第八話「呼び出しを受けました」
お待たせしました、第八話です。
一難去ってまた一難……ルーナの身が持つか心配です。
あのパーティから一夜明け、入学式も何事も無く終了した。そんな俺は今何をしているかというと……
「ふう……これでモップ掛けは終わりね」
トイレを掃除していた。理由は言わずもがな、パーティでの騒動に対する罰だ。最初は俺とメリアを虐めていたやつら全員に厳罰が下されるところであったが、メリアやマルシアが必死に弁護してくれたのもあって情状酌量となった。だが流石にお咎め無しとはいかない様で、無断で魔術を使用した罰として1週間学生寮のトイレ掃除を命じられたのだ。本来ならこれは俺1人でやらなければならないはずなのだが……。
「……ところで、何故貴方たちもここにいるのかしら?」
そう。何故かメリアとマルシアも一緒にトイレ掃除をしているのだ。彼女らに罰は下されていないはずなのだが。どういうことか訳を聞いてみると、こう返ってきた。
「魔術を使用した罰というのならば、私にも当てはまるはずです」
「喧嘩を止めるようルーナ様を駆り立てたのは私ですから……何もしないのはばつが悪いのです!」
全く、どうしてこう俺の周りにはお人好しが集まるのだろう。今更追い返す訳にもいかないし、正直1人で細々と掃除をするのは心身共に堪える。ここは厚意に甘えるとしよう。
2人の助力で想定よりも早く今日分の掃除を終わらせた俺は、足早に部屋に戻った。多少成長したとはいえ、ルーナの身体機能ではトイレ掃除も十分肉体労働だ。かなり足腰に疲労が溜まっている。部屋の前で待機していたカリアにお茶を淹れるようにだけ伝え、俺はベッドに倒れ込んだ。
程なくして、微かな香りが俺の鼻腔をくすぐる。どうやらお茶の準備ができたようだ。まどろみそうになった体を起こして席に着き、改めてカップに注がれたお茶の匂いを嗅ぐ。フルーティーなこの香りは……
「これは……カモミールかしら?」
「ご名答ですう! カモミールにはリラックス効果があるので、掃除で疲れ切っているルーナ様の為にご用意させてもらいましたあ! 飲みやすいようにハチミツも少々入れてますよお!」
正直、浩二郎の時は紅茶やハーブティーはあまり好みではなかったが、カリアの淹れてくれるものは格別だ。カリアはこの9年間で俺の嗜好を完全に理解し、温度や味の調整も完全に俺好みにしてくれている。更にはその時の俺に合ったお茶の選定まで完璧。最初はアホの子すぎて心配だったが、今ではとても頼もしい、俺の自慢の従者だ。
「あ、そうだルーナ様! ルーナ様にこれを渡してほしいと、手紙を預かっていますよお!」
お茶を嗜む俺にカリアは手紙をそっと差し出す。受け取って見てみるが、差出人の名前が見当たらない。
「これは……一体誰から受け取ったのかしら?」
「それが、よく分からなかったんですよお。頭からローブを羽織っていて顔は全く見えませんでしたし、渡したあとは逃げるように走っていってしまったので……」
差出人不明……その時点でもう頭の中が不安でいっぱいだったが、恐る恐る封を開けて中を確認してみる。入っている便箋はどうやら1枚だけのようだ。便箋にはこう書いてあった。
「夜7時、学生寮裏庭にて待つ」
……いや果し状か何かか?と思わずツッコミたくなる。仮にも公爵家の俺をたった一言で、しかも人気の無い裏庭に呼びつけるとは一体何者なのだろうか。もはや怪しくないところを探すのが難しいくらいなのだが、あからさますぎる怪しさに逆に興味が湧いてきた。
幸い「1人で来い」とはどこにも書いていないので、カリアにも付いてきてもらうことにした。そもそも、貴族の娘が護衛も付けずに歩き回るというのも危機感が無さすぎるというものだろう。
学生寮の裏庭は様々な草花で彩られており、昼休憩や休日には学生たちで賑わっているらしい。だが、夜の時間帯は人の気配は一切感じられず、不気味さすら感じられる。
そんな裏庭に着いた俺たちは、程なくしてベンチにローブを纏った人影を見つけた。薄暗がりな時間というのも相まって顔はほとんど見えない。だが、カリアがその姿を確認して警戒態勢をとったのを見るに、あいつが手紙を差し出した張本人なのだろう。俺も油断はしまいと睨みを利かせる。
向こうもこちらの存在に気付くとベンチから立ち上がる。ルーナも女性にしてはそこそこ身長がある方だが、向こうはそれよりも遥かに身長がある。ローブの中身が男であることはほぼ確定だろう。
「やあルーナ嬢、呼び出しに応えてくれて感謝するよ。だがそんなに警戒しないでおくれ。僕はただ君とお話がしたいだけなんだ」
「……!!」
この透き通るように美しく、慈悲深ささえ感じる声。――間違いない。こんな声の持ち主は1人しかいない。
「王子からのお呼び出しとあらば、すぐに駆けつけますわ。ギース様?」
「おや、バレていたのかい? さすがはルーナ嬢といったところかな。ならばもう、このローブは必要無いね」
そう言いながらローブを脱ぎ捨てると、中から金髪にスカイブルーの瞳を宿すザ・王子様という風貌の青年が現れる。彼こそが、この国の第二王子にして月プリの攻略対象の1人、ギース・クロムウェルその人だ。となると、聞かずにはいられないだろう。何故ギースは俺を呼んだのか。
「ところでギース様。こんな時間に、私めにどういったご要件で?」
「さっきも言っただろう?僕は君と話がしたかっただけなんだ。昨日のパーティのことを聞いたら俄然、君に興味が湧いてね。無断で魔術を使ったとはいえ、他人を庇うというのはそう簡単にできることじゃないよ」
「は、はあ……。ありがとうございます……」
揃ってベンチに座ると、あの騒動の件含めて本当にただひたすら会話を続けるギース。次第に俺も警戒は杞憂に終わったと判断し、ギースとの会話に興じた。しばらく会話のラリーを続けたところで、再びギースが口を開く。
「思っていた通りだ。ルーナ嬢と話すと心が踊るよ」
するとギースは改めて俺に向き直り、手を差し伸べる。……なんだろう、ものすごく嫌な予感がする。
「君は良い意味で、他の貴族たちとは決定的に違う何かを持っているような気がする。だからこそ、僕は君に興味を持ったのだろう。……ルーナ・カトラス嬢。僕の婚約者になるつもりはありませんか?」
「……は?」
――なんで悪役令嬢であるはずの俺が攻略対象に婚約を迫られているのか。ギースの言葉を受け入れきれなかった俺は立ちくらみのようなものを覚え、気づけば目の前が真っ暗になっていた。
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第九話は19日投稿予定です。




