【応援感謝☆番外編】ランチボックス~ヒロイン視点~
「はぁ……」
秋空を眺め、私はため息。
(ケントが騎士団主催の剣術大会に出場すると知り、ランチを用意すると息巻いたけど……)
ポロロック男爵家の養女に迎えられる前は孤児院にいた。その孤児院のみんなはとても親切だったのだけど……。
さすがにただ飯は許されない。まさに働かざる者食うべからずの厳しさもあったのだ。ゆえに最初は何の能力もない私は料理係を任され、野菜の皮を剥いたり、刻んだり、水汲みをして火を起こし、スープを作ったりした。パンも焼き、鶏の卵を集め、皿洗いも手伝っていたのだ。
(でもだからといって作る料理を自分で考えたわけではなかった)
さらにいえば元の世界で料理をバリバリしていたのかというと……。
(していない。バレンタインでチョコやクッキーを焼いたり、学校の授業……家庭科でワイワイと調理したり、学校行事の飯盒炊爨でカレーを作ったり……ぐらいしかしていない)
それなのにケントに「ランチボックスを用意します!」と言ってしまったのは……。
(元の世界では彼女が彼氏のためにお弁当を用意したり、手作り料理で喜ばせるのが……定番だったから。でもこの世界は料理人がいて、そもそも貴族は料理をしないわけで……)
やっちまったなぁ~と思うも、後の祭り。何かしら用意しなければならないが、そもそもこの世界は元の世界とは違う。どんな食材が手に入り、どんな料理が作れるのか。冷蔵庫もなく、電子レンジもないのだ。
(屋敷の料理人に聞けばいいのだろうけど……)
「料理について相談するなんて、孤児院上がりは……」なんて思われたらとウジウジしているうちに、ケントの出場する剣術大会まで残り一週間を切っていた。
「はぁ……」
「ため息などついて、どうしたのかしら?」と優しい声がする。
「悩みがあるなら日曜日のみんなが集まった時に相談すればいいのに」と凛とした声音。
「マッサージの時は『レディーファーストで!』と強く主張するポロロック男爵令嬢ですが、こんなアンニュイなため息をつくのですね」と、どこか本の虫な気配。
ハッとして左右を見ると、校庭を見下ろす窓から外を見ているのは私だけではなかった。
右手に女神様ことベヴァリッジ公爵令嬢、左側に王太子殿下のエリック、さらにブライト公爵の令息・カッセルがいるのではないですか!
「もしかしてダイセン侯爵令息が剣術大会の練習に追われているから、寂しいのかしら?」
女神様の指摘に「!」となり、慌てて「そういうわけでは」と否定する。
「あら……違うの?」
ホワイトブロンドの美しい髪を揺らし、女神様が心配そうに首を傾げる。これを見た私は――。
「実は……」とため息の理由を打ち明けていた。
◇◇◇
「なるほどですわ。剣術大会でランチボックスを届けることにしたのに、料理のメニューが浮かばない……のですね」
「そうなのです……。孤児院では料理もしていたのですが、メニューはシスターが考えていたので……」
「ポロロック男爵令嬢は貴族ですのよ。料理のメニューが浮かばなくても当然よ」
優しい女神様の一言に胸が熱くなる。さらに女神様は神託を授けてくれる。
「私はマッサージについて研究する傍ら、筋肉についても研究して食材についてもいろいろ調べたのですが……筋肉のためには栄養バランスが大切です。たんぱく質、炭水化物、脂質にミネラル、トータルでエネルギーが補給できるとよいかと。そういった意味では赤身のお肉、卵やチーズ、ナッツなどがたんぱく質。炭水化物はパンですが、白パンより黒パン。フルーツもいいですわね。脂質はチーズとナッツでカバーできますわ。ミネラルは……赤身肉、フルーツ、ナッツ」
これを聞いたカッセルはこんなアイデアをくれる。
「ランチボックスの定番はサンドイッチだ。黒パンを使い、サンドイッチを作ればいいのでは?」
(サンドイッチ! それなら私でも作れるわ!)
「赤身肉……それならばローストビーフがいいのかな? ローストビーフのサンドイッチ、たまごサンド、チーズサンドかな?」
エリック王太子殿下も普段料理とは無縁だろうに、自身が知る料理で提案をしてくれる!
「フルーツは季節ものをそのまま用意して、ナッツは……甘くないビスケットにすればフルーツと一緒に食後のデザートにできますわね」
女神様の最後の一声でランチボックスが頭の中で完成する。でも極めつけはこれ!
「次の日曜日だろう、剣術大会は。よかったら王宮の離れにある別邸の厨房を開放するから、そこで用意したらどうですか? いずれにせよ、みんな剣術大会に招待されています。ランチボックスが準備できたら、会場へみんなで向かうのがいいのでは?」
エリックのこの言葉に女神様は「名案ですわ」と微笑み、カッセルも「それがいいと思う!」と賛同している。
(ああ、持つべき者は友ね。しかも彼らは凡庸な私と違い、才媛にミスターパーフェクト、そして天才なのよ……!)
かくして私は無事、ランチボックスを用意して、愛するケントに……大喜びしてもらうことができた。
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