龍と蛇
破壊。
別に、何かが壊されることは幻想郷では珍しくない。弾幕ごっこで飛び交う弾は、当たれば木々くらいへし折る。
そういう意味では、これは幻想郷では日常なのだろう。
ただし、破壊の規模を無視すればの話だが。
山の一角が、音もなく吹き飛んだ。
破壊の中心に立つのは、一人の少年。
ボロッと、少年の頬の皮膚が取れた。皮膚の取れた先に赤黒い肉はなく、翠の鱗があった。
そんな自分の変化に、少年は何も思わない。
彼はただ、目の前の物を破壊する。
「・・・・・・ル」
少年が、人ならざる者の声で呟く。
「カエル、タダシキバショヘ、オオゾラへ」
帰る。
「で、どうすればいいんですか?」
少年から離れた場所に、文達天狗はいた。
「何が?」
流もまた、文達と同じ場所にいた。文の疑問に心の底からわからないといった反応を返す。
「貴方、あれをどうにかする方法を知ってるんしょう? でしたら教えてほしいんですが」
「なんで俺が知ってるって思うんだ?」
「さっき訳知り顔で逃げろとか言っておいてよく言いますね。知ってるならさっさと言ってくださいよ」
「だが断る」
「・・・ふざけてるんですか?」
「それよりもだ天狗共、これから起こることをしっかりと見ておけ」
流は少年のいる方向を指差し、笑う。
「龍の中では最高ランクの力に、神に牙を向ける大蛇の力。なかなか見れるもんじゃないぞ」
「・・・大蛇?」
文が疑問を発したその瞬間、
ズオッ‼︎ と、少年の側に巨大な蛇が現れた。
「張り切ってる張り切ってる」
その蛇には、頭と尾はそれぞれ八つずつあった。眼は赤や青などの様々な種類の色八つ。
そして、少年にも劣らない力を持っていた。
「・・・八岐大蛇」
天狗の誰かが、そう呟いた。
「・・・さてさてどうするつもりかね、光良は」
楽しそうに、流はその光景を見ていた。
その、少し前の時間。
「・・・なんなんですか、これ」
早苗はポツリとそう呟いた。
彼女達は山の近くの空を飛び、信じられない光景を見ていた。
「竜也、だよね?」
「・・・多分」
「なんで、ですか? なんで、なんで竜也さんが⁉︎」
山の一角が、音もなく吹き飛んだ。
その破壊の中心に、竜也が立っていた。
「っ!」
「待て早苗!」
竜也の元へと飛ぼうとした早苗を神奈子は掴み寄せる。早苗は今にも泣き出しそうな顔で神奈子を睨みつける。
「なんで止めるんですか神奈子様!」
「今の竜也に近づいたら、間違いなく消し飛ぶ! そんなの見過ごすわけないでしょう‼︎」
「だったらどうするんですか⁉︎ 竜也さんを見捨てろって言うつもりですか⁉︎」
「そんなわけないでしょうが! ・・・早急に助け出す方法を探さないといけない。だから早苗も協力しなさい」
「でもその間に竜也さんに何かあったら‼︎」
「・・・・・・その時は、私が全部背負う」
重苦しい沈黙が流れる。
つまり、神奈子はこう言っているのだ。
どうしようもなくなったら、自分が竜也を殺すと。
早苗は何か叫ぼうとして、途中でやめた。
早苗の頭を、諏訪子はポンポンと叩いた。
「急ごう。多分、猶予は余り残されてない」
「そうね」
「・・・・・・はい」
三人がその場から飛び去ろうとした瞬間、空間に穴が空いた。
その穴から男が出てきた。
神社で帰らない方がいいと、竜也達に忠告してきた男だった。
「どうもどうもこんにちは。八岐大蛇さんですよー。まあ長いから元という他人の名前で呼んどいてくれや」
「八岐大蛇?」
「はいはい蛇じゃなくて人の姿なのは事情があるの。そんなことは置いといて、俺はあんたらと話に来たんだ」
気楽そうに話してはいるが、元の顔は一切笑っていなかった。
「私たちは急いでるの。あんたの話を聞く暇はない」
「ん? 竜也を助ける代わりにある物を寄越せつー話をしに来たんだが?」
元の言葉にいち早く反応したのは、早苗だった。
「助けれるんですか⁉︎ でしたら早く竜也さんを‼︎」
「ちょっと待って早苗。・・・何を渡せばいいの?」
何かを推し量るように、神奈子と諏訪子は元を睨みつける。
睨まれてることに気付いていないかのように、元はあっさりとそれを口にする。
「八咫鏡。地獄鴉に八咫烏の力を与えた時に使った鏡があるはずだ。あれを渡せ」
「・・・それだけでいいの? そもそもあれは」
「模造品、わかってるよ。模造品だからこそ欲しいんだ。つーか本物がこんな所にあるわけねえだろうが」
「・・・わかったよ。それだけでいいのかい?」
「うむうむ。約束は守れよ」
そう言う元の手元には、いつの間にか一振りの刀があった。
「そこの風祝も安心しろ。心配しなくてもちゃんと助けてやる」
「・・・全然安心できませんよ」
「そりゃそうか」
ヘラヘラと元は笑い、トンッと軽い音と共に元の姿が消えた。
「大丈夫、なんですかね」
早苗が問うと、諏訪子は首を横に振る。
「信頼なんてできないよ。こっちはこっちで動かないと・・・」
ズオッ‼︎ と、少年の側に巨大な蛇が現れた。
「八岐大蛇、ねぇ」
神奈子が呟く。
「・・・何かの時のために酒でも用意しとこうかしら」
その呟きと同時に、
龍と蛇が、激突した。




