
だけど、このまま何もしないで負けたくはないな。
アオ。すまないけど、もう少し俺に付き合ってくれないか?
「当然♪ 私とカズトは一心同体。どんな時でも一緒だよ♪」
ガバッ!
アオは俺に抱きついてきてそう言うと、俺の体に大量のZINを送ってくれた。
ありがとう、アオ。……さあ、最後の悪あがきをさせてもらおうか。
ヴゥン!
俺はアオから受け取ったZINを機甲鎧の右手に送ると、神器の槍を作り出してそれを構えた。
『へぇ。まだやるのかい?』
右腕だけで神器の槍を構えた俺を見て海賊の御手型機甲鎧が身構えながら話しかけてくる。
『凄い根性だとは思うが、そのボロボロの機体じゃ満足に槍は振るえないだろ? そこから槍を投げるつもりかい?』
……いいや。そんなことはしない……さっ!
ガッ!
俺は槍の穂先を海賊の御手型機甲鎧に向けて突き出すのと同時に、槍に意識を送って柄の長さを伸ばした。
槍は柄の長さを伸ばしたことで遠く離れた海賊の御手型機甲鎧にも届くようになり、槍の穂先は矢のような速度で海賊の御手型機甲鎧を貫こうとする。
『おっと』
海賊の御手型機甲鎧は両肩の噴射機を吹かせて左に飛び俺の槍を回避する……が、それは予想済みだ。
ブゥン!
海賊の御手型機甲鎧が攻撃を回避したのを確認するより先に、俺は神器の槍を更に伸ばすと、槍を右脇で抱えるようにして機体ごと回転した。回転することで槍の石突きが勢いよく振るわれ、回避行動をとった海賊の御手型機甲鎧を正面から捉えた。
とっさの思い付きの行き当たりばったりな攻撃にしては仕掛けがうまくいった。これが普通の侍が相手なら避けられるはずがなく、神器の攻撃の直撃を受けて機甲鎧も破壊されるだろう。
『はっ! そうくるだろうと思っていたぜ!』
しかし通信回線から聞こえてくる若い男が叫ぶと、海賊の御手型機甲鎧は減速することなく上に飛んで横薙ぎに振るわれた石突きを回避した。
やっぱりかなりの腕だな。この攻撃も読んでいて「くれた」か。
『何?』
「カズト?」
俺の言葉が気になったのか、通信回線の若い男の声とアオの声が思わず重なった。
……二撃目が読まれていることなんて、こっちも読んでいたんだよ!
ギャルル! ガシィ!
俺が叫ぶのと同時に槍に意識を送ると、槍は俺の意思に応えてまるで生きた蛇のように柄を曲げて海賊の御手型機甲鎧へと迫り、その左足を絡めとった。
『なっ!? マジかよ! こんな初心者がここまで神器を使いこなしているなんて……!』
通信回線から焦った若い男の声が聞こえてくるがそんなことは関係ない。ようやく捕まえたぞ、この野郎! 俺は右手に持つ槍を勢いよく引っ張ると、槍に足を絡めとられている海賊の御手型機甲鎧をこちらに引き寄せる!
『なんとぉ!?』
叫び声を上げながらこちらに向かって飛んでくる海賊の御手型機甲鎧。
俺は機体にある全てのZINを右手に込めると拳を作り、無防備な御手型機甲鎧の胴体に向けて、ZINが集中したことで青く輝く右拳を繰り出した。
次回は7月12日に更新する予定です。




