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記憶

「竜也さーん!」

 早苗の声を聞こえ、棒立ちだった竜也の意識が外へと向けられる。

 振り返ると、早苗と諏訪子が立っていた。ただ、どちらも疲れているのかぐったりとしている気がする。

 それもそのはずで、彼女らはつい先ほどまでパレードを行っていたのだ。しかも中心に立ってだいぶ派手にやっていたので疲れもするだろう。

「神奈子さんは?」

「神奈子ならあっち」

 諏訪子が指差した方には、妖怪たちに紛れて酒をグイグイ飲んでいる神奈子が。さらにそこに天狗(らしき妖怪)たちが勢いよく突っ込んでいく。人間が若干逃げ出しているように見えるのは、気のせいなのか。

「諏訪子さんは飲まないんですか?」

「神奈子が倒れたら交代しに行くわよ」

 交代、という言い方をしていることから察するに、酒を飲みながら布教活動をしているらしい。

 だが、ちょっと気になることが一点。

「……神奈子さん倒れるんですか?」

「倒れないけど?」

 交代するつもりも、酒を飲むつもりもあまりないみたいだ。

 苦笑いする竜也の肩を、早苗がちょんちょんとつつく。

「それより竜也さん、パレードはどうでしたか?」

「……圧倒されちゃいまして、凄いの一言しか出ません。去年もやったんですか?」

「去年はどちらかというとパレードの手伝いだったよ。まあその分今年は派手にやってやったけどね」

 胸を張りながら諏訪子はそんなことを言う。が、数秒して少し視線を落とす。

「……いや、私がやっても駄目か」

 そこで何を思ったのか諏訪子は早苗の後ろに回り込む。

「な、何ですか諏訪子様?」

「いいからいいから」

 そのまま諏訪子はよいしょよいしょと言いながら早苗の腰に手を当て、肩を引っ張る。状況を把握していない早苗はなされるがままに動かされてしまう。

「何してるんですか? 新手の儀式ですか?」

「たつやー、ちょっと早苗の前に立ってみてー」

「へ? は、はあ?」

 竜也は諏訪子に言われるがままに早苗の前に回り込む。そして一瞬で諏訪子が何がやりたかったのかを理解する。

「……諏訪子さん、俺はどういう反応するのが正解なんですか?」

「自分の心に正直に生きるがいい若人よ」

「諏訪子さんの見た目で若人言っても説得力ないですよ」

「あ、あの、諏訪子様? 結局何なんですかこれ?」

「んー? 特に意味はないけど、強いて言うなら……」

 そう呟きながら、諏訪子はガシッと、胸を張ることでさらに強調された早苗の胸部を鷲掴みする。

「デカイ(確信)」

「って何してんですか!?」

 早苗は諏訪子の手を振り払い、腕で胸を隠す。諏訪子は手をわきわきと動かしながらむうと唸る。

「……早苗、また大きくなってない?」

「た、確かになんかまたキツくなってきた気が……って何言わせてんですか!? ほら、竜也さんが凄い困った顔してるじゃないですか!」

「あ、あははは……」

 竜也は乾いた笑い声を上げながら明後日の方を見ていた。今早苗を見ると視線が一点に固定されてしまう。

 そうこうしていると、何故か諏訪子はジリジリとすり足で早苗に近づこうとしている。それに気づいた早苗もジリジリと後ろに下がる。

「あの、諏訪子様? 何をするつもりなんですか?」

「さなぱいを揉みしだく」

「さなぱいって何なんですか!? ちょ、そんな手をわきわきさせながら来ないでください!」

 きゃーきゃーと言いながら早苗は逃げ回り、諏訪子は凄くいい笑みを浮かべながら追いかける。

 因みに、走り回るものだから胸がぷるんぷるん揺れているのだが、本人には知る由もない。竜也や周りの男は明後日の方を見たり気づかないフリをし、恵まれなかった少女の方々は自身の胸を見たままその場に膝をつく。

「―――とった!」

「やられませんよ!」

 諏訪子の手を早苗は紙一重の所で躱す。すると、ちょうど早苗の後ろに立っていた女性に諏訪子はぶつかってしまう。

「おっと」

 女性は諏訪子の肩に手を置き、ニコリと優しい笑顔を見せる。

「大丈夫? 怪我はないかしら」

「あーいや、ごめんなさい」

「素直に謝れて良い子ね」

 女性の反応を見る限り、どうも諏訪子のことを普通の子供だと思っているようだ。……実際は年齢不詳の神様なのだが。

 早苗は女性に近づき頭を下げる。

「すみません、迷惑をかけてしまって」

「いいですよ別に。皆笑っていればそれで」

 では、と女性は笑みを浮かべたまま早苗と諏訪子の隣を通り過ぎる。

「諏訪子様」

「ごめんってば。この通り反省しています。……しかし私をただの子供だと思うなんて、私らもまだまだだね」

 そして竜也の隣で女性は立ち止まる。

「というかなんであんなことをしたんですか?」

「竜也の気持ちの代弁」

「竜也さんはあんなことしません!」

 女性は竜也だけに聞こえるように、

「何を言うのよ。竜也だって男の子、年頃の男はそういうこと考えちゃうものなのよ」

「そ、そうなんですか!?」

 呟く。


「良かったわね。大切な人たちに出会えて」


「っ!」

 頭を殴られたような痛みがした。ぐらりと、竜也は自分の体を支えられずにその場に膝をつく。

「竜也さん? どうしたんですか竜也さん!?」

「ちょ! まさかまた龍神!?」

 早苗たちの声が頭に入ってこない。頭が割れそうな痛みが、竜也を襲う。

 バキンッ、と何かが壊れる音が聞こえたのと同時。

 竜也の意識が、闇に落ちる。



 慈愛に満ちた顔で笑う女性。

 さっき見た女性とは別人だ。筈なのだが、何故か二人がダブって見える。

 彼女の口が動く。今度はハッキリと、言葉を聞き取ることができた。

「よかったわね。大切な人たちに会えるわよ」

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