戦う意味見付けた男
戦う意味が無い男の続編です
日本のとあるぬいぐるみショップの女性店長の所に一本の電話が来ていた。
「確かに蒼貫槍の力を感じているのは、おかしいわね。この世界には、蒼貫槍の力は、及ばないようになっている筈。だからこそ、蒼牙様が長い間槍の状態だった筈」
それに対して電話の相手が言う。
『そうだな。だから調査をしたい。すまないが、人手を急いで回して欲しい』
女性店長が頷く。
「了解。でも、海外だからそうそう人数を送れないね」
そういいながら、ネットで、状況をチェックしながら言う。
「白木静太さんが手が空いているから、サポート役に行ってもらって、零刃は、後方支援って形にするけど良い?」
『海外では、それが限界だな。それとすまないが、竜巻を消した事に対して口止めをしないといけない。そっちの手筈も頼む』
電話の相手の言葉に女性店長が頷く。
「公式な所には、八刃として圧力掛けとく。ローカルの方は、少し時間が掛かると思うわ」
『それなら、すまないが、実弾を静太に持たせてきてくれ。私のが貯まっているから、そっちから好きなだけ出して構わない』
電話の相手の言葉にデータをチェックしながら女性店長が言う。
「解った。それじゃ、気をつけてね」
『そっちも、月に一で神様や魔王の相手をしていたら命がいくらあっても足りないぞ』
相手の言葉に苦笑する女性店長。
「それは、諦めてるよ。神託もあるしね」
電話を切った女性店長にその親友が声をかける。
「海底神殿に行く準備、終ったか!」
大きくため息を吐く女性店長であった。
そして、竜巻の被害にあった片田舎の町の教会の前。
ゼリアは、掃除をしながら呟く。
「レイは、いつまでここに居られるんだろう」
辛そうにため息を吐きながら教会に戻ると、そこでは、町の重鎮達が集まっていた。
「保険会社の奴等、自然災害だから保険が降りないって言うんです!」
一人の男性の言葉に他の男性が言う。
「うちは、突然消えた竜巻が異常だと、自然災害じゃないから保険が降りないって言って来たぞ」
混乱する男達。
それも仕方なかった、不自然に襲ってきた竜巻とそれが突然に消えた事実が、人々を混乱させているのだ。
神父も申し訳なさそうに何も言っていない。
零が口止めをしていたからだ。
そこに零が一人の青年と共に戻ってきた。
町の人々がざわめき、町長が言う。
「すまない、今は、町の重要な会議中だ。関係ない人間は、御免いただこう」
それを無視して零は、中央に行くと、手に持っていたアタッシュケースを開く。
その中身を見て待ちの人々が驚く。
「あれって百ドル紙幣だよな」
困惑する町人達を制するように零が言う。
「ここに一億ドルある。今回の災害について、口外しない約束をしてくれればこれは、偶々居た日本人からのお見舞金として町に寄付する」
その場に居た人達が驚いて居る中、町長が言う。
「そんな大金をどうして? それに口外しないって言っても竜巻の事は、公式な記録にも残っている事だぞ」
それに対して、零の隣に居た青年が答える。
「公式記録には、あの竜巻は、存在しないことになっています」
町人の一人が怒鳴る。
「そんな事があるか!」
零があっさり言う。
「確認してみたら良い。昨日、ここら辺で竜巻が発生したかどうか?」
町人の一人が携帯電話で問い合わせた。
「どうだった?」
硬直するその町人に他の町人が聞くと強張った顔でその町人が答える。
「……竜巻は、発生していないと言ってきた」
他の町人も慌てて確認するが何処も竜巻の事は、無かった事にしていた。
町長が戸惑いの表情を零に向ける。
「まさか、あんたが……」
零が頷く。
「私の所属する組織に依頼して、公式記録から消させました」
一斉に引く町人達。
そこにもう一人の青年がもう一つのアタッシュケースを開けてみせる。
そこには、前と同じ中身が入っていた。
言葉を無くす町人に零が告げる。
「一ヶ月、この町の人間から竜巻の事が漏れなかったら、この一億ドルも寄付することになる。どうですか?」
否と言える人間は、居なかった。
竜巻の事の口止めに重鎮達が動いている中、ゼリアが複雑な顔をして零に近づく。
「そのお金って、組織のお金なの?」
それに対して零の隣に居た青年が言う。
「ゼロさんの個人資産ですよ。危険な仕事をしているのに全然使わないですからかなり貯まっていましたよ」
ゼリアが驚く。
「そんなお金があったのにどうして?」
零が肩を竦める。
「カードを持ち歩かない主義で」
「電話一本でも入れれば届けますよ」
青年が苦笑しながら言う。
「そういえば、貴方レイとは、どういう知り合いなの? どうしてアメリカに居たの?」
ゼリアの当然の質問に青年が答える。
「私の名前は、セイタ=シラモク、零殿の家と昔から付き合いがある家の人間です。今回の竜巻の調査を手伝うために来ました」
「こんな近くに知り合いが居たんですか?」
ゼリアが零に話を振る。
「一時間前に電話して、日本から来てもらった」
頭をかきながら静太が言う。
「米ドルを集めるのに時間がかかって遅れてしまいました」
ゼリアが怒鳴る。
「馬鹿にするのは、止めて下さい! あたしだって、日本からここまで一時間で来れない事くらい知っています!」
それに対して零が真面目な顔で答える。
「そんな不可能を可能に出来るのが、私達なのだ。すまないがさっそく調査を頼む」
「了解しました。オーフェンハンターにも協力を受けられるので、直ぐにターゲットが判明するでしょう」
そう答え、静太がその場を去る。
「レイ、貴方は、何者なの?」
ゼリアの言葉に零が答える。
「戦う者。あの竜巻は、危険な者が作った可能性があるので、調べ、退治するのが私の仕事です」
「何の為に?」
続けられるゼリアの質問にロスタイム無く答える零。
「大切な者に危害が及ばない為に」
「大切な者って誰ですか?」
今度のゼリアの質問には、零の答えに間があく。
「……家族です」
ゼリアが悲しそうな目をする。
「だったらどうして死んでも構わないって態度をとっているの? 大切な人がいるんだったらその人の為に生きなければいけない!」
零は、何も答えられなかった。
そして、ゼリアが孤児院を見る。
「あたしは、死ねない。大切なあの子達を守らないといけないから」
「それが、本当の力ですよ。その力だけは、私より貴女の方が強い」
簡単に返してくる零の頬を叩きゼリアが怒鳴る。
「レイは、何も解ってない!」
駆け去っていくゼリア。
防御をせず、まともに受けたため、赤くなった頬を触る零に槍がテレパシーを放つ。
『今のは、全面的にお前が悪いのは、解るね』
零が頷く。
「私に十分な強さがあれば、怒られなかったそういう事ですね?」
槍から呆れた様なテレパシーが出る。
『馬鹿が』
首を傾げる零に槍が続ける。
『あの娘は、お前に擬似恋愛感情を抱いている。そんな相手に大切な者と言われたかった』
複雑な顔をする零。
「私では、彼女には、ふさわしくない。彼女は、もっと真っ当な人間と結婚するべきです」
『だから馬鹿だと言った。女は、悪い男に恋焦がれる。お前のその弱さが女心を擽った。今の所は、本気じゃない。真剣に相手をせず、相手を満足させて、別れろ。一般人では、お前と深く関わっても傷つくだけだ』
槍の辛辣な言葉に零が大人しく頷く。
「そうですね。それが大人の対応ですね」
適当なプレゼントを買いに行く零であった。
「先程のお詫びです。色々お世話になっているのに、蔑ろにする様な事を言ってすいませんでした」
花束を渡す零だったが、ゼリアは、その花束を床に叩きつける。
「やっぱり、レイは、何も解ってない!」
そのまま、夕食の準備に行ってしまう。
「レイ、またゼリア姉ちゃんと喧嘩か? もう少し、ちゃんとフォローしたらどうなんだよ」
孤児の男子の言葉に苦笑いをして頬をかく零。
「そっちの才能は、無いみたいです。そうだ、皆にもアイスを買ってあるから、食事の後にでも食べなさい」
そんな事をしている間に静太がやって来たので、外にでる零。
「調べは、つきました。相手は、青魔術結社です」
静太から資料を渡されて困った顔をする零。
「何の冗談だと言いたい奴等だな」
頷き静太が語る。
「聖なる白魔術。邪悪な黒魔術。それとは、異なる青い天空の思いで、使う魔術なので、青魔術なんて下らない教えですが、その象徴に青を置いたのには、異界の力がありました。蒼貫槍の使徒がこの教団の最深部に隠れているのを確認しました。流石に単独であたるのは、難しいと判断し戻ってまいりました」
零は、真剣な顔して言う。
「しかし、解らないのは、この世界は、蒼貫槍様の担当地域とは、異なる。それなのに何故、蒼貫槍の使徒が居たかだ」
静太が新しい資料を出す。
「もしかしたらと思うのですが、その結社のボスは、召喚師で、下位の神獣を召喚した実績をもっています」
『下位の神の使徒とは、違う。人間には、召喚不可能な存在だ。もしも召喚に成功したとしたら、人間の世界に降りようとしていた者くらいだ』
槍の言葉に零が悩みながら答える。
「偶然の成功の可能性も考える必要があるな。どんな理由にしろ、そんなクラスの異邪を放置出来ない。八刃に追加人員要請しかないな」
「そのクラスの相手となると、本家の上位の人間が必要ですが、許可が下りるでしょうか?」
静太の質問に零がため息を吐いて言う。
「難しいが、事が蒼貫槍様の使徒、多少の交換条件を飲んでもそれなりの人間が来るはずだ。それまで、監視を行うぞ」
「はい。調査の方も引き続き行わせます」
静太が返事をして、再び活動を始める。
翌日の昼。
零は、問題の組織を一度下見してから教会へバイクを走らせていた。
『あれは、間違いなく蒼貫槍様の使徒だ。鷹人の使徒、タンサーだ』
槍からのテレパシーに零が問い返す。
「お知り合いなのですか?」
『何度かあった事がある。半年前にも蒼貫槍様の使徒になれとスカウトに来ていたのだ』
槍の答えに零が少しだけ困った顔をする。
「やはり、どこかの神に仕えた方が宜しいのでは、ないのでしょうか? 白牙様も勧められておられた事ですし」
その言葉に強烈な思念波で返す槍。
『白牙の事を言うな! あれとは、お互いだけの力だけでどちらが上か決着をつけないといけない相手なのだからな!』
本気で困った顔に移行する零を見て槍が続ける。
『解っている。今や白牙は、神々すら凌駕する。まともに遣り合って勝てる相手だと思っていない。しかし、それでも譲れない物があるのだ』
単純でない思いを抱き沈黙する槍に零は、場をつなぐ軽い話として質問する。
「そういえば、百爪様に弟が出来たという話ですが、聞いていますか?」
『……何?』
そのテレパシーは、先程までとは、異なるプレッシャーが掛かっていた。
「知らなかったのですか?」
零が顔を引きつらせながら聞き返すと槍が答える。
『次にあった時にじっくりと話をしないといけないらしいな』
零は、かなり危険な地雷を踏んだ事を自覚した。
そんな中、町の方から巨大な蒼い鷹が零の上空を通過した。
「今のにも、蒼貫槍様の力が」
嫌な予感に襲われて、教会に戻ると、そこには、先程と同じ様な鷹が何羽も居た。
『白い風に導かれ、長き時を経た力を示せ、白風木縛』
静太の呪文に答えて、周囲の木が蠢き、蒼い鷹を捕らえていく。
「どうなっている!」
零の言葉に静太が術を維持しながら答える。
「油断していました。向こうから先に行動を起こされ、町が襲撃されました。ある程度の防衛準備があったので、今の所被害は、あのシスターが連れ去られただけです」
「ゼリアさんが……」
驚きを隠せない零。
「助けて!」
孤児達の悲鳴を聞いて戦闘モードに切り替わると、槍を持って孤児達に襲い掛かろうとしていた蒼い鷹を牽制。
「道を作れ!」
零の言葉に静太は、頷き、木を操り、空への道を作る。
『イカロスダッシュ』
零は、木の道を駆け上がり、一気に上空に上がると両手を広げて唱える。
『全てを捉える白い風よ、我が敵を打ち砕け。白風円撃』
一瞬で自由に動いていた蒼い鷹を全滅させる。
残った青い鷹も静太と手伝いの零刃やオーフェンハンターに滅ぼされる。
地上に降りた零に縋り付く孤児達。
「レイ! ゼリア姉ちゃんが!」
「あいつ等、生贄にするって!」
零は、怒りを堪え、微笑み言う。
「安心して下さい。彼女は、必ず助けます」
孤児達に笑顔が戻る。
「レイは、強いから大丈夫だよね?」
「早くしてよね」
孤児達に後押しされ、再びバイクに乗る零。
「ゼロさん、単独では、危険です!」
零は、エンジンを回しながら言う。
「この力、大切な者を護る為にある。相手の力がどれ程に強かろうが関係ない!」
こうして、零は、青魔術結社との決着をつける為に動き始めるのであった。




