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エルフの鍛冶屋―ねぇ親方― (世界の不思議を語り合う、1話完結の雑談ファンタジー)  作者: ぱられ


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特別編 親方の旅路

炉の炭の中へ鉄材を差し込み、風魔法でゆっくりと温度を上げる。


炭はオレンジ色から、少しずつ白みを帯びた黄色へ変わっていく。


まだ早い。


もう少し。


色を見極め、良いところで鉄を引き抜く。


バシン。


バシン。


バシン。


温度が下がる前に槌を振り下ろす。


粘土を叩くような音。


飛び散る火花。


熱された鉄と炭の匂い。


私はこの時間が嫌いではない。


変わり者の鍛冶屋のエルフ。


最初にそう呼ばれたのは、いつのことだっただろう。


国を出た頃の私は、人が作るものなら何でも面白く見えた。


料理。


彫刻。


木工。


見かければ教わり、興味があれば挑戦する。


その中のひとつが鍛冶だった。


「エルフのやることじゃない。」


そんな言葉への反発もあったのかもしれない。


当時の私はまだ若かった。


向いていないと言われると、挑戦してみたくなる。


始まりはそんな理由だったように思う。


だから他の技術より少しだけ意地になって打ち込んだ。


始まりはどうあれ、真剣に向き合うと鍛冶は楽しかった。


非力故に大きな武具は苦手だったが、


繊細な細工はすぐに認めてもらえるようになった。


それからは様々な国の鍛冶屋を訪ねては、


自分の作品を見せ、


工房を間借りし、


路銀を稼ぎながら新しい技術を学んでいった。


旅は大変だった。


それでも毎日が新鮮だった。


知らない土地。


知らない文化。


知らない素材。


時には友人と呼べる人もできた。


だがエルフの国の外で知り合うのは、ほとんどが短命の種族だった。


仲良くなるほど怖くなるのが別れだ。


だから私は、あまり長く同じ街には居ないようにしていた。


興味の赴くまま旅を続けているように見えて、


本当は人と深く関わることから逃げていたのだと思う。


そうして何十年、何百年と旅を続けた。


ある頃から、ふと思うようになった。


あの街の鍛冶屋は今どうしているだろう。


魚の美味しかったあの食堂は、今も変わらない味なのだろうか。


海辺で泳げないと泣いていたあの少年は、漁師になれただろうか。


そんなことばかり考えるようになっていた。


気付けば、新しい街へ着いても昔ほど胸が躍らなくなっていた。


そんな胸の奥の引っ掛かりは、


やがて仕事にも現れるようになっていく。


周りが気付くようなものではなかったと思う。


だが私は、自分の作る物に納得できなくなり始めていた。


そんなことを考えながら訪れたこの国で、


私はある街の噂を耳にする。


国の辺境にある自然に囲まれた交易都市。


大きな街から離れているため娯楽は少なく、退屈な街。


だが立地を聞くと鍛冶には理想的だった。


森が近く木材が豊富。


大きな運河と湖があり水も豊富。


上流には鉱山。


下流には製鉄の街。


素材にも恵まれている。


仕事だけを考えるなら、


下流の製鉄の街の方が魅力的だったかもしれない。


それでも何故だか、その街が妙に気になった。


私はその街を訪れた。


いつものように鍛冶屋を探し、


いつものように迷子になった。


最初に声を掛けてきたのは紳士風の老騎士だった。


兵士という立場上、最初は警戒されていたようだが、


身元不明のエルフにも驚くほど丁寧に接してくれた。


街で一番大きな工房を営んでいたのは偏屈なドワーフだった。


口数は少なかったが、


私の作ったナイフを一目見ただけで仕事を認めてくれた。


その工房を間借りしながら市場で商品を売り、


偶然紹介された農家の家を買い取り、


少しずつ工房を作っていった。


仕事場を自宅へ移した頃には、


賑やかな薬師が面倒な依頼を持ち込むようになった。


細工を得意としていたことが気に入られたらしい。


そうして街で鍛冶屋として働き始める頃には、


街の人達も変わり者とは思いつつ、


自然と受け入れてくれている空気を感じるようになっていた。


鉄材商は珍しい素材を取り置いてくれるようになった。


パン屋はたまにおまけを付けてくれるようになった。


市場を歩けば色々な人が声を掛けてくれるようになった。


仕事で訪れた孤児院で出会った少女は去年シスターになった。


土地に根を張って暮らすことで、


人との繋がりを心地よく思えるようになっていた。


もちろん、この十年の中では別れもあった。


珍しい素材を取り置いてくれていた鉄材商のおじいさんも数年前に亡くなった。


今では息子さんが店を継ぎ、


変わらず珍しい素材が入ると声を掛けてくれる。


もちろん悲しかった。


寂しいとも思った。


それでも街のみんなと同じように弔い、


同じように日々を過ごしていく中で、


別れもまた人の営みの一部なのだと自然に受け入れられた。


きっと街のみんなが私を受け入れてくれたことで、


私も街の一部になれたのだろう。


私は人との別れを恐れ、


深く関わらないよう旅を続けていた。


そうして街を離れた後になって、


昔の知り合いや街のことばかり気になっていた。


胸の奥の引っ掛かりは、


旅を続けることでは消えなかった。


その街で根を張り、


その街の一部として生きる。


ただ、それだけで良かったのだと、


最近になってようやく思えるようになった。


もちろん、それは結果論だ。


この街の一部になりたいと思えたのは、


間違いなくこの街で出会った人達のおかげだった。


そう思えるくらいに、


この街は私にとって「自分が居たい場所」になっていた。


これからも沢山の出会いと別れがあるのだろう。


それでも私はもう逃げない。


こんなふうに思えるまで、


数百年も掛かってしまった。


人間から見れば随分と歳を重ねているのだろう。


それでも私の心は、


ようやく幼い頃の未熟さを少しだけ卒業できたのかもしれない。


物思いに耽っている間に、


手の中では一枚のフライパンが出来上がっていた。


無心ではなかったと思うのだが、


なかなか悪くない出来だ。


炉の横へ置き、


少し涼もうと工房の扉を開ける。


そこには見慣れない子供が、


炭の入った箱の前へしゃがみ込んでいた。


平民の身なりだが、


きちんと洗濯された綺麗な服。


孤児院の子だろうか。


辺りを見渡しても、それらしい大人の姿は見当たらない。


「迷子かな?」


そう声を掛けると子供が振り返る。


好奇心に満ちたその目は、


どこか懐かしさを感じるものに見えた。


終


7月25日(土)20時より、本作の設定をベースにした長編連載を開始します。

親方と少年のその後を描く、親方目線の一人称小説です。


※本作は note にも掲載しています。

※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。

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