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第九話「注目の的になりました」

お待たせしました。第九話です。

攻略対象からのプロポーズ……危険な予感がします。

「…………まあ! ……ナ様あ! ルーナ様あ!」


 突如として意識に突き刺さる掛け声に俺は目を覚ました。体を起こしてまだボヤける視界で辺りを見回すと、そこは俺の部屋だった。


「ルーナ様、まだお具合悪いですかあ? 昨日の”アレ”から今朝まで随分うなされていたようですが……」


 心配そうにカリアが覗き込んでくる。”アレ”とはなんだったか。少々記憶が混濁しているので、記憶を整理してみることにした。確か俺は昨日裏庭に呼び出されて……その呼び出したやつがギース王子で……そのギースに俺は……あ。

 思い出したくもない事実を思い出してしまった俺は、再びベッドに倒れ込んだ。何故悪役令嬢であるはずの俺が攻略対象に、あろうことか第二王子のギースに婚約を迫られたのだろうか。本来ならギースはメリアと結ばれるはずなのに。入学式の日にメリアとギースが会えなかったことでゲームのシナリオから大きく逸脱してしまっているのは分かるが、ルーナを破滅に追いやる1人が近くにいるなんて不安でしかない。だが王族からの婚約を断ろうものなら、それこそ極刑は免れないだろう。本来のシナリオよりも早く退場するなんてまっぴらごめんだ。

 幸い、あの場にはカリアも含めた3人しかいない。なのでこのことは公にはならないだろう。熱りが冷めるまでやり過ごせば、後は時間が解決してくれるだろう。

 よし、そうと決まればこのことは一旦忘れて、まずは朝食だ。今日からは登校日。初日から遅刻はまずいだろう。カリアが早急に作ってくれたサンドイッチを素早く胃に詰め込み、俺は部屋を後にした。


 寮は学園の敷地内にあり、学園との距離もそこまで遠くない。ルーナの身体能力でも歩いて5〜6分程だ。クラスは入学式の時に支給された学生証に記されている。俺は3組らしい。早速教室へ向かおう。


「あ……あの方がそうじゃない?」


「本当にあの方なの? とてもそうは見えないけど……」


「でも実際にアレを見た人がいるのよ」


 ……俺が廊下ですれ違う生徒たちが、何やらヒソヒソと噂話をしている。好奇か、はたまた別の感情か、周りからの視線を痛い程感じる。やはりパーティの件で目立ちすぎたか。まあ気にしても仕方ないので、そのまま教室へ向かうことにした。目当ての教室に近づくと、廊下でメリアとマルシアが話しているのを発見した。昨日以降、2人はすっかり仲良くなったようだ。向こうもこちらに気づいたようで、小走りで駆け寄ってくる。


「2人とも、ご機嫌よう」


「ご……ご機嫌ようですわ、ルーナ様……!」


「おはようございます……」


 どういうことなのか、2人の挨拶に歯切れの悪さを感じる。2人もみんながしている噂話を聞いたのだろうか。だが2人はあの件の当事者だ。今更こんな態度にはならないだろう。理由が分からないでいると、マルシアが勇気を振り絞るように「あの!」と俺に問いかけてくる。


「ルーナ様! ギース様とは、一体どういうご関係なのですか?!」

 

「え? 関係? どういう意味かしら?」

 

「私は直接見ていないので分かりませんが、ギース様がルーナ様を抱えてルーナ様の部屋に入っていったと目撃情報があるみたいです。そこから、お2人は密接な関係にあるのではないかという噂が広がってしまったようです」


 メリアからの説明を聞いた俺は思わず膝から崩れ落ちてしまった。なんてことをしてくれたんだ、あのイケメン王子は……。確かに俺は気づいたら自室のベッドで寝ていたが、あれはてっきりカリアが運んでくれたものとばかり思っていた。仮にも次期国王候補筆頭が、そんな軽率な行動をとって良いのか?お陰で今朝立てた計画が台無しではないか。……あいつには後で文句をたっぷり言ってやろう。そう決意した俺はなんとか体勢を立て直し、必死に言い訳を探す。


「こ、転びそうになったところをギース様に助けてもらっただけです。あの方と私は、そういう関係では一切ございません! そんなことよりほら、早く行かないと遅刻――」


「せっかく倒れたところを優しく介抱してあげたのに、そんな言い草は無いんじゃないか? ルーナ嬢」


「ひゃああああ!」


 不意に背後から声をかけられ、思わず驚愕してしまう。俺のことを「ルーナ嬢」と呼ぶのは1人しかいない。


「……あらギース様。ご機嫌よう」


「うん、おはよう。それにしても彼女の言っていたことは本当だったんだね」


「彼女? 一体誰から何を聞いたのです?」


「ああ。君が気を失っている間に、君の使用人……カリアといったかな? から色々聞かせてもらってね。彼女曰く、驚いた時の声が普段とギャップがあって可愛いとのことだったから、つい聞いてみたくなってしまったんだ」


「――!」


 あまりの羞恥心に耐えられなくなる。カリアには2度とそれを言うなと釘を刺しておいたばかりなのに、もうギースに話しているとは。ギースの話術によるものなのか、単にカリアが口を滑らせたのか……これも後で問い詰める必要がありそうだ。頭を抱えていると、ギースが言葉を続けた。


「あ、そうだ。昨日のことだけど、返事はまだしなくていいよ」


「え? よろしいのですか?」


「うん。興味を惹かれたとはいえ、君は僕のことをよく知らないはずだ。だからこれから学園生活を送り、僕の人となりを知った上で答えを聞かせてくれ。君からの返答、楽しみに待ってるよ」


 そう言い残すと、ギースは教室に向かっていく。ひとまずこの場は凌げたが、いずれは答えを出さなければならない。ここの選択は、俺の運命を大きく変える――そんな予感がした。なんとも言えない緊張感を覚えた俺は、改めて教室へ向かおうとマルシアとメリアの方に振り向くが、ギースとのやりとりを一部始終見ていた2人の目がキラキラ輝いていたのは言うまでもない。

最後までお読みいただきありがとうございます!

第十話は22日投稿予定です。

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