3話「女王の抱擁」
よろしくお願いします
登場人物
霞勝 透(7)(17)
天童 一葉(7)(16)(17)
霞勝 永治(37)
霞勝 鼓滝(39)
天童 美波(38)(39)
天童 剣司(15)
安藤 沙良(39)
骸霊A
骸霊B
佐藤
高津
能海
女子A
女子B
校長
副校長
女性
男A
男B
田坂
ヤンキー
生徒達
担任
○神崎町・ビル屋上(深夜)
霞勝透(17)、目を瞑って角に立っている
悲鳴があがる
透「(目を開け)!」
飛び降りる透
○オープニング
○同・住宅街(夜)
透、倒れている女性に歩み寄る
透「(しゃがみ)・・・」
透「(女性の遺体をさすり)すまない、必ず敵を討つ。
だから・・・死んでくれ」
遺体が爆発し、周囲に血が飛び散る
透、血を拭い立ち上がり正面を睨むと人影が見える
透「最近の雑兵共は上手く人を殺すんだな」
透「(歩き出し)結界を張り叫び声を遮断、その上で殺
害。だが俺には聞こえるぞ・・・異形に変わってい
く人達の悲鳴がな」
月光に照らされ影が消え、骸霊Aが立っている
透「今日は2人か」
剣を持った骸霊B、透の後ろから襲いかかるが避けられる
透「見え見えなんだよ──」
透「(顔だけ後ろを向き)死に損ないが」
黒紫の霧が透の体から溢れ出し、無数の槍を形成し、骸霊Bの体を貫通し、消滅させる
骸霊A、透に向かって突っ込んでくる
透「遅ェ」
黒紫の霧から生成された剣が骸霊Aの首を飛ばし、消滅していく
透「・・・」
振り向き去っていく透
○神崎高校・全景(朝)
T「2020年 春」
○同・屋上(朝)
透、柵に寄りかかり、空に顔を向け、目を瞑っていると入口のドアが開く
透、目を開けドアを見る
○同・廊下(朝)
透、ガヤガヤしている廊下を歩いている
佐藤「おい、聞いたか、近々転校生が来るらしいぜ、
しかも女子!」
高津「マジかよ!これは美少女が来る予感!」
能海「うっしゃー!その子は俺が頂くぜー!」
佐藤「バカ!俺が先だぞ!」
女子A「(佐藤・高津・能海を見ながら)男子って考えて
る事おんなじよね~」
透、女子Aの横を通り過ぎる
女子B「(透を見ながら)それに比べ、透君はカッコイイ
わー」
女子A「クールで何考えてるか分からない、ミステリ
アスな感じ?良いわよね~!」
遠ざかっていく透
○同・校長室(昼)
校長「・・・となりますが、何かご質問はあります
か?」
天童一葉(17)「いいえ、ありません。もしよかったら
学校の方を見学させて頂きたいんですけど──」
校長「分かりました、じゃあ案内は副校長が──」
副校長「校長先生、先程生徒に任せるとおっしゃった
じゃないですか」
校長「ああ、そうだったな」
ドアをノックする音
副校長「ちょうど来たようですな」
校長「入りなさい」
ドアが開くと透が立っている
透「・・・どうも」
校長「(透を指さしながら)天童さん、こちらが──」
一葉、透をボーッと見ている
校長「天童さん?」
一葉「・・・あ、は、はい!?」
校長「どうかされましたか?」
一葉「い、いいえ!何も!」
校長「それでは、学校見学の案内は彼に任せてありま
すので、それでは頼むぞ、霞勝」
透「学校見学の案内なんて聞いてないんだけど」
副校長「ここに来る前、なんて聞いたんだ?」
○(回想)同・屋上(朝)
ドアが開き、ドアに視線を向ける透
担任「霞勝、お前今から校長室に行け」
透「何でですか?」
担任「とにかく行け、出席日数が欲しけりゃ行った方
がいいぞ?」
透「・・・へいへーい」
(回想終わり)
○同・校長室(昼)
透M「(頭を抱えながら)あの野郎~、そういう事かよ
~」
副校長「どうなんだ?やるか?」
透「(一葉を見て)・・・分かりました、やりますよ」
副校長「では、頼むぞ」
透「へいへい」
透「(一葉を見て)じゃあ、行こうか?」
一葉「は、はい!」
○同・廊下(昼)
透・一葉、歩いている
透「2年4組、霞勝だ」
一葉「わ、私は天童一葉です!」
透「一葉か、いい名前だな」
一葉「・・・あの、私のこと、覚えてない?」
透「ん?どっかで会ったか?」
一葉「あ、いえ、気のせいだったみたいです」
透「?」
佐藤の声「あー!」
透・一葉、声のした方を向く
佐藤・高津・能海、走ってくる
佐藤「お前、もう手出してんのか!」
高津「なんて手の早い野郎だ!」
透「何の話だ?」
能海「その子転校生だろ!?」
透「そうだけど」
一葉、透の後ろに隠れている
透の声「学校見学をしたいっていうから俺が案内する
ことになったんだよ」
能海「なんでお前なんだ!」
佐藤「俺達の方がこの学校の事よく知ってるぜ!」
高津「俺達と行こうぜ!」
高津、一葉の手を握る
一葉「(顔が青ざめ)ヒッ──」
透「(高津の手を掴んで睨みつけ)放せ」
高津「イテテテテ!放す!放すから!」
高津、一葉の手を放す
透「(高津の手を放し)ほら、さっさと行け。授業遅れ
んぞ」
高津、舌打ちして去っていき、佐藤・能海も後に続く
一葉「あ、ありがとう、ございます」
透「気にするな」
透、歩き出す
一葉、透についていく
透「そういえば、クラスはどこなんだ?」
一葉「あ、2年4組です」
透「おっ!俺と同じだな、よろしくな!」
一葉「は、はい!よろしくお願いします!」
透「さっきから気になってたんだが、敬語じゃなくて
いいぜ?年一緒なんだから」
一葉「あ、つい、癖で」
透「珍しい癖だな。この学校じゃ、年一緒のやつに敬
語使うやつなんていないぞ」
一葉「い、いい学校ですね」
透「ほらまた」
一葉「あ・・・」
透「俺の名前は透だ。そう呼んでくれ」
一葉「い、いいの?」
透「(笑顔で)もちろん!」
一葉「(笑顔で)よ、よろしくね!透!」
透「ああ!」
遠ざかっていく透・一葉
○同・空手場(夕)
入口を開ける
透の声「ここが空手場だ」
一葉「広ーい!」
透「うちの空手部は全国の常連で、金も有り余ってる
からな」
一葉「へぇー」
透「俺は、一応大将やってる」
一葉「すごい!!」
透「(頭を触り)ハハ、自分で言っといて照れるなぁ」
透・一葉、笑い合う
透「そうだ、部活はするのか?」
一葉「まだ、決めてなくて」
透「前の学校じゃ、何かしてたのか?」
一葉「・・・一応弓道部に居たんだけど、全然下手
で」
透「弓道か~、俺が教えてやろうか?」
一葉「え?」
透「入学した時に弓道部の体験入部に行ったんだが当
時の先輩と勝負して勝った事あるんだ、俺」
一葉「すごい!何で弓道部入らなかったの?」
透「弓道部も全国大会の常連なんだが早々にそんな連
中に勝っちまったから面白くねぇって思ったんだ、
それで空手部に──」
一葉「へぇー、私もそんなセリフ言えるぐらい上手く
なりたいなぁ」
透「今から行くか?弓道場」
一葉「え?」
○同・弓道場(夕)
一葉「思ったんだけど、部外者が入っていいの?」
透「(鍵を開けながら)小さい事は気にしないタイプで
ね」
一葉「(苦笑いしながら)へ、へぇー」
透、鍵を開け、ドアを開ける
透「さ、ここが弓道場だ」
一葉「ここも広い!」
透「だろ?」
透、歩き出す
一葉「(矢道を見ながら)ここの学校って部活動が活発
なの?」
○同・弓道場・道具室(夕)
透「(探し物をしながら)ああ、空手、弓道の他に柔道
とか剣道も強いぞ、要するに武道だな」
一葉の声「へぇー」
透「お、あった」
透、矢と弓を持ってくる
一葉「何してるの?」
透「え?練習するんだろ?」
一葉「え、そ、そんないきなり!?」
透「いいからいいから、どれほどの腕前か見たいし」
一葉、弓を構える
透、見ている
一葉、矢を放つも的を外れる
透「あぁ~」
一葉「難しい」
透「一葉、構えは最低限守ってれば正解は無い、楽な
姿勢、楽な呼吸が出来た時に狙え」
一葉M「楽な姿勢、楽な呼吸、楽な姿勢、楽な呼吸」
一葉、深呼吸して弓を構え、矢を放つが的を外れる
一葉「また、外れた~」
透「(立ち上がり)いや、さっきより的に近くなって
る、成長してる」
透、一葉の横に立つ
透「(右肘を触り)肘はもうすこし上だ」
一葉、右肘を少し上げる
透の顔が一葉のすぐ横にくる
一葉、頬が染まっている
透「そうそう、それと足だな、もう少し開いていい」
一葉、足を少し開く
透「それと打つ時に少し左手がブレてる、そこを調整
すれば必ず当たる、頑張れ」
透、下がる
一葉、深呼吸して弓を構え、矢を放ち的に命中する
透「お!」
一葉「(ピョンピョン飛び跳ね)やったー!当たった当
たった!」
透「おー!やったな!イェーイ!」
透・一葉、ハイタッチする
一葉「やったやった!透のおかげ!」
透「これで入る部活は決まった様なもんだな!」
一葉「あ、それなんだけど──」
透「ん?」
一葉「ここまで教えてもらって言いにくいんだけど、
私空手部のマネージャーやりたい!」
透「え?」
一葉「教えてもらったお礼がしたいの!私も何か教え
たい!」
透「1年の時から空手の全国大会で優勝し続けているこ
の俺に教えることなんてある?」
一葉「うっ、ご最もです。けど私、家が病院なの!だ
から怪我した時とかの処置とかなら出来ると思う
の!」
透「あ~、そっちね~」
一葉「ど、どうかな」
透「いいと思うぞ、明日顧問に話してみよう」
一葉「ありがとう!」
鐘が鳴る
透「おっと、早く帰らねェと・・・先帰って──」
一葉「え?」
透「いや、片付け、手伝ってくれないか?」
一葉「うん」
○神崎町・住宅街(夕)
透・一葉、歩いている
一葉「あ、そういえば空手場も弓道場も何で人が居な
かったの?テスト期間中でもないのに」
透「・・・ついこの前、生徒が1人殺されたんだ」
一葉「(唖然とした顔で)えっ」
透「それで校長は犯人が捕まるまでの間部活動を全面
的に停止させたんだ」
一葉「昼間そんな話はしてなかったのに──」
透「入る前からそんな話したら来なくなるって思った
んだろうな」
一葉「あ、確かに」
一葉、心配な顔をする
透「心配か?」
一葉「え?」
透「大丈夫だ、転校してきてまともに友達も居ない状
態のお前を1人で帰らせる訳にはいかんからな、犯人
が捕まるまでの間俺が一緒に帰ってやる」
一葉「(頬を染め)・・・ありがとう」
透「ところで、家はどこなんだ?」
一葉「すぐ近くだよ、そこの角を左に曲がってすぐの
所」
透「あ、俺そこ右」
透・一葉、角まで歩いてくる
一葉「それじゃあ、今日はありがとう、明日からよろ
しくね!」
透「ああ、よろしくな!」
互いに笑顔で手を振り、振り返り歩き出す透・一葉
○同・ビル群(夜)
透、歩いている
○同・病院・全景(夜)
透、歩いている
○病院・病室(夜)
入室者名に霞勝鼓滝と書かれている
○同・病室中(夜)
霞勝鼓滝(39)、上体だけ起こし窓の外を見ていると透が入ってくる
透「(椅子に座り)母さん、調子はどうだ?」
鼓滝「(透を見て)だいぶ良いわ、学校はどうなの?」
透「特に変わりない。あ、明日転校生が来るんだが、
もう友達になったよ」
鼓滝「良かったわね~、どんな人なの?」
透「女子だよ、前の学校で弓道部だったらしいんだ
が、こっちで空手部のマネージャーになるって言っ
てた、実家が病院をやってるらしくて怪我とかを見
てくれるらしい」
鼓滝「・・・名前聞いてもいいかしら?」
透「確か、天童一葉って言ってたな~」
鼓滝、机を叩く
透、驚く
鼓滝「(真剣な目で)透、その子に関わるのはやめなさ
い」
透「な、なんで?」
鼓滝「なんでもよ!」
透「なんでだ!理由を教えろよ!」
鼓滝「言えないのよ!とにかくその子から離れなさ
い!」
透「ふざけんな!転校してきたばかりで俺が離れたら
誰があいつと接してやるんだ!?」
透、立ち上がり歩き出す
鼓滝「待ちなさい!」
透「っせーよ!」
透、部屋を出ていく
鼓滝、息が荒くなる
机に霞勝永治の写真が置かれている
鼓滝「(胸を押えながら)ダメよ、透──」
○神崎町・ビル群(夜)
透、歩いている
鼓滝の声「あなたは──」
○天童家・リビング(夜)
一葉、ご飯を食べている
鼓滝の声「あの子と関わってはいけない」
天童美波(39)・一葉、椅子に座り夕飯を食べている
美波「一葉、今日学校どうだった?」
一葉「うん!楽しくやっていけそう!」
美波「部活とかは決めたの?」
一葉「うん!空手部のマネージャーになろうかなっ
て!」
美波「弓道じゃないの?あなた、前の学校でやってた
じゃない」
一葉「・・・うん。けど、思い出したくない事もある
し、新しい事始めようかなって」
美波「それはいい事ね、頑張りなさい」
一葉「うん」
美波「ところで、なんで空手部なの?」
美波、1口食べる
一葉「実は今日学校を案内してくれたのが透で空手部
に入ってるって言ってたから・・・その──」
美波「好きなのね~」
一葉「(顔を赤くして)ちょっと、やめてよ!」
電話が鳴る
美波「誰かしら」
一葉「私、出るよ」
一葉「(電話に出て)はい、天童です・・・はい・・・
居ますけど・・・分かりました。お母さん、電話」
美波、箸を止めて一葉を見る
一葉の声「透のお母さんから」
美波「(ため息をつき)・・・分かったわ」
美波、電話に出る
一葉、食卓に戻る
美波「なに?」
鼓滝の声「何じゃないわよ!どういうこと!?」
美波「待って、携帯にかけ直して、今一葉も居るか
ら」
電話が切れる
美波「一葉、少し待っててね」
一葉「うん」
一葉、廊下に出ていく美波を目で追う
美波「(携帯に出て)それでどうしたの?」
鼓滝の声「だから!あなた何したか分かってん
の!?」
○病院・廊下(夜)
鼓滝、公衆電話で話している
美波の声「分かってるわよ」
鼓滝「あれほど透と一葉ちゃんを引き合わせちゃいけ
ないって言ったわよね!?」
○天童家・廊下(夜)
美波「知ってるわよ、その為に他の高校に行かせたの
よ」
○病院・廊下(夜)
鼓滝「何で戻ってきたの!?」
美波の声「一葉は前の学校でいじめられてい
たの!」
鼓滝「保健室登校とか、転校以外の方法が幾らでもあ
ったでしょ!?」
○天童家・廊下(夜)
美波「私だってそうやって説得しようとしたのよ、け
ど──」
○(回想)同・一葉の部屋(夜)
一葉(16)、膝に顔を埋めベッドですすり泣いている
美波(38)「(一葉に歩み寄り)一葉、大丈夫?頑張って学
校行こ?剣司も居るから、辛かったら保健室登校と
か──」
一葉「(顔を横に振り)嫌だ!行きたくない!私・・・
私、透に会いたい」
美波「(悲しい顔で)・・・」
(回想終わり)
○病院・廊下(夜)
美波の声「耐えられなかった!」
鼓滝「それでも──」
○天童家・リビング(夜)
一葉、ご飯を食べている
美波の声「でも!?私の娘が毎日衰弱していく様を私
に黙って見てろって言うの!?」
○同・廊下(夜)
美波「とにかく透君には重荷を背負わせて申し訳ない
けど、一葉を守ってもらいたいの!」
○病院・廊下(夜)
鼓滝「(小声で)「雷神」は消滅したのよ?どうやって
守れっていうの」
○天童家・廊下(夜)
美波「(小声で)「女王」があるでしょ」
鼓滝の声「(小声で)無理に決まってるでしょ、もし復
活したらいくら「女王」の素質がある透でも倒せな
いわよ」
美波「とにかくお願い、私の勝手な判断だけど一葉を
透君に任せたいの、私にとって一葉が1番大事なの」
鼓滝の声「・・・もう!どうなっても知らないわ
よ!」
電話が切れる
○病院・廊下(夜)
鼓滝「(受話器を戻し)あの人が居たら──」
× × ×
(フラッシュ)
霞勝「(鼓滝を見ながら)透を、頼む」
× × ×
○病院・廊下(夜)
机に涙が落ちる
鼓滝「・・・助けて──」
○天童家・廊下(夜)
美波、携帯の待ち受け画面を見ている
画面に霞勝永治(17)・鳴音鼓滝(17)・天童美波(17)・安藤沙良(17)が写っている
美波「大丈夫よね、皆」
一葉「(リビングから出てきて)お母さん」
美波「(携帯を隠して一葉を見て)ん?どうしたの?」
一葉「なんの話だったの?」
美波「ううん、なんでもないわ。少し待ってて」
一葉「うん」
美波、電話をかける
○神崎高校・教室(朝)
担任「今日は転校生が来ているぞ~。じゃあ、入っ
て」
ドアが開くと一葉が入ってくる
生徒達「(一葉を目で追い)おぉ」
一葉、教壇横に立つ
一葉「(小声で)天童一葉です、よろしくお願いします」
歓喜に湧く教室
佐藤「可愛いー!」
高津「俺と付き合おー!」
能海「いやいや、俺と!」
担任「お前らうるさいぞ!」
担任「(一葉を見て)じゃあ、席について──」
ドアが開く
生徒達の目が向く
透「ん?」
一葉「(透を見て)あ」
透「(一葉を見て)あ」
一葉「透──」
透「(手を挙げ)よ、今日からよろしくな~、一葉」
一葉「(笑顔で)うん!」
佐藤「透!お前いつから下の名前で呼び合うようにな
ったんだー!」
高津「お前、手出すの早すぎだろ」
透「出してねーよ、担任に頼まれて学校案内しただけ
だ」
能海「そんな事言って校舎裏でよろしくやってたんじ
ゃないのか~?」
一葉、ひきつった顔になる
透「(一葉を見て)・・・」
担任「おい、大丈夫か?」
一葉「(胸を押さえながら)は、はい、大丈夫です」
透の声「能海ィ」
一葉、透を見る
透「(能海を睨み)デタラメな嘘並べてっと壁にめり込
ませんぞ」
能海「悪い悪い」
一葉、呼吸が正常に戻っていく
透、舌打ちして席に向かうが肩を掴まれ、振り向く
担任「待て霞勝、お前今月何回目の遅刻だ?」
透「・・・え~と、5?」
担任「10だ!」
透「すんませ~ん」
生徒達、笑っている
担任「早く座れ!」
透「へーい」
透、席に座る
担任「(教室を見渡しながら)天童の席はえ~と、霞勝
の後ろだな」
一葉「へ!?」
透「ん?」
担任「(透を見て)なんだ、嫌なのか?」
透「俺は別にいいけど」
担任「じゃあ、決まりだな」
一葉「は、はい」
一葉、席に座る
担任の声「それじゃあ、授業始めんぞー」
○同・屋上(昼)
透、ココア揚げパンを食べコーラを飲んでいる
透「ん~、うめ~」
透、パンを食べる
ドアが開く
沙良の声「お、おったおった」
透「(声のした方を見て)ん?」
安藤沙良(39)「探したで~、透君」
沙良、透に歩み寄る
透「沙良先生っすか、なんですか?」
透、パンを食べる
沙良「(立ち止まり)アンタ、天童一葉と仲良いんや
ろ?」
透「なんでそれを?」
透、パンを飲み込みジンジャーエールを飲む
沙良「(座り込み)ウチな、一葉ちゃんのお母さんと仲
ええねん。だからな、この学校で1番信頼の置いてい
るアンタに頼みがあんねん」
透「今まで殆ど話してこなかったじゃないですか」
沙良「ウチやない、一葉ちゃんの方や」
透「なんすか、頼みって」
沙良「・・・一葉ちゃんを守ってくれへん?」
透「は?」
沙良「昨日、電話で聞いたんやけど一葉ちゃん、前の
学校でいじめられとったみたいでな」
透「・・・」
沙良「(立ち上がり)透君に一葉ちゃんを守ってほし
い、これが一葉ちゃんのお母さんの頼みや」
透「・・・分かりました」
沙良「(前かがみで)よし、それじゃあ、よろしく頼む
で」
沙良「(歩きながら)あんまり、糖分とりすぎんように
な〜」
沙良、屋上を去っていく
ドアが閉まる
透「・・・守る?」
○同・教室(昼)
一葉、昼食を食べている
佐藤の声「天童さん」
一葉、声のした方を見る
佐藤・高津・能海「一緒に食べようぜ~」
一葉「あ・・・は、はい」
佐藤「(椅子に座り)今朝はゴメンな?能海が変な事言
っちゃって~」
能海「は?なんだよ、別に変な事言ってねーだろ」
高津「それが分からんようじゃ、一生モテねーぞ」
能海「んだと!?」
高津・能海、揉め始める
一葉、困っている
透の声「おい!」
静まり返る教室
透「(高津・能海を見て)うるせぇ」
高津「す、すまん」
透「(一葉の後ろに立ち)一葉が困ってんだろうが」
能海「で、でもよ──」
透「でももクソもねぇ、ったく。一葉」
一葉「ん?」
透「弁当持て、屋上行くぞ」
一葉「あ、う、うん」
透・一葉、教室を出ていく
ポカーンとなる生徒達
○同・屋上(昼)
一葉、昼食を食べている
透、コーラを飲んでいる
透「ぷはぁ、うめ~」
一葉「さっきは、ありがとう」
透「何が?」
一葉「私、透とならいいんだけど、他人が苦手で」
透「(コーラを飲み)それは・・・いじめられた事と関
係あるのか?」
一葉「なんで知ってるの!?」
透「お前のお母さんと仲がいいっていう沙良先生から
聞いたんだ」
一葉「あ、沙良さん。昔よく遊んでもらったんだ~」
透「・・・いじめの話、聞いてもいいか?」
一葉「(悲しそうに)・・・やっぱり聞くよね」
透「いや、辛いなら話さなくてもいいんだ」
一葉「・・・・きっかけなんて無かった」
透、一葉を見る
一葉「朝、学校に行ったら──」
○(回想)月無高校・教室(朝)
ズタボロに彫られた一葉の机
天童一葉(16)、机を見て立ち尽くしている
一葉の声「私の机がズタズタにされてて、ビッチって
彫られてた──」
周囲の生徒達、ヒソヒソ話したり、冷たい目で一葉を見ている
一葉の声「私はその時根も葉もない噂が流れている事
を知ったの」
(回想終わり)
× × ×
(フラッシュ)
一葉の声「体育の授業の時だって──」
一葉、周囲から孤立している
一葉の声「私の事を仲間はずれにしたり──」
× × ×
○神崎高校・屋上(昼)
透、真剣な顔で黙って聞いている
一葉「でも、1番酷かったのは──」
一葉、腕をまくる
透「!?」
腕にはいくつものタバコが押し付けられた跡がある
○(回想)月無高校(夜)
一葉、弓道部の先輩と楽しそうに話している
一葉の声「私は弓道部の先輩と仲良くさせてもらって
たんだけど──」
先輩の彼女、鼓滝を睨んでいる
一葉の声「それが良くない形で先輩の彼女に伝わった
みたいで浮気したっていう噂を流されて先輩の彼女
とその友達に──」
男A「おい、そっち押さえろ!」
男B「暴れんじゃねぇ!」
一葉、押さえつけられている
田坂「私の彼氏に手出してんじゃねーよ!ブスが!」
一葉「(抵抗しながら)何の話ですか!?」
田坂「しらばっくれんじゃねーよ!」
田坂、一葉の腕にタバコを押し付ける
一葉、叫ぶ
(回想終わり)
○神崎高校・屋上(昼)
透「辛かった・・・よな」
一葉「・・・うん、でも軽い女に見られている事が1番
ショックだった」
透「・・・・」
一葉「他校の人から無理矢理迫られた事だってあっ
た」
○(回想)路地裏(夜)
ヤンキー、一葉の手を掴んでいる
ヤンキー「いいじゃん、ヤラせてよ~」
一葉「(怯えながら)や、やめてください」
ヤンキー「そういいながら何回もしてるんだろ~?」
一葉「ホ、ホントにやめてください!」
一葉、ヤンキーを突き放す
一葉「あ、ご、ごめんなさい!」
ヤンキー「(怒った顔で)じゃあ、体で償ってもらおう
か!!」
ヤンキー、一葉を押し倒す
一葉「キャ!やめて!やめてください!」
天童の声「おい」
ヤンキー「(振り向き)あ?」
天童剣司(15)、立っている
天童「(激怒した顔で)汚ぇ手で触るんじゃねぇよ」
天童、拳を強く握る
一葉の声「その時は剣司に助けてもらったけど──」
(回想終わり)
○神崎高校・屋上(昼)
一葉「剣司が助けてくれた回数より圧倒的にいじめら
れた事の方が多かった」
透「・・・」
一葉「でもね、私1度も泣かなかったんだよ!凄いでし
ょ?」
透「・・・」
透、一葉の手を握る
一葉、耳まで紅潮する
一葉「え?ちょ、ちょっと!?」
透「昨日、高津に手を掴まれた時ヒッて言ったな、け
ど俺が触ってもビクっともならなかったな」
一葉「え?」
透「俺は信頼されているととるがいいか?」
一葉「(頬を赤くして)・・・うん、私は透を信頼して
るよ」
透「(微笑み)ありがとう」
一葉、手を見ながら照れている
透の声「それともう1つ」
一葉「え?」
透、一葉を肩に寄せる
一葉「(ジタバタしながら)え、ええ!?な、な
に!?」
透「さっき、泣かなかったって言ったよな?」
一葉「(透を見て)・・・え?」
透「無理なんかするな」
一葉、頬が染まる
一葉「(顔を背け)わ、私は無理なんか──」
透「強がる必要なんてない、泣く事は負ける事じゃな
いんだ」
一葉、涙が溢れだす
透「(一葉の肩をさすりながら)気にせず泣け」
一葉、すすり泣く
透「・・・もっと泣いていいんだ」
一葉、透のシャツを掴み胸に顔を埋め号泣する
一葉「(涙が溢れながら)私・・・私何もしてないの
に!人を好きになったことも1度しかないのに!」
透「ああ」
× × ×
(フラッシュ)
一葉、友達と微笑ましく話している
一葉の声「友達だって・・・いっぱい居たのに!」
× × ×
透「ああ」
× × ×
(フラッシュ)
一葉、弓を構えている
一葉の声「部活も・・・楽しかったのに!」
× × ×
透「ああ」
一葉「タバコ押し付けられた時も痛かった!泣きたか
った!けど、泣いたらもっとされるって思って怖く
て!」
透「・・・よく耐えたな」
透、泣いている一葉の頭をポンポンと叩いている
○同・屋上(夕)
ドアが開く
沙良「(歩いてきて)あれ、まだおったんかいな・・・
ん?」
沙良、透の膝で眠る一葉を見る
沙良「何しとん?」
透「(一葉を見ながら)少しばかり、発散を手伝いまし
た」
沙良「ほ〜。やるやん、自分」
透「頼まれたから仕方ないでしょうよ」
沙良「ホントに頼まれたからなんか~?」
一葉、スヤスヤ寝ている
沙良「(一葉を見て)この子がいじめられたって聞いた
時に既に心は決まっとったんちゃうか~?」
透、一葉を見ている
透「いや、俺もいじめは嫌いですから」
沙良「アンタに任せてよかったわ~、じゃ、ウチは戻
るで」
沙良、入口に向かって歩き出す
沙良「(手を振りながら)風邪引かんようにな~」
沙良、屋上を去る
透「(一葉の頭をさすりながら)······」
× × ×
(フラッシュ)
一葉(7)の頭を摩っている
× × ×
透「!?」
透、頭を抱える
透「・・・なんだ、今の」
○エンディング
○(回想)神崎町・河原(昼)
透(7)・一葉(7)、笑顔で歩いている
(回想終わり)
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