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八刃列伝  作者: 鈴神楽
第二期
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13/22

戦う意味掴んだ男

ゼロの戦い決着編ですが、戦闘シーンは、少なめです

『何に怒りを覚えている?』

 バイクを飛ばす零に槍が問う。

「自分の未熟さ。自分達がどれ程、危険な存在かという事を失念し、安穏と暮らしました。それが間違いでした」

 その答えに槍が答える。

『その油断の原因は、解っているな?』

 零が頷く。

「護る者が居ないと思い込んだ自分の情けなさ。護る者は、常にあり、それに気付けなかった、それが一番の反省です」

 槍は、告げる。

『反省が終ったら、後は、行動だけだ。行くぞ』

 強く頷く零。



「たった一人か」

 男は、舌打ちをしてゼリアを見る。

「貴方は、何の為にこんな事をしているのですか!」

 詰問するゼリアに高そうなローブを纏った男が答える。

「金だ。世の中、金が全てだ。どんな欲望も金があれば叶えられる。その為に、あの壁を維持し、力を引き出す生贄が必要なのだ」

 そういって男が指差した先には、壁がなく、人のシルエットをした鷹、蒼貫槍の使徒、タンサーが居た。

『愚かな人間よ、この時の壁で我を封じられたとしても、我の不在をしれば、救援が来る。その時は、この世界もただでは、すまないぞ』

 それを聞いて馬鹿笑いをする男。

「使徒の不在に気付くのは、どうせ何十年も先の事だろう? 俺が死んだ後の事など気にしてられるかよ! 俺は、俺が幸せだったらそれで良いんだよ!」

 ゼリアが睨む。

「その様な邪な気持ちは、神が許しません! 天罰を受ける前に悔い改めなさい!」

 それに対して男が札束を掴み言う。

「だから、その神様の使いをこうやって捉えてるんだよ。これで、俺の悪行は、神様には、届かないって事だ」

「神は、全知全能です。間違った行いには、必ず天罰が下ります!」

 強い信念をもってゼリアが言うが男がローブを脱ぐ。

「止めなさい、そんなはしたない事は、駄目です!」

 顔を背けるゼリアに男は、無理やり自分の体を見させる。

 そこには、どうやったら生き残れるのか解らない大きな傷があった。

「これがなんだか解るか? この世界を担当する下級の神を召喚した時に、その神が不機嫌だったそれだけで、負わされた傷だ。相手も、やりすぎだと思ったのか、傷も癒して、俺に莫大な宝石をくれて言ったぜ、『忙しいからコレで何とかしろ』ってな。俺の育った村を悪徳業者から守って欲しいと思い、神を召喚した結末がそれだ。だけど、勘違いするな、その神様の施しは、確かだった。金で全てが解決した。それで気付いたんだ、金さえあれば神も何も要らないってな!」

 ゼリアが哀れみをもって言う。

「哀しい人、自分の行為の意味すら見失って。貴方が本当にしたかった事は、違うはず」

 男は、怒りのままにゼリアの顔を殴る。

「うるせい! お前に何が解る! お前は、あの見えざる時の壁を維持し、越えて神の使徒の力を引き出す薪になってればいいんだ!」

 顔を腫らしながらも毅然な態度でゼリアが言う。

「神は、常に正しきものの味方です。己の行いは、常に己に帰ってきます!」

「だったら、お前がここで、生贄になるのも、自分の行いが原因なんだろうな!」

 男の言葉に、ゼリアが暗い顔をする。

「そうかもしれません。自分の思いだけを優先して、レイに冷たい事をした。だから……」

 そんな時、激しい振動が男の青魔術結社のビルを揺らす。

「どうした!」

 男が、近くの内線で確認を行うと、直ぐに回答が来た。

『槍を持った男が単独で侵入してきました!』

「単独だと、最近、周囲を探索している者の仲間か? それにしても単独だと?」

 少し考えた後、新たな指示を出す。

「その男は、囮だ。本体が別にある筈だ。周囲の警戒を怠るな!」

『はい、ブルーマスター』

 内線の返事を聞き、男、結社の中では、ブルーマスターと呼ばれた者は、ゼリアの方を向く。

「金に群がる虫けらみたいだ。何、神の使徒の力を使えば、どんな虫けらも一捻りだ」

 ゼリアが真剣な顔で言う。

「違います。きっと、お金なんて関係ない筈です!」

 ブルーマスターは、ゼリアを見下ろし言う。

「そうか、お前の男が、お前とセックスしたいから助けに来たと言いたいのか? 馬鹿な奴だ。女も金さえあれば……」

 その時、ドアが吹き飛び、結社のメンバーがゼリアとブルーマスターの間を突き抜けて行った。

 そして、零が現れる。

「遅れてすまなかった」

 ブルーマスターは、憎々しげに零を見る。

「貴様、どうやってここまで来た! タンサーから搾り出した力を与えたキメラも居た筈だぞ」

 それに対して、零は、槍を突きつけて言う。

「確かにまともに戦えば苦戦しただろう。しかし、蒼貫槍の力さえ取り除けば普通のキメラと大差なかったな」

 ブルーマスターが叫ぶ。

「まだ終らないぞ! 大金を出して買った虎の子の兵器だ!」

 そういって、出してきたのは、機械化されたキメラ。

 そのキメラは、左右で蝙蝠と鳥と異なる翼を生やし、触手が伸び、嘴があるのに牙が生え、足の数が五本で、種類が違う尻尾が複数生えていた。

「通常ならコントロールも不可能な数十体の複合キメラを機械化する事で自在に操れる様にした。その上、タンサーの力を無尽蔵に使える。これに敵うものなど居ない」

『クェェェェー!』

 嘴と思われる場所から怪音を放つキメラ。

 零がさめた目で言う。

「どんな敵でも立ちふさがるのなら倒すまで」

「その強がりがいつまで続く、いけ!」

 キメラは、触手の先端からビームを放ってくる。

 零は、紙一重でかわして行く。

『ヘルコンドル』

 零の指先から生み出されたカマイタチがキメラの体を大きく切り裂く。

 しかし、傷は、瞬時に癒されていく。

「見たか、この部屋に居て、タンサーの力を受け続ける限り、そいつは、無敵だ!」

 勝利を確信したブルーマスターに零が告げる。

「こんな者で本気で勝てるつもりか?」

 舌打ちしながらブルーマスターが返事をする。

「お前に勝てる要素などあるまい! その爪で切り裂いてやれ!」

 キメラが指示に答えて、零に接近し、三本ある前足のうち、二本を振り下ろす。

『カーバンクルパラソル』

 気の防御により、全く別方向に攻撃を逃がされたキメラは、己の過剰なパワーに自らの肉体にダメージを与えられる。

『ツインテール』

 零の連続攻撃が機械部分を打ち砕く。

 それを見て悔しそうにブルーマスターが言う。

「少しは、やるな。しかし、何時まで続くかな? さあ、攻撃を続けろ!」

 しかし、キメラは、答えない。

 戸惑うブルーマスター。

「どうしたんだ! 早く攻撃しろ!」

 するとダメージが回復したキメラは、なんとブルーマスターに襲い掛かろうとした。

 ブルーマスターは、驚いた顔をしながらも、取り出したスイッチを押すと大爆発を起こして血塗れの肉片と化すキメラ。

「どうしてだ! 何で、命令をきかなかった!」

 それに対して零が答える。

「肉体は、キメラの再生能力で復活できたかもしれないが、機械部分は、違う。機械部分が無ければお前にあれを使役する術が無い、それだけだ」

 ブルーマスターは、左右を見回し、そしてゼリアを見つけると慌てて近寄り、その首に首輪を嵌める。

「この首輪は、あの時の壁を生み出す神器に生贄の魂を吸収させる物だ。俺以外には、外せないぞ! この娘を救いたければ、いう事を聞け」

 そんなブルーマスターを無視して零が、タンサーを封じている時の壁を見る。

「タンサー様の相手をするかと思って、命を捨てる覚悟をしてきたが、何とかなりそうだ」

 その態度に苛立ちブルーマスターが怒鳴る。

「解っているのか、この首輪の本体である神器は、時の壁の中央。その壁の中では、一秒が数十年に匹敵する。だからタンサーも抜け出せずに居る。神器の力を使ってその力を引き出し続けられる俺は、無限に力を得られるのだ」

 零は、槍をその時の壁に向ける。

「時間がありませんので、力をお借りします」

 それを見てブルーマスターが高笑いをあげる。

「馬鹿が、その槍がもし神器だとしても、時の壁の中では、風化するだけだ!」

 しかし、槍は、消滅しないまま時の壁を生み出していた神器を切り裂いた。

 時の壁が消え、ゼリアの首輪も消滅する。

「嘘だ! 時は、どんな者にも平等の筈だぞ! それがどうして!」

 ブルーマスターが混乱している横では、零がゼリアの傍に行き、体の調子を確認しながらいう。

「物理的には、問題ないようです。しかし、何か精神的ダメージを負って居るのでしたら言って下さい。その代償は、あいつに負わせます」

 ゼリアが無言で首を横に振る。

 そんな中、開放されたタンサーがブルーマスターに近づく。

『覚悟は、良いな!』

 ブルーマスターが脱力した顔で言う。

「所詮、お前らは、何時もそうだ、絶対的な力で無力な人間を嘲る。好きにしろ」

 タンサーがブルーマスターを滅ぼそうと手を伸ばそうとした時、ゼリアが立ち上がって、ブルーマスターの前に行くとその頬を叩く。

 タンサーが視線を送ると零が答える。

「すいませんが、彼女にもやり返す時間を与えてくれませんか?」

 タンサーは、小さくため息を吐く。

『まあ、良いだろう』

 そんな会話を無視してゼリアが言う。

「貴方は、間違っているわ!」

 ブルーマスターは、自傷気味に言う。

「なんとでも言え、どうせ人間など、神やその使徒の前では、無力な存在なのだからな」

 ゼリアがそんなブルーマスターの顔を掴み、顔を近づけて言う。

「確かに無力です。あたし達、人間は、神の祝福無しに生きていけない以上、神の与えられた死を受け入れるしかありません。だからこそ最後の瞬間、自分が満足出来るかどうかは、自分が生きた人生で判断するしか無いんです」

 ブルーマスターの感情的に反論する。

「所詮、俺は、神の気まぐれで生き、神の気まぐれで死ぬそれだけだ!」

 ゼリアがその怒りの篭った目を真直ぐ見て質問をする。

「一つだけ聞かせてください。貴方は、大切な人を助ける為に、神の召喚した事を後悔していますか?」

 意外な質問に戸惑いながらブルーマスター。

「何が言いたいんだ?」

 ゼリアが言う。

「自分の出来る精一杯の事、それが神の召喚だった筈です。貴方が努力した結果で貴方の育った村が救われたのです。あたしの教会もそうです」

 真直ぐすぎる視線に負けて横を向くブルーマスター。

「だが、どんな努力も神の気まぐれで無駄になる」

 ゼリアが力を籠めて言う。

「無駄では、ありません。例え報われなかったとしても、その思いは、受け継がれます。そして何時か、神に届く筈です」

 ブルーマスターは、何かを求めるようにゼリアを見る。

「俺は、もう一度、神を信じて良いのか?」

 ゼリアは笑顔で答える。

「当然です。神は、深い慈悲の心で常にあたし達を見守ってくださっているのですから」

 ブルーマスターは、涙を流して言う。

「だったら、信じたい。自分達が神に見放されていない事を!」

 その様子を見てタンサーが困った顔をして槍を見る。

『口で話せ、元の姿に戻るくらいの力くらい、吸い取っただろう』

 そして、零の持つ槍が、青い大型の虎の姿に変化する。

 驚くゼリアとブルーマスター。

『私の名は、蒼牙。蒼貫槍の仮初体の欠片から生まれた魔獣です』

 タンサーが言う。

『確固たる存在だからこそ、あの時の壁の中でも平気だったのだ』

 そして、蒼牙は、言う。

『神は、多くの世界を管理している。時には、至らぬ事をする者が居るかもしれない。しかし、信じて欲しい、神は、貴方達を愛している事を』

 タンサーが続ける。

『そうだ、その下級の神も多くの仕事を抱えているのだから、苛立ち事もある、手抜きと思われる事も。しかし、常に人やその世界に生きるもの達の為に働いているのだ』

 ブルーマスターが嬉しそうに言う。

「そうか、俺の勘違いだったのか。本当に良かった。それならば思い残すことは、ありません。どうぞ」

 目を瞑って最後の瞬間を待つブルーマスターにタンサーが言う。

『お前への罪は、死では、償えぬ。天寿を迎えるまで生き、自分の勘違いで犯した事を少しでも直して行くのだ』

 ブルーマスターが神妙な顔で頭を下げる。

「解りました」

 こうして、青魔法結社は、神の慈愛を信じる平和的な宗教団体になっていくのであった。



 帰り道、零の腰に手を回し乗っているゼリアが言う。

「その槍は、神様の眷属なんですね?」

 零が答える。

「その様なお方です。遠い祖先が契約し、それからずっと一族を見守って下さっているのですよ」

 ゼリアが複雑な顔をして言う。

「そんな身近に神が居るのにどうして、死んでも良いと思えるの?」

 零が苦笑する。

「残念ですが私の一族は、貴方達とは、違います。神とて己の大切な者を奪うのだったら力の限り逆らい続ける者にしかならないのです」

「神の愛を信じられないのですか?」

 ゼリアの言葉に零が真直ぐな言葉で答える。

「どんな事より大切な者を護る事を優先する。それが私達です」

 複雑な顔をするゼリア。



 ゼリアを教会に連れ帰った後、零は、そのままバイクで立ち去った。

「レイのお兄ちゃん行っちゃたね」

 孤児院の娘の言葉にゼリアが静かに頷く。

 すると男子が怒鳴る。

「姉ちゃん何で追っかけないんだよ! 好きなんだろ!」

 ゼリアが少し悩んだ後、首を横に振る。

「駄目、あたしには、シスターとしての仕事があるんだから」

「行ってあげなさい」

 神父さんがそう言って来る。

 ゼリアが神父の方を向いて辛そうに言う。

「でも、あたしがいなければ、教会や孤児院が……」

 神父は、一枚の小切手を見せる。

「レイさんから頂きました。これだけあれば、人を雇うことも出来ます」

 それでもゼリアが顔を背けて言う。

「あたしは、シスターなんです。神が必要ないあの人には、あたしは、必要ありません」

 それに対して神父が言う。

「だからこそシスターとしてあの人を正しい神の道を教えるべきなのです。彼には、それが必要なのです」

 ゼリアが顔を上げて言う。

「解りました。絶対に彼を正しい神の道へ導きます!」



『あの教会、お金だけで大丈夫?』

 槍の姿に戻った蒼牙の質問に零が答える。

「あの教会は、青魔法結社が全面的に守護します。零刃新人研修のメニューにもガードを組み込んでもらえることになっていますから、大丈夫です」

『そう。なら後腐れないように、二度と関係を持たないことね』

 零が頷く。

「はい、その方が、彼女達も幸せでしょう」

 そうして、零は、バスを待つ。

『それにしてもバイクは、便利よね。いっそ買ったら?』

 蒼牙の言葉に零が苦笑する。

「あれは、ガソリンが無いと動きませんからね。修行の邪魔になります」

 そんな時、一台のサイドカー付きのバイクが走ってきて零の前に止まる。

「何のつもりですか?」

 不機嫌そうな声で言う零に、バイクを運転していた静太さんが言う。

「すいません、このバイクをゼロさんの所まで運転しろと命令されたもので」

 大きくため息を吐く零。

「何のつもりかは、解らないが、引き返すんだ」

 それに対してサイドカーに乗っていた少女、ゼリアが言う。

「帰りません。このバイクは、ある人との賭けの商品の先払いなんです。ここで引き返したら返さなければいけなくなります」

 零が今回の裏に居る人間を察知して言う。

「ヤヤさんも余計な事を。バイクでしたら私が弁償しますから、大人しく教会に戻って下さい」

 ゼリアは、零の方を向いて言う。

「絶対に嫌です。あたしは、決めたのです。貴方を正しい神の道へ導くと!」

「しかし……」

 何とか説得しようとする零だが、ゼリアは、頑なに受け付けない。

 そんな事をしている間に、静太がバイクから降りて離れていた。

「おい、まさかバイクを置いていくつもりか!」

 零が叫んだ時には、静太は、転送されて居た。

 唖然とする零にゼリアが言う。

「まさか、レイまであたしを置いていきませんよね?」

 肩を落とす零。

『これもまた試練。しかし、必要な試練なのだろうな』

 蒼牙がそんな事を呟く中、零がバイクに跨る。

「帰りたくなったらいつでも言って下さい。直ぐにあの教会に帰れるように手配をします」

 ゼリアが笑顔で頷く。

「レイへの布教が終ったらね」

 零は、複雑な顔をしながら、バイクを走らせ始める。

 こうして、零とゼリアの旅が始まるのであった。

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