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第十九話「早速やらかしてしまいました」

お待たせしました、第十九話です。

ギュランには慎重に相手しなければならないのですが…?

 さて、上手く交流するには第一印象は重要だ。先ほどコニーにも挨拶をするよう言われていたので、ここは母に叩き込まれた作法を存分に披露しようではないか。


「お初にお目にかかりますわ、ギュラン様。これより魔術研究部に入部いたします、ルーナ・カトラスと申します。以後、お見知り置きを……」


 片脚を軽く内側に引き、もう片方の脚の膝を軽く曲げながらお辞儀をする。『カーテシー』と呼ばれる挨拶方法だ。古くから王侯貴族に伝わる挨拶で、月プリの世界でもこのやり方が伝統とされているようだ。姿勢の正しさ、曲げる膝の角度……ソニアの教えは細部にまで至っておりなかなか骨が折れた。


 俺の挨拶を見た3人は何も言わずに固まったままとなっている。もしや俺の完璧すぎる挨拶に見惚れたのかな?とも一瞬思ったが、やけに空気が重く感じる。……あれ?何かやらかしてしまったか?

 そんな空気のなか、発言したのはギュランだった。


「ルーナ・カトラスと言ったか。俺と君は初対面のはずだが……」


「え、ええ。そうですわね。……えっと、それが何か?」


「分からないか?では俺から問おう。……なぜ、俺の名前を知っている。俺は君みたいな有名人という訳でもないから、初対面では俺の名を知る由は無いと思うのだが」


「え……えっと……それは……」


 ……しまった。そういえばこの一連のやりとりで、俺とメリアは一度も『ギュラン』という名前を聞いていない。ギュランのことを考えすぎていたのが原因か、つい口が滑ってしまったようだ。

 コニーから聞いたと言い訳しようとも考えたが、見るからに驚きの表情をしているコニーの顔を見れば、それは無いのは明白だろう。


 間違えてはいけないと決意したばかりだというのにいきなりピンチに陥ってしまった。このままだと完全に怪しい奴判定だが、何か良い案は無いものか……。


「ギュラン様、待ってください!」


 意外にも、助け舟を出してくれたのはメリアだった。だが、何を考えてメリアは発言したのか俺には分からなかった。期待と不安半ばずつで、メリアの発言を待った。


「確かギュラン様は、魔術に関する論文を書かれていましたよね? 武闘大会の前、図書室で魔術の資料を集めていた中に確かギュラン様のものもあったと記憶しています。きっと、ルーナ様も目を通しているはずです。ですよね、ルーナ様?」


 そう言ってメリアは俺の方を見つめてくる。確かに、武闘大会の前は実技だけでなく図書室での座学も行なった。その際は学園に残っていた文献もいくつか目を通した記憶もある。文献には著者の名前と顔写真が載っていたのは微かに覚えてはいるが、俺は内容ばかりでそちらをあまり見ていなかった。

 だが、それを手伝っていたメリアは偶然か否か、ギュランの名前と顔を目にしていたのだろう。ここはメリアを信じて乗るしかない。


「……そう、メリアのおっしゃる通りですわ! 私が目にした文献は、どれも素晴らしい内容であったと記憶しています。ギュラン様のものも、それは参考になりましたの」


「確かに、俺は文献を書いている。参考になったのであれば何よりだ。……では、どんな内容だったかは覚えているか?」


 ギュランの疑問も尤もだろう。俺たちが当てずっぽうで答えた可能性だってゼロではないのだ。……まあ、俺はほとんどそれに等しい状態なのだが。

 しかし、せっかくメリアが渡してくれたパスを台無しにするわけにはいかない。なんとか記憶を振り絞って答えを探す。

 先ほど話した通り、俺は文献著者の写真はチラ見した程度だ。だが、この世界での黒髪は珍しい。俺の記憶が正しければ、俺たちが漁った文献の写真で黒髪は1人だけだったはずだ。その内容は……。


「現在普及している魔術と魔力消費の効率、またそれに基づいた改善案……でしたわね?」


 実際この文献はかなり役に立った。ゴーストステップをものにするにあたり、如何に魔力消費を抑えて魔術を扱うかが詳しく書かれていた。闇雲な練習をする前にこの文献に出逢えて本当に良かったと思っている。


「なるほど、良く分かった。ルーナ・カトラス、君を試すような真似をして申し訳ない。大会優勝者が一体どういう人物なのかを見てみたかったのだ。……改めて、ようこそ魔術研究部へ。歓迎しよう」


 なんとか危機は脱したようだ。頭が真っ白になっていたところを救ってくれたメリアには、後でお礼をしておこう。


「……では早速だが、改めて君たちの魔術を見せてもらうとしようか。俺の魔術もそこで披露しよう」


 こうして、晴れて魔術研究部の一員として認められた俺たち。まずはお互いのことを知るべく、魔術披露会を行うこととなった。

 演習場に移動し、俺、メリア、コニーはそれぞれギュランに魔術を披露した。3人とも稀有な魔術適正持ちということもあり、発言こそ無かったがギュランの目は輝いているように見えた。

 そして最後、いよいよギュランの番となった。ギュランは確か、火と水の魔術適正があったはずだ。そして文献を残せるほどの実力者だ。当然その扱いも折り紙つきだ。


「フン……!」


 ギュランが魔力を込めると、左手から火魔術の上級技『バーンブラスト』、右手から水魔術の上級技『ハイドロキャノン』を放出させる。魔力消費が激しい上級技を1度に2つ、しかもそれを片手で扱うその技量には恐れ入る。

 

 だが、これだけの強さを目の当たりにすればこの質問をせずにはいられない。メリアもそれは同じだったようで、魔術を放ち終えたギュランに問いかけた。


「あの、ギュラン様。それだけの実力をお持ちなのに、何故武闘大会には出れなかったのですか?」


 そう、正直魔術の扱いだけで言えば俺やコニーよりも上だろう。ジェイドとの闘いも、俺みたいに小細工せずとも真正面から魔術を放つだけで勝てたはずだ。代表者に選出されていないのは不自然だろう。

 メリアの問いにギュランはしばらく黙り込み、やがて溜め息をつきながらこう答えた。


「……俺は、目立つのが大嫌いなんだ。この魔術研究部の部長という座も、俺の他に2年がいなかったから仕方なくやっている。部員を勧誘するにも、このみてくれでは悪い意味で目立ってしまうからな。正直君たちが来てくれて本当に良かったよ」


 項垂れながら答えるギュランに、俺は愛想笑いをするしか無かった。ギュランの性格は分かっていたつもりだが、改めて接するとその大変さが身に染みるようだった。

 少しでも間違えれば全てを失う相手だというのに……これから先、上手くやっていけるか少し不安だ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

第二十話は24日投稿予定です。

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