HAMBURGER BLUES 第5話ーー漁師とブラックホールマグロ事件
HAMBURGER BLUES 第5話ーー漁師とブラックホールマグロ事件
カラン
カランカラン
beem
今日は静かだね
Walker
店長がそれ言うと必ず事件が起きる
bads
ねぇ
今日の髪型どう
最新のヘアリアコレクションなんだけど
左右非対称の前髪に量子グラデーション入れてみたの
beem
綺麗だね
bads
でしょ
Walker
もう五回聞いたぞ
bads
確認作業だから
cool
……平和ですねぇ……
……すぅ……
次の瞬間だった
カラン
カランカラン
扉より先に
潮の匂いが入ってきた
巨大な防寒コート
片目に機械式ゴーグル
背中には銛
腰には酒瓶
男は静かに言った
「ブラックホール第五漁区から帰ってきた」
Walker
帰ってくる場所間違ってないか
男
「腹が減った」
beem
いらっしゃい
男
「俺の名はガロ」
「宇宙漁師だ」
bads
ねぇ
そのコートどこのブランド
Walker
そこかよ
ガロ
「ブラックホール内部の露店で買った」
bads
欲しい
Walker
買いに行くな
cool
……魚ですかぁ……
ガロ
「魚じゃない」
「マグロだ」
沈黙
beemが目を細める
「マグロか」
ガロ
「ブラックホールマグロ」
Walker
嫌な予感しかしない
ガロ
「重力の歪みで百年育つ」
「脂が宇宙の香りを持つ」
beem
「面白い」
Walker
始まった
ガロ
「魚こそ究極だ」
beem
「いや」
静寂
beem
「肉だ」
Walker
来た
ガロ
「魚だ」
beem
「肉だよ」
ガロ
「海が生命を育てた」
beem
「草が命を育てた」
ガロ
「魚は宇宙を泳ぐ」
beem
「牛は宇宙を食べる」
Walker
何言ってんだお前ら
bads
私は牛柄ファッション好き
cool
……どっちでも美味ければいいですよぉ……
ガロ
「魚は自由だ」
beem
「肉は時間なんだ」
ガロ
「何だそれ」
beemは静かに肉を取り出した
「魚は流れる」
「肉は積み重なる」
「草を食べ」
「季節を越え」
「人が育て」
「火を待つ」
「肉を食べるという行為は」
「時間そのものを噛みしめる事なんだ」
店内が静まる
Walker
格好つけやがって
でも少し分かるのが腹立つ
ガロ
「……」
「面白い男だ」
beem
「魚も好きだよ」
「でも今日はハンバーガー屋だからね」
ガロ
「なら」
「俺に最高のバーガーをくれ」
beem
「分かった」
十分後
テーブルに置かれたのは
WAGYU COSMOS DOUBLE
熟成和牛
炭火焼き玉ねぎ
七種の香草
秘密の黒ソース
beem
「魚を知る人間なら」
「肉の時間も分かるはずだ」
ガロは静かにかぶりつく
沈黙
二口
三口
さらに沈黙
ガロ
「……」
「負けた」
Walker
早いな
ガロ
「魚は旅だ」
「だが肉は帰る場所だった」
beem
「そういう事」
Walker
何だその会話
bads
ねぇ
今の私の服どう
最新の銀河モードなんだけど
ガロ
「綺麗だ」
bads
好き
Walker
単純すぎる
coolがゆっくり目を開ける
「……平和ですねぇ……」
ガロ
「ところで」
「ブラックホールマグロ持ってきた」
全員
は?
巨大な冷凍ケースが開く
中には
乗用車ほどあるマグロ
Walker
デカすぎるだろ
bads
キモっ
beemだけが近づく
静かに表面へ触れる
「……凄いな」
「百年の時間が入ってる」
ガロ
「分かるか」
beem
「分かる」
Walker
何で分かるんだよ
beem
「命は時間だから」
「肉も魚も」
「結局」
「同じ宇宙の別の形なんだ」
ガロ
「……」
「今夜」
「港で飲まないか」
beem
「いいね」
cool
「酒ですかぁ……」
「行きますぅ……」
bads
新しい服着ていく
Walker
結局行くんかい
夜
星屑港
巨大な宇宙船の隣で
全員が酒を飲む
ガロは魚の話をする
beemは肉の話をする
badsは髪型の話しかしない
coolは寝ている
でも誰よりも周囲を見ている
そして
誰もその過去を聞かない
聞く必要がないから
Walkerは静かに酒を持ち上げる
「魚も」
「肉も」
「結局は命の話だった」
「旅する命か」
「積み重なる命か」
「違いはそれだけ」
「だから多分」
「今日もまた」
「ベラの夜は少しだけ優しい」
乾杯
遠くで宇宙漁船の警笛が鳴る
そして明日も
カラン
カランカランと
誰かがWAGYU BURGERの扉を開ける




