自動人形
ドッカンバッコンと、愉快な音が山の方から聞こえてきた。
「なんでしょうかね?」
「河童がまた何かしてるんでしょ」
「せっかく作った参道が壊されてないといいんだけど」
早苗達守矢神社の面子は里で団子を食べていた。早苗の手元には竜也の分の団子の入った箱があった。
「・・・すいません神奈子様諏訪子様」
「ああいいよ、私たちも行くし」
「ついでに竜也に団子渡しとこ」
特に会話をすることもなく、三人は一斉に山に向かって飛んでいく。
「なんなんですか! ほんとなんなんですか⁉︎」
ドッカンバッコンと撃ってくる砲撃から竜也は全力で逃げる。青い少女二人は途中から脇に抱えていた。
その二人の片方は、さっき会ったばかりのにとりだった。
もう一人の少女は抱えられた状態で竜也に顔を向ける。
「私は四黒鳥あみん、よろしく人間」
「こんな状況で自己紹介⁉︎」
「私はいいよね。さっき自己紹介したばっかだし」
二人の状態の片割れ、にとりはコントローラのような物をガチャガチャと動かしている。
「駄目だ、やっぱり言うこと聞かない!」
「あれってなんなんですか⁉︎ いきなりビームみたいなの撃ってきましたけど‼︎」
「説明しよう!」
あみんは何処からか取り出した眼鏡をスチャッと掛ける。
「あれは私達が作り上げた自動人形だ! 本当は私達の弾幕勝負の武器にしようとしてたけどいつの間にか人形に戦わせようとなってあれを作ったんだ! 体格は成人男性とほぼ同じ。しかしその力は鬼に匹敵! 天狗のように素早く動き、相手をビームで一撃必殺‼︎」
ドドーン! と効果音のようなのが聞こえるが、後ろの人形が何かを破壊した音である。
「さらに! なんと設定すれば自動で相手を追いかけ、勝つか負けるまで弾幕を撃ち続ける機能! 設定方法はコントローラを使うか直接スイッチを押せばオーケー! ただし現在コントローラの設定がオフになってるので私たちがあれを操作することは不能! 絶体絶命‼︎」
「さらっとやばいこと言ってません⁉︎」
「ついでに言えば勝ち負けの設定もしてないから壊れるまで止まらない! だけど耐久力高いからまず壊れない! 白狼天狗の全力でも壊れないよ! 君なんて名前?」
「加賀竜也です! そんなことよりあれどうにかならないんですか⁉︎」
「大丈夫! その内天狗が来てくれるはず! きっと、多分!」
「すっごい不安‼︎」
あみんがベラベラと喋るのに竜也がツッコミを入れてる間も時間は動き続ける。にとりはずっとスマホに似た何かを操作していた。
「あみん! 天狗の人達が騒ぎを聞きつけてもうすぐ来るらしいよ!」
「やった! 天狗の部隊とどれだけ戦えるのかデータ取らないと!」
「そこですか⁉︎」
「やれやれ。河童の皆さんには困ったものです」
いつの間にか、本当にいつの間にか、全力で走る竜也に並走する少女がいた。
いや、並走という表現は正しくないだろう。何故ならば、その少女は空を飛んでいたからだ。
「文! なんでここに?」
「本当は外来人の所へ取材しにいくつもりだったんですが、なんか河童の作った物が暴れてるからお前も手伝えと上司から連絡が来たんです」
「あー、ごめんねー」
「全く、貴女の作る物にいい思い出がないですね。それと貴方、もう走らなくていいわよ。あの人形もすぐにゴミになるでしょうし」
文と呼ばれた少女がそう言ったその瞬間、
轟ッ‼︎ と暴風が吹き荒れた。
「皆暇してたからねー。張り切っちゃってるわ」
風は地面を砕き、木々を巻き上げた。
あらゆる方向から吹き荒れる風に、人形は何もすることができずに竜也の視界から消えていく。
「凄いですね・・・」
「これが組織の力ですよ。一人では弱くても集めればこんなにも強力なんです」
「・・・うーん」
竜也が関心する隣で、あみんが不満げに口を尖らせる。
「どうしたんですか?」
「いやさー、やっぱり思っちゃうのよ。こうやってあっさり壊される所を見せられると」
はぁー、とあみんは溜め息を吐く。
「壊されたくないってね。あれも私の造った作品だからね、そう思っちゃうんだよ」
「無茶言わないでください。山に住む者として、あれを放置はできませんよ」
「そうだよあみん。また作ればいいじゃん」
「わかってるさ。だから、これは願望。叶わない願いってやつさ」
ポツリと、あみんは呟く。
「壊されたくないなあ」
「だったら私が叶えてあげるわ、河童さん」
突然、誰かの声が聞こえてきた。
「え?」
「何今の?」
「どこから?」
「誰です⁉︎」
それぞれが違う反応をしながら周りを見回す。
ドウッ‼︎ と、何かが起きた。
四人揃って、音のする方へ向き直る。
いつの間か、風は止んでいた。辺りは不気味なほどに静かだった。
「何が・・・」
竜也が呟き、合わせたかのようにそれは現れた。
人形だ。さっきまで天狗達に破壊されていたはずの人形が、傷一つない状態で立っていた。
ただし、その全身は赤黒い液体でコーティングされているが。
「まさか、全滅?」
文が、信じられないといった表情で人形を見ていた。
人形の右手が、竜也達に向いた。
「あれは・・・」
高く伸びた木の上から、華扇は見下ろしていた。視線の先にはキュウリ色の人形がある。
華扇が見ていたのは天狗達が人形に一斉攻撃しているところだった。
また何かトラブルがあったのかと思って素通りしかけたその瞬間、奇妙な力を感じ取ったかと思えば天狗達が一掃されていたのだ。
しかもその人形は竜也達に向かって行っている。
「止めないと・・・」
「まあまあ待て待てそこの仙人」
急いで止めに行こうとした華扇の腕を誰かが掴んだ。
振り返れば、いつも間にか緑髪の男が立っていた。左眼には眼帯をしている。
「ども、竜峰流だ。よろしく」
「誰ですか貴方は」
「自己紹介はしただろうが。種族人間とでも付け加えてやろうか?」
「貴方が人間?」
「人間だよ。自分がこうなんだって言うなら、そいつはきっとそうなんだよ。仙人だって言えるなら、きっとそいつは仙人だ」
「・・・・・・」
「・・・逆に、人間の癖に自分を化け物と言っちまう奴は、きっと化け物なんだろうよ。あいつはどうかな?」
そう言って流は腕を放す。
華扇は流をどうするべきか、無視して竜也の元へ行くかを少し考えた。
だが、考えている間も時は動き続ける。
ゴッ‼︎ と、竜也達に向かって青白い光が放たれた。
「しまっ⁉︎」
「ふー危ない危ない」
遅かった、と思った瞬間に天狗が河童二人を抱えて華扇の側に浮いていた。一瞬でこちらに飛んできたようだ。
「あれ? 文、竜也は?」
「え?」
辺りを見回しても、竜也はどこにもいなかった。
「私の腕は二本しかありませんし、部外者の為に命捨てるようなこと私はしませんよ」
「じゃ、じゃあ竜也は?」
「あれを耐えられると思います?」
目を向ければ、先ほどまで天狗達がいた所白い煙で満ちていた。地面が溶けているのだ。
「そんな・・・」
コロリと、華扇のポケットからアクセサリーが落ちた。地面に落ちていく寸前に流がそれをキャッチする。
「・・・・・・おい、仙人。これはどこで拾った?」
そのアクセサリーは、勾玉だった。
「ちょっと色々あって、竜也が落とした物ですよ」
「あ、やばいわそれ」
「?」
「全員受け身のたいせーい」
その言葉が、全員に理解される直前、
全てが、吹き飛んだ。
わかりやすい音や前触れなど一切なかった。本当に突然、あらゆる物が吹き飛ばされた。
「おーおーラリってるラリってる」
流のそんな言葉が聞こえてくる。だが彼女達はその言葉を聞かず、別の物を感じ取っていた。
その時代にいなかった者からすれば恐ろしいほどの霊力。しかしその時代のころからいた者からすれば恐ろしさと懐かしさを覚える。
「龍神・・・」
それは、龍の神。幻想郷の最高神の力。
だが、
「なんで?」
誰かが、疑問を発した。
「なんで竜也からあんな霊力が感じ取れるの⁉︎」
彼女達の視線は、全て彼に向いていた。
彼は、傷一つなく、人形を片手を持っていた。その人形がボロボロになっていることから、彼が人形を破壊したことが伺える。
その彼から、龍神の力を感じ取っていた。
「おーい、お前ら命が惜しければ逃げとけ。殺されるぞ」
流は彼に向かって指を指す。
「今のあいつ、正常に見えるか?」
そう言ってる時には、もう天狗は河童を連れて逃げ出していた。華扇も慌てながらも彼から距離を取ろうとしていた。
だが遅い。遅すぎた。
轟ッ‼︎‼︎‼︎ という音が響いた。
破壊の波が、襲いかかる。




