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理解できぬ戦い

 その瞬間、その場にいた者達は破壊の余波が飛んでくるのを覚悟した。

 幻想郷の最高神の力を持つ龍と、神話に出てくるような蛇の激突だ。その余波だけでもとんでもない被害が出ると。

 そう思っていた彼女達だが、予想に反して余波が飛ぶことはなかった。


 代わりに、

 全てが黒く染まった。


「…………」

 誰かが声を出そうとした。しかし声は音となることはなかった。

 誰かと誰かがぶつかった。お互いに文句を言おうと声を荒げたが、音が一切出ない。

 不思議に思ってると、次は上下左右の感覚が消えた。

 いや、消えたのは感覚ではない。重力だ。

 ある者は地面に落ち、ある者は訳も分からず上へとすっ飛んで行った。

 光も音も重力もなかった。

 霊力や妖力も感じ取ることができなかった。

 誰がこんなことをしてるのかは、考えるまでもない。

 これが戦いの余波。

 これが化け物達の戦い。

 人も妖怪も、戦いに割り込むどころか、理解するもさえ許されない。

(どうなってる……)

 誰かは、いや、その場にいる者は皆思った。

(今、戦いはどうなってる!?)

 思うことは出来るが、それを知る術を彼女達は持たない。

 何人かの天狗は、やることがなくて脱力してしまう。


 その瞬間に、

 バキバキバキッッ!! と黒に白い線が刻まれた。


 同時に、轟ッ!! と衝撃波か走った。

 ちょうど脱力していた天狗達数人は衝撃波に耐え切れずそのまま吹っ飛ばされた。

「っ! いったい何が……って喋れてる!?」

 ボロボロと、黒が崩れ落ちていき、本来の景色が戻ってきた。

 そして見えてきたのは、全身ボロボロで、少年を腕に抱えた元だ。

「竜也さん!」

 早苗が少年の元へ飛んでいき、元はそれを片手で制した。

 だが早苗は止まらず、そのまま元の側に行き、少年を見た。

「……竜也、さん? この人は、竜也さんなんですか?」

 早苗が疑問を覚えるのも、仕方のないことだった。

 少年の身体の皮膚があった筈の所には、代わりに翠色の鱗があった。顔や腕などの一部分ではなく、全身の皮膚が全て鱗に変わっている。

 それはもはや、人間ではなかった。

「流さん! 八尺瓊勾玉やさかにのまがたまを!」

「へいへーい」

 流が放り投げた勾玉を元は竜也の首にかけ、何かを描くように指先を動かす。

「竜也さんは大丈夫なんですか!?」

「ちょっと黙ってろ! 心配しなくても表面が変化しただけで中身や魂は喰われてない。この程度ならまだまだ人間に戻せる!」

 チカチカと、竜也の身体が光り始めた。それと同時に、竜也の体が元の姿へと戻り始める。

 光る回数の数だけ、竜也の身体の鱗が皮膚へと戻っていった。

 半分程度が皮膚に戻ったのと同時に、竜也の身体がピクッと動いた。

 ゆっくりと、竜也の目が開く。

 左眼は人の眼だが、右眼は蛇のような鋭い眼になっていた。

「竜也さん!」

「……あ、早苗、さん?」

「そうです! 東風谷早苗です!」

 竜也の手を掴み、早苗は必死に呼びかける。その顔からボロボロと涙が落ちた。

 竜也はうっすらと笑いながら、その涙を空いている片手で拭う。

「なんで泣いてるんですか……?」

 竜也の言葉に、早苗は笑って答える。

「誰のせいだと思ってるんですか」

 早苗の言葉に、竜也は笑みを引っ込めた。

「……ごめんなさい」

「…………素直に謝るならよろしい」

「おーい、そこのお二人さん? そういうやり取り後にしてもらえないか?」

 いつの間にか、竜也の身体の鱗は全てなくなっていた。

 元は呆れたように溜め息を吐きながら頭を掻く。その顔には疲労が滲み出ていた。

「……はぁ。とりあえず俺は一旦帰らせてもらうから、鏡用意しといてくれや。蒼、どうせ見てるんだろ? 家まで繋いでくれ」

 ズズズッと、空間に穴が空き、元はそこへ入っていく。

「ちょ、ちょっと待ってください! 竜也さんに何があったのかを――」

 早苗の言葉を無視し、元はそのまま消えた。

「あの人、なんなんですかね?」

 竜也の問いに、早苗は苦笑いしか返せない。

「ちょっといいですか?」

 いつの間にか、文達天狗が竜也と早苗の側まで来ていた。

「な、なんですか!?」

 天狗達の持つ巨大な葉団扇が、全て竜也に向けられた。

「ちょっとちょっと!」

「竜也に手を出すのは許さないよ!」

 竜也と天狗達の間に、神奈子と諏訪子が割り込む。

 天狗達は葉団扇を下げることなく告げる。

「私達について来てもらおう。抵抗した場合は、それ相応の対処をさせていただく」

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