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異世界詐欺師 ~魔法が使えない俺は、嘘だけで世界を騙す~  作者: エース・レッド


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番外編2 マオって結局ザビトのことどう思ってるの?

 ザビトは失念していた。マオはこの世のものとは思えないほど、端正な顔立ちをしているということを、忘れていたのだ。


 ある日の午後、ザビトは一人でマーケットに来ていたときのことだ。マオは朝早くからいつものごとく出かけており、起きた時にはいなかった。


 マーケットでは魚や野菜類、果物などがパラシュートの下で売られており、元気な店主たちの声と、ごった返しているお客の喧騒で賑わっていた。


 情報収集及び買い物が終わったザビトは、街の観察も込めて少し路地裏を歩くことにした。


 大通りのマーケットを少し外れればレンガ造りの家が両脇に並び、足元には空き缶や生ごみなどが落ちていた。


 たまに異臭を放つゴミなどもあって、衛生環境はお世辞にも良いとは言えなかった。


 棄てられていたであろうカーペットの上に座り、薄汚れた毛布を被っている浮浪者たち。


 路地裏にお客は滅多に来ないのか、ストリートの者たちは物珍しそうな顔でザビトを見ていた。


(どこも貧困は変わらないものだな)


 そう考えていた時だった。


「……えっと……」


 か細い、今にも倒れそうな声。聞きなれた声がして、ザビトは迷わず歩を進めた。


 十字路で右に曲がると、行き止まりの壁に背をもたれさせながら、青白い顔をしたマオがいた。腕には白い猫が抱かれており、猫を追ってこの路地裏まできたようだった。


 マオの前にいるのは、長髪を靡かせた一人の男だ。マオの正面に立っており、バラの花束をマオに差し出していた。


 男の顔は見えなかったが、すぐにザビトはピンときた。


(おいおい、告白かよ)


 それを裏付けるように、高揚した男の声がザビトの耳に届いてきた。


「君みたいな美しい子は初めてだ! 巡り合えたのはきっと、運命だ!」

「え、えっと……?」

「ボクと付き合ってくれ! いや、結婚してくれ!」

(おいおい、飛躍しすぎだろ)


 人の色恋に深入りする気はない。しかしなぜだろうか。


 困った顔で所在なさげにしているマオを見ていると、守りたくなってくる。それだけではない。花束を差し出している男に対して、なぜかモヤモヤする。


(なんで俺、モヤモヤしているんだ?)


 分からない。なぜモヤモヤしているのだろうか。


 色恋は当事者に任せようとその場を去ろうとした時、ふとマオと目が合った。


 瞬間、マオの顔が花が開いたように明るくなっていく。


 それがとてつもなく可愛くて、それが自分に向けられていることが嬉しくて、ザビトは頭をガシガシと掻くと二人の間に割って入った。


「すいませ~ん、連れがお世話になりました~」

「ん!? 君は誰だい?」


 突然現れたザビトに驚く花束の男。


 ザビトは陽気な笑顔を浮かべながら、男に向かって手を振った。


「俺はコイツの連れっすわ。実はこの後予定があって、すんませんけどコイツ借りるっすわ」

「え、それは大変だ! すぐに行くと良い!」


 ゴネられるかと思ったが、話の通じる相手のようだ。ザビトは頭を下げながら、マオを回収した。


「ザビト!」

「今度から気を付けろよ」

「うん!」


 仲睦まじい二人を見て不思議に思ったのか、男が聞いてくる。


「君たちは兄弟かい?」

「いや、兄弟じゃないな」

「なら、どういった関係だい?」


 探るというよりは、純粋な疑問。ゆえにザビトは、固まってしまった。


 ──どういった関係?


 ザビトの頭がフル回転する。


 友達? いや、気安くはあるが、友達って感じではない。


 なら知人? いや、それにしては一緒にいる時間が多すぎる。知っていることも多すぎる。


 では恋人? あり得ない。告白なんてしていないし、付き合ってもいない。


 では、俺達の関係は──?


 珍しく言葉に詰まったザビトだったが、ザビトが返事をするよりも前に、マオが男に向かって答えを言った。


 しかしマオは答える瞬間、ザビトの耳を塞いでいた。


「──」


 マオの唇が動く。マオの返答を聞いた瞬間、男は涙を浮かべつつ、花束を抱きしめていた。


 耳から手が離れると、男は意気消沈したような、でも憑き物が取れたような顔でザビトとマオに向き直った。


「そうか、君たちはそんな“関係”だったんだね。ならボクの出る幕はないね……」


 男は華麗に肩に花束を乗せると、手を振った。


「君たちの未来に幸あれ! アディオス!」


 男の背を見送りながら、ザビトはマオに問うた。


「なぁ、あいつに何て言ったんだ?」


「んー? それはね、内緒だよ」


 上機嫌なマオ。しかしマオは知らないのである。ザビトが読唇術を使えるということを。


 マオの隣に立ちながら、ザビトは自分の耳が赤くなっていることに気が付かないまま、荷物を持ち直した。


 風にそっと、ポピーの花が揺れていた。

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