第二十二話「先祖と邂逅しました」
お待たせしました、第二十二話です。
暗闇で待ち受けるものとは……
昼下がりの図書室にいたはずの俺たちだが、気づけば辺り一面真っ暗な状態に陥ってしまった。お互いに至近距離でないと見失ってしまいそうな程だ。
「ギャア……」
あまりの状況変化にクロウも戸惑いを隠せないようで、慌てて俺の左肩にやってくる。クロウを落ち着かせようと軽く顎を撫でてやるものの、そんな俺も内心は穏やかではなかった。
いつまで続くか分からない暗闇に俺もだんだん不安が積もりはじめた。俺の開いたあれは極意書に見せかけた偽物――なんていう考えすらも浮かんでしまうほどだ。
そう考えていたのも束の間、やがてその暗闇空間に変化が訪れる。
「闇の極意書を開きし者よ、我の声が聞こえるか……」
「……誰だ?」
今までに聞いたことのない、幻想的な声が俺たちの脳内に響き渡った。正体は分からない――が、何故だか嫌な気分にはならなかった。
だが、その一言だけでその後は姿1つすら見えない。やがて何の音沙汰も無くなってしまったので、痺れを切らした俺はその声に問いかけた。
「……あのー、そろそろ姿を見せてくれたっていいんじゃないですかね?」
「……む、やけにキョロキョロしていると思ったら我の姿が見えない状態だったか。これは失礼。では……これでどうだ?」
そう告げると俺たちの目の前がぼんやりと光り始めた。やがてその光の輪郭が揺らめき、1人の女性の姿を結んだ。
「どうだ? これで見えるであろう?」
「ああ、これで見え……って、はああああ?!」
俺の目の前に現れたのは、黒髪の長髪に黒い瞳――まさしくルーナにそっくりな女性だった。考えられる可能性は……。
「……生き別れの双子?」
「そうそう、この本の中に閉じ込められていてね。こうしてやっと妹と再開……ってそんなわけ無いでしょうが!」
錯乱状態な俺の大真面目なボケを盛大なツッコミで返してくれるルーナのそっくりさん。……意外にもノリが良いようだ。
「全く、何だかお主と話すと調子が狂ってしまうな……ゴホン。では気を取り直して自己紹介をば。我はユエ・カトラス。会えて嬉しいぞ、ルーナ・カトラス――我が子孫よ」
「……子孫?」
思わず耳を疑いたくなるが、あながち間違いではないだろう。茶髪の父と金髪の母の間に生まれたルーナが何故黒髪だったのか疑問だったが、いわゆる先祖返りだったのか。
「……まあ混乱するのも無理はないだろう。我はお主の何代も前のカトラス家夫人だ。お主やお主の父母が知らなくても当然だ。何せ我は……」
「あ、いや……それは分かったんですけど、せめてこの状況がどうなっているのかを説明してくれません?」
もう情報で頭がパンクしそうなので、要点だけ聞くことにした。ユエと語る女性は少し不服そうな顔をするも、やがて「良いだろう」と語り出した。
「まず最初に言っておきたいことは、我はお主と同じ闇魔術の使い手だ。お主の時代は分からぬが、我の時代はそれはもう闇魔術への風当たりが強くてな。せっかく希少な魔術適性を持って生まれたというのに、立場もあって中々この力を振るえずにいたのだ。だが、このまま我の魔術を腐らせるのは実にもったいないと思い、何か良い案は無いかと考えた。その結果がこの本だ。この本には我の技術や思いを余すことなく記した。だが、それではちゃんと適性持ちに届くか分からん。それで外見は普通の魔術参考書だが、闇魔術の高い適性を持って生まれた者が触れると真の姿が現れるという細工を施したのだ。ちゃんとできているか少々不安だったが、上手く作動したようで何よりだ!」
「えっと……じゃあ、この空間は?」
「ただ記しているだけでは味気無いだろう?だから開いた者が入り込めるような残留思念を残しておいたのだ。だが長い年月が立っていた故に完全に形になるまで時間がかかってしまった。しばらく我が姿を見せられなかったのもそれが原因だろう」
ユエが作者なのであれば、極意書がカトラス家にあったのも納得だ。
そしてサラッと言っているが、魔力が流れることで解除される細工、長い年月が過ぎても残り続ける残留思念。並大抵の魔術使いには真似できる技ではない。……ユエ・カトラス。こいつは一体どこまでの実力者なんだ。
「……話が長くなってしまったが、我から言いたいことは1つ。この極意書を用いて、更なる高みを目指すのだ! ……まあ、我の魔術が理解できればの話だがなあ?」
まるで俺の考えを見透かすかのようにユエはほくそ笑んだ。だがこのまま引き下がるわけにもいかない。前にも言ったが、言われっぱなしは性に合わない。
「……分かった。極意書の魔術なんてすぐ習得して、すぐあんたなんか抜かしてやる!」
「ほほう。てばそれが口先だけでは無いことを楽しみにしているよ。では――」
そこまで言ってユエは口を閉じる。そしてユエはクロウの方に視線を向け、再び口を開いた。
「ルーナ。そのオニキスバードの名はなんという?」
「……クロウ」
「そうかクロウか。いい名前だ。……くれぐれも相棒は大切にな。クロウも、ルーナをよろしく頼むよ」
「ギャアアアアア!」
ユエの声に、クロウは今まで聞いたことがない程の大きな声で鳴いた。そこに俺は妙な引っかかりを覚えた。
「なあ、あんたはクロウと――」
しかし、俺の記憶はそこで途切れており、気付けば図書室の机にクロウと共に突っ伏していた。
その頃にはもうすっかり夕陽が眩しく照り始めていた。すっかり寝落ちして不思議な夢でも見ていたかと錯覚しそうになるが、本の裏表紙に小さく書かれていた『ユエ・カトラス』の文字を見れば、それが錯覚では無いことは明白だった。
「絶対ものにしてやるからな……!」
ユエに鼻で笑われないためにも、あいつが遺した闇魔術の真髄を全て頭と体に叩き込んでやる。そう決意を固めた俺は、改めて極意書の表紙を開いた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
次回は4月2日投稿予定です!




