1話「雷、恋という木に落ちる」
よろしくお願いします!
登場人物
霞勝 永治(17)
鳴音 鼓滝(17)
天童 美波(17)
安藤 沙良(17)
遠峰 龍一郎(17)
畑山
鼓滝(母)
女子生徒A
体育教師
教師A
男子A
男子B
男子C
男子達
○神崎町・全景(昼)
雪が降っている
○神崎高校・全景(昼)
T「1998年10月」
銘板の文字に雪が積もっている
○オープニング
○同・廊下(昼)
霞勝永治(17)、ガヤガヤとした廊下を歩いて教室に向かっている
畑山の声「(大声で)おーい!永治ー!」
霞勝、振り返ると畑山がブンブン手を振っている
霞勝「(振り返り)なんだ?」
畑山「(霞勝に駆け寄り)昨日よ!・・・」
○同・廊下の角(昼)
鳴音鼓滝(17)、ボーッと畑山と話す霞勝を見つめていると女が鼓滝の背後からゆっくり近づく
安藤沙良(17)「(鼓滝の肩を叩き)うわ!」
鼓滝「(ビクッと体を浮かし)うわぁ!さ、沙良!な、
何!?」
沙良「それはこっちのセリフや〜、何見とる〜ん?」
鼓滝、慌てて手を横に広げ沙良を止める
鼓滝「(上擦り)い、いやいや。な、何も見てない
よ!」
沙良、鼓滝の背後に霞勝を見つける
沙良「ハハーン」
沙良、ニヤついていると鼓滝がコソコソ逃げ出そうとしてるのに気づき鼓滝の肩首に手を回す
沙良「鼓滝ちゃ〜ん?逃がさへんで〜」
鼓滝、ジタバタともがく
沙良「なになに!永治見よったやろ!好きなん!?」
鼓滝、硬直し、顔を真っ赤にして両手で覆う
沙良「(ニヤつきながら)その反応は図星やな〜」
沙良「(肩首から腕を外し腕を組み)鼓滝もそういう年
頃なんやなぁ」
鼓滝「(むくれながら)も、もう、からかわないでよ」
沙良「(悪い顔をして)でも、格好はイマイチやな
ぁ〜」
鼓滝「(大声で)永治君はカッコイイ!!」
周囲の生徒、鼓滝の方へ顔を向ける
鼓滝、少し間が空き、耳まで赤くなる
周囲の生徒、ヒューヒューと口笛を吹いている
沙良「(ニヤつきながら)めっちゃ大胆やな〜、・んな
大声で告白やなんて〜」
鼓滝、走り出す
鼓滝「(遠ざかりながら)・・・うわ〜ん!!沙良なん
てもう大嫌〜い!!」
沙良「(走り出し遠ざかりながら)ええやないか〜、人
を好きになる事は別に悪いことちゃうで〜」
霞勝・畑山、その光景を見ている
畑山「(霞勝の背中を叩き)お前!良かったじゃん!」
霞勝「え、何が?」
畑山「学年1の美女、高嶺の花、鳴音さんに好きって
言われたんだぞ?お前、告られてはフるを繰り返し
てるだろ?鳴音さんだったら文句ないだろ?」
霞勝「(ほくそ笑み)お前らにとっては高嶺の花かもし
れないが、俺にとっては違うぞ?」
畑山「うわ、腹立つ。その気になれば簡単に堕とせる
ってか?」
霞勝「ん?い、いや、そういう意味じゃ──」
○同・全景(昼)
畑山の声「(大声で)みんなー!聞いてくれー!永治が
その気になれば高嶺の花である鳴音さんを堕とせる
って言ってんぜー!」
霞勝の声「ちょ!テメー、やめろ!そういう意味じゃ
ねー!!」
女子生徒Aの声「(大声で)キャー!カッコイイー!」
霞勝の声「(大声で)うるせーー!!」
○同・全景(夕)
赤くなった空でカラスが鳴いている
○同・下駄箱(夕)
夕日が校舎内に差し込んでいる
霞勝「(下駄箱を開け)ったく、今日はひでー目にあっ
たぜ」
霞勝、靴を履き校舎を出る
○同・校門(夕)
霞勝、少し俯いて立っている鼓滝に気づき近づく
鼓滝、頬が赤くなっている
霞勝「鳴音・・・さん?」
鼓滝「(驚いた表情で)あ、永治君!」
霞勝「何してんの?」
鼓滝「あ、ちょ、ちょっと友達待ってて・・・」
霞勝「そっか、寒くないようにな、じゃあな」
霞勝、歩き出す
霞勝「(後ろに体重がかかり)おっと」
霞勝、振り向く
鼓滝、霞勝の袖を引っ張っている
霞勝「・・・どうしたの?」
鼓滝、不安な表情で上目遣いで見ている
鼓滝「(赤い頬で)い、一緒に帰りませんか・・・?」
霞勝「・・・・・、いいよ」
横に並び帰っていく霞勝・鼓滝
○神崎町・住宅街(夕)
夕日が沈みかけている
霞勝「(歩きながら)家ってどの辺なの?」
鼓滝「(歩きながら)学校から20分くらい歩いたところ
かな」
霞勝「へぇ〜、結構遠いんだな〜」
鼓滝「永治君はどこに住んでるの?」
霞勝「俺は鳴音さんほど遠くはないけど、まあ10分、
15分かな〜」
鼓滝、寂しい表情をする
鼓滝「・・・家が遠いと困るよね〜、帰りが遅くなっ
ちゃうし」
霞勝「そうだよなぁ、鳴音さん部活もやってるんだ
ろ?夜遅いと危ないぞ?」
鼓滝「(霞勝を見て)心配・・・してくれるの?」
霞勝「当たり前だろ」
鼓滝「(霞勝を見て)え?」
霞勝「(笑顔で)鳴音さんも女の子なんだから」
霞勝、鼓滝を見ている
鼓滝、頬が赤くなる
鼓滝「(小声で)······鼓滝です」
霞勝「(鼓滝を見て)え?」
鼓滝「私、鼓滝です。だから、名前で・・・呼ん
で?」
霞勝「・・・あ!あれ、鼓滝って言うの
か!」
鼓滝「え?」
○(回想)神崎高校・廊下(昼)
壁にテストの順位表が貼られている
霞勝の声「実はさ、テストの結果が貼り出されてる時
に1位の人の名前が「鳴る」に「音」で「鳴音」は分
かったんだけど下の名前がどうしても読めなくて考
えてたんだよ〜」
顎に手を当て眉間に皺を寄せている霞勝
(回想終わり)
○神崎町・住宅街(夕)
鼓滝「(困惑した表情で)あ、そ、そう」
霞勝「(笑顔で)いや〜、胸のつかえがとれたよ〜」
鼓滝「(困惑した表情で)そ、それはよかったね、ハ
ハ」
霞勝「鼓滝さん?いや、鼓滝でいいかな?」
鼓滝「(笑顔で霞勝を見て)うん!」
霞勝「(笑顔で)よろしく、鼓滝!」
霞勝・鼓滝、遠ざかっていく
夕日が沈む
霞勝「(指をさし)あ、ここ俺ん家」
鼓滝「(霞勝が指さした方向を見て)大きいね〜」
霞勝「元は親父の家だからな。待っててくれ、着替え
てくる。もう暗いし、送ってくよ」
鼓滝「(胸元で小さく手を振り)い、いや、いいよ!そ
こまでしてもらわなくて──」
霞勝「(真剣な顔で)俺が心配なんだ、送ってくよ」
鼓滝「(照れながら)・・・じゃ、じゃあ、お願いしま
す」
鼓滝、頭を下げる
霞勝、笑顔になり、歩き出すと屋根の上に人影を見つけ、一気に表情が険しくなる
霞勝M「・・・来たか」
霞勝「鼓滝、申し訳ないが今から1人で帰ってくれ」
鼓滝「え?」
霞勝、一点を見つめている
霞勝「(険しい顔で)急用が出来た」
鼓滝「(悲しげな表情で俯き)・・・うん、分かった、
じゃあね」
霞勝「(険しい表情で)ああ」
鼓滝、遠ざかっていく
霞勝「(屋根の上を見ながら)こっちだ」
鼓滝、飛び去る音に気づき振り向く
鼓滝の声「永治・・・君?」
○神崎高校・全景(夜)
○同・運動場(夜)
霞勝、目を瞑り立っていると近づいてくる足音にゆっくり目を開ける
遠峰龍一郎(17)「(歩みを止め)鼓滝には迷惑かけられな
い、ってか?」
遠峰、笑っている
霞勝「あいつは関係ないからな」
遠峰「(小声で)それはどうかな〜」
霞勝「あ?・・・今日は何の用だ?」
遠峰「殺し合いに決まってんだろ?まさか、まだ友人
だなんて思ってないよな?」
風で遠峰の髪が靡いている
遠峰、足元に右手を向け、足元から赤黒い泥のような炎が湧き出てきて、遠峰の右手に集まり剣を形成していく
遠峰「(剣を持ち、構えて)・・・来い「雷神」」
霞勝の右手の指の間に雷が走っている
風が霞勝に向かって吹いていく
○同・屋上(夜)
落下防止用の柵が大きく揺れ、雷が走っている
○同・運動場(夜)
霞勝の右手に雷が集まり槍の形を形成している
霞勝「(槍を持ち、構えて)・・・いくぞ「極焔」」
霞勝・遠峰、戦闘開始
遠峰、剣を上に向け、剣の矛先に巨大な赤黒い球を作り出す
遠峰「(大声で)ユーグ・ラグナロク!!」
遠峰、霞勝に球を投げつける
霞勝「我が肉体に宿り、走る雷鳴たちよ、この槍を我
が仇敵を打ち破りし必殺の雷槍とせん!」
槍が雷を帯び、徐々に大きくなっている
霞勝「(槍を球に向け、構えて)(大声で)デッドマン・ラ
ンサー!!」
霞勝、槍を球に投擲し、爆発が起こっている
霞勝「(倒れている遠峰に向かって)俺の勝ちだな、今
日も」
遠峰「クソ!」
霞勝、立ち去っていく
遠峰、悔しそうに地面を何度も殴り、手が血まみれになっている
暗転
○霞勝家・全景(朝)
スズメが泣いている
○同・寝室(朝)
霞勝、ベッドで上半身だけ起こしあくびをして、ベッドから出る
○同・廊下(朝)
霞勝、居間のドアを開けると、インターホンが鳴る
霞勝「ん?」
玄関に向かっている霞勝
○同・玄関(朝)
霞勝、ドアを開けると鼓滝が立っている
霞勝「あれ?なる、あ、鼓滝?どうしたの?」
鼓滝「一緒に学校・・・行かない?」
霞勝「え?もうそんな時間?」
鼓滝「もう、8時だよ?」
霞勝「うっそ!もうそんな時間!?」
霞勝「(慌てて中に戻り)と、とりあえず家入ってて!
用意してくるから!」
霞勝、ドタバタ奥に走っていく
鼓滝「(靴を脱ぎ)お、お邪魔しま〜す」
霞勝の声「居間に入ってて!」
○同・居間(朝)
鼓滝、恐る恐る居間に入る
霞勝の声「あれ?制服が無ぇ!・・・あ、あった!」
霞勝、制服を着ながら居間に入ってくる
霞勝「ん?」
霞勝、立っている鼓滝を見ている
霞勝「座ってていいぞ?」
鼓滝「い、いや、いいよ」
霞勝「(鼓滝の手をとり)いいから、座っとけって」
鼓滝「そ、それじゃあ······」
鼓滝、恐る恐る座る
霞勝「(ウンウンと頷き)おっと、やべぇやべぇ、また
担任に怒られる」
霞勝、台所に立つ
鼓滝「しょっちゅう遅刻してるもんね」
霞勝「(顔を洗いながら)フー、朝がどうしても苦手で
な」
霞勝、顔を拭く
霞勝「そういや鼓滝は全然遅刻してないんだろ?担任
にも鼓滝を見習え!ってよく言われるよ」
鼓滝「フフ、ねえ、朝ごはん食べたの?」
霞勝「いや、まだ食ってない、なんで?」
霞勝、服を片付けている
鼓滝「・・・食べないの?」
霞勝「普段から遅刻してるから朝は学食で済ませる事
が多いんだ」
鼓滝「そうなんだ・・・」
鼓滝「(照れながら)作ってあげようか?・・・今度」
霞勝「いや、いいよ。ただでさえお前ん家遠いんだか
ら、更に早起きさせちまう」
鼓滝「私、普段から6時に起きてるんだよ?」
霞勝「へぇ〜、よく起きれるね〜・・・ん?学校に行
く時間を踏まえても早起きだな、何してんの?」
鼓滝、ハッとなり口籠る
霞勝「?・・・ま、いいさ」
鼓滝、悲しそうな表情をしている
霞勝の声「さ、行こう、学校に遅れる」
○神崎町・住宅街(朝)
霞勝「(白い息が出ながら)さみー」
霞勝・鼓滝、横並びに歩いている
鼓滝、不安な表情をしている
霞勝M「早起きして何してるのか聞いてからずっとだ
んまりだな、地雷だったか?」
霞勝「どうかした?」
鼓滝「(不安な表情で)・・・いや、何も」
霞勝「(少し考え)・・・そうか」
霞勝「(腕時計を見て)!!やべ!遅れる!」
鼓滝「え?」
霞勝「(鼓滝の手を掴み)走るぞ!鼓滝!」
鼓滝「え、ええ!?」
○神崎高校・校門(朝)
体育教師、立っていると霞勝・鼓滝が走ってくる
体育教師「あ!お前らギリギリだぞ!」
霞勝「すんません!」
鼓滝「すいません!」
霞勝・鼓滝、校門を駆け抜けていく
体育教師「(霞勝・鼓滝を見ながら)・・・あいつら、
あんなに仲良かったっけ?」
○同・教室(朝)
霞勝、勢いよくドアを開ける
霞勝・鼓滝、息が上がっている
霞勝「あー、疲れたー」
霞勝、自分の席に向かって歩き出す
生徒、目で追っている
霞勝「(立ち止まり)ん?なんだ?何かついてるか?」
鼓滝の声「あの、永治君······?」
霞勝、振り向くと鼓滝が顔が左手を口に当てて真っ赤になっている
鼓滝「あの・・・手、離して?・・・恥ずかしいから
──」
霞勝、下を向くと鼓滝の手を握っている
霞勝「!?」
霞勝、勢いよく手を離す
生徒、ヒューヒューと口を吹く
畑山「付き合っちゃえよ、永治!」
霞勝「(頬を赤くして)やめろ!そんなんじゃねぇ!」
沙良「鼓滝ー!お幸せになるんやでー!」
鼓滝「(顔が真っ赤になり)ちょ、ちょっと、やめて
よ、恥ずかしいから〜!」
○同・全景(朝)
生徒の笑い声
教師Aの声「お前ら!授業中だぞ!静かにしろ!」
○同・屋上(昼)
霞勝、パンを食べていると屋上のドアが開く
天童美波(17)、霞勝に向かって歩いていく
美波「朝、大変だったそうね?」
美波、霞勝の横に座る
霞勝「ああ、全くだ」
霞勝、パンを1口食べる
美波、クスクス笑っている
美波「鳴音鼓滝とカップルに間違われる、なん
て・・・フフ」
霞勝「知ってんのか?・・・鼓滝の事」
美波「そりゃ・、知ってるわよ」
○同・教室(昼)
鼓滝、ノートをとっている
美波の声「勉強は勿論の事」
霞勝の声「テストで1位取ってたもんな」
○同・剣道場(顔を)
鼓滝、剣道をしている
美波の声「部活でも優秀な成績残してるでしょ?全国
大会準優勝とか」
鼓滝、相手から一本を取る
霞勝の声「俺、空手の世界大会で優勝したけど」
美波の声「ちょっとあんた黙ってなさい」
鼓滝、お面とタオルを取ろうとしている
美波の声「おまけに・・・」
鼓滝、お面とタオルをとると髪を靡かせる
男子達「うおおおおお!」
鼓滝に群がる男子達、目がハートになっている
美波の声「超がつくほどの美人」
鼓滝、優しく笑っている
霞勝「・・・」
美波「あ、今日行ってみない?毎日凄いんだから!」
霞勝「・・・まぁ、いいぞ」
美波「じゃあ、今日剣道場で集合ね!」
霞勝「へいへい」
霞勝、パンを1口食べる
美波「ところで、あんた知ってる?」
霞勝「何を?」
霞勝、パンを1口食べる
美波「今まで彼氏出来たことがないのよ?鼓滝さん」
霞勝「ほ〜」
霞勝「(ジュースを飲み)・・・で、その情報が俺に関
係あるのか?」
美波「あなたの事が好きだから断ってるに決まってる
じゃない」
霞勝、パンを口に運んでいた手が止まる
美波「(ニヤニヤしながら)へぇ〜、あなたでも動揺し
たりするんだ〜、好きなんだ〜」
霞勝、照れている
霞勝「うるせーよ、俺だって知ってたんだよ」
美波「何を?」
霞勝「(身振り手振りしながら)ほら、その、あれだ
よ、その、俺を・・・」
美波「好きって事?」
霞勝「そ、そう、それ」
美波「(嬉しそうに両手を合わせ)なら、両思いじゃな
い!行ってきなさいよ!・・・ハッ!まさかあな
た、付き合う前の焦れったい期間を楽しんでるわ
ね?」
霞勝「ちげーよ」
美波「(ため息をつき)・・・バカね、分かってるわ
よ」
美波、険しい表情になっている
美波「神器でしょ?」
霞勝「(悲しい表情で)・・・ああ」
美波「話してみたら?案外すんなりかもよ?」
霞勝「話せるわけねぇだろ、一般人だぞ」
美波「・・・けど、このまま壁作ってる気?」
霞勝「・・・」
美波「ま、気長に考えたら?」
美波、立ち上がってドアに歩き始める
霞勝「お前はどうなんだ?」
美波、立ち止まる
霞勝「「万薬」」
美波「(振り向き)私は・・・・あなた次第ね」
美波、ウインクする
霞勝「は?」
美波、屋上を去る
霞勝「どういう意味だ?」
ジュースを飲む霞勝
○同・剣道場(夕)
剣道部、練習している
○同・剣道場外(夕)
男子達、入口に集まっている
霞勝、壁に寄りかかって美波と共に男子達を後ろから見ている
霞勝「・・・聞いてた通りだな」
美波「でしょ?」
霞勝「ホントに人気だな」
美波「そんな人気者に好かれてるあなたは幸せ者ね」
霞勝「(ほくそ笑み)よせやい」
剣道場の入口が開く
男子達「(剣道場に流れ込み)うおおおお!鼓滝さー
ん!」
霞勝「必死かよ」
鼓滝、男子達に囲まれている
男子A「あの、これ受け取ってください!」
男子B「ずっと好きでした!付き合ってください!」
霞勝「(呆れて)どうせ断られるのに向かっていく・の
屈強な精神が羨ましいよ」
美波「積極性に関してはあなたより上だけどね」
霞勝「・・・うるせ」
美波「あなたも行ってきたら?その為に来たんでし
ょ?」
霞勝「俺はあいつの人気ぶりが見たかっただけだ」
霞勝、歩き出す
霞勝「もう用は済んだし帰る」
鼓滝、男子達に囲まれ困っている
美波「(鼓滝を見つけ)あ、困ってるわよ?彼女」
霞勝「え?」
霞勝、鼓滝を見つける
鼓滝「あ、あの、すいません、通してください!」
男子達、鼓滝を囲んでいる
鼓滝M「痛い!苦しい!」
霞勝の声「熱狂的なファンも困りものだな」
鼓滝「え?」
鼓滝、手を掴まれている
鼓滝「(引っ張りだされ)キャ!」
男子A「な、なんだ!?」
男子B「消えたぞ!」
霞勝の声「おい」
男子達、声のした方へ振り向くと霞勝が赤面している鼓滝を右手で覆っている
男子A「なんだお前!?」
霞勝「こいつのボディガードだ」
鼓滝「(霞勝を見て)え?」
美波「(ヒューと口を吹き)言うね〜」
男子B「はぁ!?何がボディガードだ!鼓滝さんを独
り占めしたいだけだろ!鼓滝さん、さ、こちら
へ!」
鼓滝、上目遣いで霞勝を見ている
霞勝「(鼓滝を見て)ん?」
鼓滝、霞勝の腰に手を回し、霞勝の胸に顔をうずめて抱きしめる
鼓滝「(真っ赤な頬で)・・・いや」
男子達「な!?」
ガラスが割れる音
男子達、倒れる
霞勝「つ、鼓滝、今日の練習は終わったのか?」
鼓滝「・・・うん」
霞勝「な、なら着替えてこい、か、帰るぞ」
霞勝、美波を見る
霞勝「美波、鼓滝を頼む」
霞勝、鼓滝を美波に引き渡す
美波「(霞勝を見てニヤケながら)分かったわ、さ、行
きましょ?」
鼓滝・美波、剣道部部室に歩き出す
美波「(遠ざかりながら)あ、私天童美波、宜しく〜」
鼓滝「(遠ざかりながら)あ、ど、どうも」
霞勝、鼓滝・美波を見送り、鼓滝・美波が見えなくなると膝から崩れ落ち、両手で顔を覆う
霞勝「(小声で)・・・かわいい」
○同・剣道部部室(夕方)
鼓滝、着替えている
美波、部室内を物色している
美波「鼓滝さんって・・・結構大胆よね〜」
鼓滝「え?」
美波「さっきの事よ〜」
○(回想)同・剣道場外(夕方)
霞勝「美波、鼓滝を頼む」
霞勝、顔が真っ赤になっている
美波の声「あの時の永治の顔、傑作だったわ〜、耳ま
で真っ赤でね〜、見てなかった?」
(回想終わり)
鼓滝「い、いえ、見てませんでした」
美波「久しぶり、いや初めてね、永治と付き合い長い
けど、あいつのあんなに照れた顔見たの」
鼓滝、ふと気づく
鼓滝「永治君と幼馴染なんですか?」
美波「ええ、そうよ、小学校からの幼馴染」
鼓滝、美波をキッと睨む
美波「(睨まれていることに気づき)安心して?私は永
治なんか好きじゃないから」
鼓滝、ホッとする
美波「安心したところを見る限り、永治が好きなの
ね」
鼓滝「(無言で頷き)好きなんです、どうしようもないく
らい。好きで・・・好きで・・・会えない時間が長
く続くと胸が締め付けられるくらい!!」
鼓滝、胸の前でシャツをグッと握っている
美波「(笑顔で)・・・良かったわ」
鼓滝「(キョトンとした表情で)え?」
美波「私、このまま永治の事が好きだったとしてもあ
なたには敵いそうにないんだもん」
鼓滝、首を傾げる
美波「ま、頑張ってね!あいつ、一筋縄ではいかない
わよ?」
美波、部室を出ていく
鼓滝、ポツンと佇む
美波の声「(声が遠ざかるように)着替え終わったらさ
っきの所に来てね〜」
○同・剣道場外(夕)
美波、歩いてきて、倒れている霞勝に気づく
美波「!?」
美波「(霞勝に駆け寄り)どうしたの!?大丈夫!?」
霞勝「(小声で)・・・づみ」
美波「え?」
霞勝「・・・鼓滝」
冷たい目で霞勝を見る
○同・空(夕方)
美波の声「心配して損したわ、ドブが」
霞勝の声「ドブは酷く──」
頬をビンタされる音
美波の声「ない、決してない」
○神崎町・住宅街(夜)
霞勝・鼓滝・美波、横並びに歩いている
美波、鼓滝に顔を向けている
美波「へぇ〜、親に言われて剣道始めたんだ〜」
鼓滝「うん、何か運動しなきゃダメだ!って父さんに
言われて」
霞勝「厳しい家庭だな〜」
美波、霞勝に顔を向ける
美波「貴方は自分で始めたわよね?」
霞勝「ああ、ちょうど暇だったしな、文句言う親も居
ないし」
鼓滝、悲しい表情をしている
霞勝「(鼓滝に気づき)どうした?」
鼓滝「い、いや、前家に行った時、永治君以外誰も居
なかったから、なんでかなって・・・」
霞勝「あー、そーいえば言ってなかったな、俺の両親
は──」
霞勝、美波に腕を掴まれ振り向くと険しい表情で霞勝を見ている
美波「(小声で)ちょっとあなた!まさか言う気!?」
霞勝「(美波に顔を近づけ小声で)言うわけねぇだろ!
ちゃんと誤魔化すよ!」
鼓滝「(覗き込み)何話してるんですか?」
霞勝「い、いや、なんでもない」
鼓滝、首を傾げている
霞勝「(鼓滝を見て)俺の両親についてだったな──」
鼓滝「(微笑み)うん」
霞勝「・・・俺の両親は事故で死んだんだ」
鼓滝「(申し訳なさそうに)・・・ごめんなさい」
霞勝「いいんだ、もう2年も前の事だからな」
鼓滝、一気に表情が険しくなる
霞勝「それにあれは、原因は工場の爆発って警察が言
ってたしな」
鼓滝、呼吸が激しくなっている
霞勝「ごめんな、こんな辛気臭い話しちまって」
倒れる音
霞勝「ん?」
霞勝・美波、音のした方を見ると鼓滝が倒れている
霞勝「鼓滝!」
暗転
○霞勝家・全景(夜)
居間に電気が点いている
○同・居間(夜)
鼓滝、額にタオルが置かれ、布団で寝ている
霞勝、鼓滝の隣に座っている
居間の引き戸が開く
美波「(居間に入ってきて)彼女のお母さんに連絡した
わ、今から来るって」
霞勝「・・・分かった」
美波「(鼓滝の隣に座り)容態は?」
霞勝「だいぶ安定している、汗も引いた」
美波「(心配な顔で)・・・なんだったのかしら?」
霞勝、心配そうに鼓滝を見ている
霞勝「俺の話の途中で倒れたしな」
美波「事故の話してたんだっけ?」
霞勝「(心配な顔で)ああ、何かあったのかな?」
美波「思い出したくない事があったとか」
美波、鼓滝の顔を見る
霞勝「誤魔化したつもりだったが、まさか誤魔化した
話題で倒れるとは」
美波「これからはその話はタブーね」
美波、鼓滝の頬をさすっている
霞勝「ああ」
霞勝、鼓滝の額のタオルを取り、立ち上がり、台所でタオルを洗いタオルを絞る
美波「次からは誤魔化せないわね〜」
霞勝、鼓滝の横に座る
霞勝「(鼓滝の額にタオルを置き)かと言って、何も知
らない人に俺の両親は神器を持ってる能力者に殺さ
れたって言っても分かんねーだろうしな」
鼓滝、飛び起きる
霞勝・美波「!?」
鼓滝、激しく呼吸している
霞勝「鼓滝?」
霞勝、鼓滝の肩を叩く
鼓滝、霞勝を見る
鼓滝「・・・あ、永治君」
鼓滝、呼吸が落ち着く
霞勝「(ホッとして)気がついたか、良かった」
美波「急に倒れたから心配したのよ?」
鼓滝「(辺りを見回し)ここ、1度来たような・・・」
霞勝「ああ、俺ん家だ」
鼓滝「・・・あの、ありがとう、あと、ごめんなさ
い、迷惑かけちゃって」
鼓滝、頭を下げる
霞勝「迷惑だなんて思ってない、目の前で友人が倒れたら助けるのは当たり前だろ?」
鼓滝、照れる
美波、ニヤケながら霞勝を肘でつついている
インターホンが鳴る
美波「あ、来たかな」
美波、立ち上がって居間を出ていく
鼓滝「誰が来たの?」
霞勝「お前のお母さんだ」
霞勝、立ち上がる
霞勝「念の為、電話したら迎えに行くって言ってたみ
たいで」
鼓滝の手をとる霞勝
鼓滝、霞勝の介助で立ち上がる
鼓滝「(よろめき)あっ」
霞勝「(鼓滝を支え)おっと、まだ無理そうだな。捕ま
ってろよ」
霞勝、鼓滝をお姫様抱っこする
鼓滝「(顔が赤くなり)キャッ!ちょ、ちょっと!あ、
歩ける!歩けるから!」
霞勝「(真剣な顔で鼓滝を見て)無理をするな」
鼓滝「(頬を赤く染め)・・・もう」
○同・玄関(夜)
エンジン音
鼓滝の母「(頭を下げ)うちの娘が申し訳ありません」
美波「(笑顔で)いえ、急な事だったので驚きはしたん
ですけど」
足音が近づく
美波、振り向く
霞勝、両手で顔を覆っている鼓滝を抱え、運んでくる
美波、呆れた顔で霞勝を見ている
霞勝「すいません、お母さん、夜遅くに」
霞勝、鼓滝を下ろす
霞勝「鼓滝、歩けるか?」
鼓滝「う、うん」
鼓滝の母「こちらこそ娘が迷惑をかけたよう
で・・・」
霞勝「(笑顔で)いいんですよ、お母さん。では、気を
つけて帰ってください!じゃあな、鼓滝!また明
日!」
霞勝・美波、笑顔で手を振っている
鼓滝、笑顔で手を振っている
車のエンジン音、遠ざかる
○同・全景(夜)
美波の声「あんたって、ホントそーゆーとこあるわよ
ね・・・」
霞勝の声「は?」
○エンディング
○神崎町・住宅街(夜)
街灯が灯っている
白い車が走っている
○車内(夜)
鼓滝の母、運転している
鼓滝、窓の外を眺めている
鼓滝の母「あの子、いい子ね」
鼓滝「・・・え?」
鼓滝の母「あの男の子よ〜、とても優しそうだわ〜、
あの子、きっといい旦那さんになるわ〜」
鼓滝「(照れながら)(小声で)・・・私の旦那さんだも
ん」
鼓滝の母の声「んー?なんかいったー?」
鼓滝「何もない」
鼓滝、悲しい表情で窓の外を眺めている
鼓滝、涙が流れている
○神崎町・全景(夜)
鼓滝の声「永治君──」
○霞勝家・寝室(夜)
霞勝、いびきをかいて寝ている
霞勝・霞勝の父・霞勝の母が写っている写真
鼓滝の声「ごめんね──」
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