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第2話 噂の震源地は誰の手に?

午後の教室は、空気が少し張り詰めていた。

「ねぇ、九重。悠里ちゃん、あの階段の事故って、偶然だと思う?」


蒼が机に肘をつき、怪訝そうに紬を見つめる。紬は眉をひそめながらノートに書き込んだ。


「偶然……かもしれない。でも、噂が“事故”に変わった瞬間を私は見逃さない。学園で何が起こるか、それを“解剖”するのが私の仕事だ」


教室の掲示板には、昨日の事故についての書き込みが絶え間なく更新されている。


「悠里ちゃん、怨霊のせいじゃない?

昨日の夜、あの校舎の七不思議の話してたらしいよ」


「いや、ただの階段滑りだろ」


「でも本人、昨日からずっと不安そうにしてたんだよね」


紬はペン先で文字をなぞる。噂の震源地は掲示板ではなく、誰かの口から生まれたものだ。まずは出所を探らなければ――。


「蒼、掲示板だけじゃなく、噂を広めた人間を探そう。誰が最初に書き込んだ?」

「なるほどね、ネット分析もするってことか」蒼は小さく笑う。だが、目の奥には興味が光っていた。



二人は放課後、掲示板の前で足を止める。周囲の生徒たちはスマホを見ながらささやき合い、噂を確認している。

「まず、昨日の目撃者から話を聞く」紬はリストを取り出し、効率的にターゲットを決めた。


最初の目撃者は、図書委員の篠原美咲。

「悠里ちゃんが、転校初日だからって緊張してたのは確かです……でも階段で滑ったのは本当に偶然です」

紬は頷きながらメモを取る。

「偶然、ね。だが、その偶然を“怨霊のせい”に変えたのは誰か」



次に二人は新聞部の資料室へ。掲示板書き込みの履歴を確認すると、最初の投稿者は匿名アカウント「七不思議ハンター」だった。

「……やっぱりネットの力か」蒼はスマホ画面を指さす。

「でもこのアカウント、学内生らしい痕跡が残ってる。つまり噂は、学内から始まった」


紬は眉間に皺を寄せる。噂は偶然の事故を追い、心理的に広がり、現実に小さな混乱を生む。

「面白い……噂は、人の恐怖心や好奇心を栄養にして生き延びる」


蒼は冗談っぽく肩をすくめる。

「噂って、まるで生き物みたいだな」


紬は軽く微笑む。

「その通り。だから“解剖”が必要なの」


真犯人? それとも誤解?


調査を進める中で、二人は予想外の事実にたどり着く。

「七不思議ハンター……実は悠里ちゃんの友達の一人、藤井理央だった」紬は声を潜める。

蒼は驚き、口を半開きにした。

「え、つまり、善意で面白がっただけ……?」

「善意も悪意も、噂になれば力を持つ」紬は冷静に告げる。


理央に事情を聞くと、彼女はただ転校生を歓迎したくて噂話を投稿しただけだった。だが、匿名であるがゆえに、生徒たちは真意を知らずに膨らませ、恐怖心を増幅させてしまった。



「結局、事故そのものは偶然。でも噂は、現実をねじ曲げる力を持った」紬はノートにまとめる。

蒼は感心して頷く。

「よく分かった、噂ってやつも恐ろしいもんだな。でも、解剖すれば理解できる……ってことか」

紬は微笑み、蒼に向かって言った。

「そう。だから私たちは噂を“見える化”する」


夕暮れの校舎で、二人は並んで歩く。噂という見えない影を追う少女と少年――彼らの目には、学園の小さな日常が、少しだけ違った色で映っていた。

#学園掲示板

「七不思議ハンター、理央ちゃんだったのか!」

「善意だったのに、みんなが怖がったせいで大騒ぎになったのね」

「でも、こうやって噂を追う二人って……ちょっと面白い」

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