3-3 圧倒
(魔法を書き換えるにはまず経路を探さないと)
セラフィナは黒い霧を探る。
魔法を行使するには順序というものがある。
起点、経路、記述、定着、終端。
経路というのは、魔力を起点から終端につなぐパイプのようなものだ。
(経路を書き換えてあの鞭の魔法を魔族自身に向けられれば……)
魔法の書き換えは苦手だ。けれど、そんなことを言っていては全滅してしまう。
今もヴァルトが魔族と戦っている。早く見つけなければ……。焦れば焦るほど霧を追うのが困難になってゆく。けれど、セラフィナは見逃さなかった。
「あった!」
うなる魔力の奥底に経路を見つけた。精神を研ぎ澄まし、自身の魔力を楔のように打ち込んでゆく。パイプのつなぎ目を変えるように、魔力の流れを変える。魔族から霧へと流れていた魔力は、魔族から魔族へと逆流していく。
「戻りなさい!」
セラフィナの叫びに呼応し、ヴァルトに迫っていた黒鞭が不自然に静止した。
そして、獲物を変えた蛇のように、その先端が術者である魔族へと牙を剥く。
「出来た……!」
ヴァルトが追撃のために動く、が、魔族がそれを止めた。
魔族は羽虫を払うかのように手を動かすと、黒鞭が霧散する。
「⸺ッ!?」
セラフィナは息を呑んだ。ヴァルトも困惑して動きを完全に止めてしまっている。
書き換えたはずの魔法が魔族の手元に触れた途端に、何事もなかったかのように元の霧に戻ってしまった。
「あぁ……経路の書き換えか。悪くない」
魔族は退屈そうに自分の指先を見つめながら言った。
「だが、わたしの魔法を無効化したければ定着まで書き換えなくてはな」
「……嘘でしょ、あたしの術式が一瞬で剥がされるなんて」
セラフィナの顔から血の気が引く。
彼女が教えどおりに積み上げてきた順序は、この魔族の前では赤子の積み木遊びのようなものだった。
「おい、下がれ!」
ヴァルトが一歩前に出る。けれど、魔族は戦う素振りを見せない。
「お前たちは殺さない。その才能が枯れてしまうのは惜しい」
魔族は踵を返し、ゆっくりと森の奥へと歩みを進める。
「また会おう、秀才よ」
「待ちなさい!」
セラフィナは杖を構え直すが、魔族は霧と共に姿を消した。
その瞬間、森が元の姿を取り戻してゆく。
木からは目が消え、花は足を無くし、動物たちからはキノコが落ちた。
「逃げられた、というよりは」
「ああ、相手にされなかったな」
ヴァルトが剣を鞘に収める。その手は少し震えていた。
セラフィナは自分の魔法が全く通用しなかったことに、これまでにない屈辱と、そこしれぬ恐怖を抱き、立ち尽くすしか出来なかった。




