第七話「友達が1人増えました」
お待たせしました、第七話です。
ストーリー初のハプニング回。果たしてルーナの運命は……
先ほどまで和やかな雰囲気だった会場が、一瞬にして静まり返る。俺を含めた会場にいる全員の視線の先には、白髪の少女を数人が取り囲むというお世辞にも穏やかとはいえない光景だ。斯く言う俺も白髪の少女から目を離せないでいる。何を隠そう、あの白髪の少女こそが『月プリ』の主人公『メリア・クエリー』その人なのだ。
「ちょ、調子に乗っているつもりは毛頭ございません! 私はただ皆さんと良好な関係を築きたいだけなのです!」
「それが調子に乗っていると言うのよ! 希少な魔術適性があるとはいえ、貴族が通うこの学園に一般庶民が入って来るというのはお世辞にも良い気分ではありませんわ!」
メリアも必死に対抗しているが、彼女を取り巻く令嬢たちの威圧感に少々気圧されているようだ。なんとかしてやりたい気持ちは山々だが、つい先ほど関わりあうのは止めると決めたばかりだ。ここで出しゃばればメリアに俺の存在を知られるのは火を見るより明らかだろう。
と、そこまで考えた時点で何やら横から痛い程の視線を感じる。視線を感じる方に顔を少し向けると、茶色の瞳をキラキラに輝かせたマルシアが俺を見つめていた。……嫌な予感がするのは俺だけかな?
「えっと……マルシア? そんなに見つめられても困るのだけれど……」
「あ、これは失礼しましたルーナ様。ルーナ様ならこの状況も簡単に解決できるだろうなあと思っていたばかりについ見入ってしまいましたわ」
マルシアは小声でそう謝罪すると、再び羨望の眼差しで俺を見つめてくる。これはもう、俺にあの騒動を止めてくれと言っているようなものだ。俺が行くまで止めないだろう。かなり気は進まないが、マルシアの期待は裏切れない。
さて、やると決めたからにはきちんと遂行しよう。まずは場の流れをこちらに引き込もう。あの空気の中に部外者がズカズカ入るのも違う気がするし、その方が主導権を握りやすいだろう。それには……これが最適かな。
俺はゆっくり立ち上がり、静かに指を鳴らした。俺が扱える闇魔術の初級技『眷属召喚』の合図だ。その合図に応えるように漆黒の鳥型の生物が姿を現し、俺の肩に乗る。種族名は『オニキスバード』。知力が高く、魔力量の多い者に従うとされている。鳴き声と見た目が俺が元いた世界のカラスにそっくりだったので、名前は『クロウ』にした。安直なネーミングセンスなのは重々承知だ。
「クロウ。この部屋の中を鳴きながら数周して、私の下に戻ってきなさい」
小声で命令するとクロウは勢いよく翼を広げ、やかましい程の大声で鳴きながら周囲を飛び始めた。屋内に鳥が現れたら誰だって注目するだろう。俺の目論見通り、会場の全員がクロウに釘付けになった。
少しのざわめきと共に視線を独り占めしたクロウは、3回ほど部屋の天井近くを回って俺の肩に帰ってくる。今度は俺がクロウに向けられていた視線を一身に受け、メリアたちのいる場所へ歩き出す。
「貴方たち。これから同じ屋根の下で勉学に励む学友を寄って集って虐めるというのは、淑女として相応しい行動なのかしら?」
「淑女も何も、そもそも平民であるこの者こそがこの場に相応しくないのです! それに、この高貴なる会場に小汚い鳥を連れ込んできている貴方こそ、この場に相応しくないのではなくて?」
「わ、私のクロウが……小汚い……ですって……?」
……キレた。この発言はいくらなんでも許せない。眷属召喚で呼ばれる眷属は、召喚主の性質に影響を受けやすい。つまり、クロウを馬鹿にされるのは、俺自身が馬鹿にされているのと同じだ。憤りに気づいたクロウやマルシアが俺を落ち着かせようとあたふたしていたが、その時の俺はそれに気づける余地は無かった。
怒りと共に込み上げる魔力をこれでもかと練り上げ、それを全身に纏わせる。闇魔術の上級技『デモンオーラ』。オーラによる威圧感、重圧感で敵の戦力を削ぐ。上手くオーラを制御しないと味方にも影響が及ぶ為、上級の中でも更に扱いが難しいとされる。だが、標的は間違えない。小汚い発言をしたやつとそいつを取り巻く連中に向かって少しずつ歩を進める。そいつらから見れば俺は、きっと異形の者の様に見えていることだろう。腰を抜かす者、泡を吹いて卒倒する者が現れる。
既に彼女らの意気はすでに消沈しきっているが、俺の腹の虫が依然収まらない。更に魔力を上げようと意識を集中しようとした――が、突如としてオーラが薄れる感覚に襲われた。何事かと周囲に目をやるとメリアが俺に両手を向けているのが見えた。回復効果のある聖属性魔術だろうか。聖属性の魔術のことも調べた時期があったが、資料が少なすぎてほとんど分からなかった。だが、聖属性と闇属性の魔術はそれぞれ、互いを相殺する相性にあるということだけは分かった。
それを知ってか知らずか、メリアは俺に向かって魔術を放ち続ける。だが、メリアはゲームで言えばまだレベル1。魔力も乏しく、魔術も基本中の基本技しか扱えないだろう。およそ9年間鍛え続けた俺とは雲泥の差があるはずだ。踏ん張っている足が震え始めているのも、魔力切れが近いからだろう。それでも彼女は必死に俺を止めようとしている。その懸命さに心を打たれたのもあるだろうか。俺は徐々に冷静さを取り戻すことに成功し、デモンオーラを解除した。
「貴方が止めてくれたのね。心より感謝しますわ」
「いえ、感謝したいのは私の方です。私を……助けようとしてくれていたのですよね?」
互いに労を気遣い、クスリと笑い合う。そこに俺は確かな友情を感じ取ることができた。その後すぐ騒ぎを聞きつけた警備兵や俺の魔力を感知した教職員らが駆けつけてきてこっ酷く叱られたのは言うまでもないが、無干渉という当初の目的から友好的な関係を築けたのであれば結果オーライだろう。
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第八話は16日投稿予定です。




