↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/33

1-9 宝を盗んだ女盗賊

 女盗賊の家は、街の北のはずれにぽつんと建っていた。さして広くもない庭には、雑草が生い茂り、長らく手入れがされていないことが一目でわかる。家は大きくはないが、小さくもない。一人暮らすにはちょうどいいサイズだ。窓にはカーテンが引かれ、中の様子はわからない。

 

 セラフィナは、扉の前で足を止める。

 

 (この中に、問題の女盗賊がいる……かもしれない)


 視線は家へと向いているが、意識は先程のレストランでの会話に戻っていく。


◇ ◇ ◇


 「……今のあたしは世界のお掃除係。散らかした人には、ちょっとだけ話を聞かせてもらわないとね」


 そう呟いたセラフィナに、ロビンは少し怯えたように目を丸くした。


 「そ、それって……その女盗賊に会いに行く、ってことですか?」

 

  「ええ、そうよ。彼女が宝物庫……遺跡の宝を持ち出したことが、石像が人を襲う原因になっているのは間違いないわ」


 セラフィナは頷き、淡々とそう言った。

 そもそも、盗みを働くという行為自体がセラフィナには許せなかった。どんな理由があっても、人の物を奪っていい理由にはならない。ロビンも、例外ではないのだ。


 「あなた、その女盗賊の家は知らないの?」


 「えっ!?えーっと……」


 目は口より物を言う。その目は語っていた⸺家を知っている、と。


 「そ、じゃあ案内してちょうだい。助けたんだもの、これくらい付き合ってくれても良いわよね?」


 セラフィナは少し意地悪そうに微笑んでみせた。その笑みを見て観念したのか、ロビンは項垂れて言った。


「もちろんですとも……」



◇ ◇ ◇


 そうして、今この家の前にいる、というわけだ。


 セラフィナは一度、大きく息を吐いた。


 (さて、お掃除係開始といきましょうか)


 コンコン、と扉を叩く。しばらくすると、ぎぃ。と音を立てて扉が開いた。

 

 現れたのは、茶髪を一つに結んだ若い女性だった。少し薄汚れたシャツに、穴のあいたズボン。だが、鋭い目つきは油断無く、腰にはしっかりと短剣が吊るされている。


 「……誰?」


 女性は怪訝そうに目を細めた。

 けれど、その目はすぐに見開かれる。


 「……え?ロビン?」


 目線はセラフィナではなく、彼女の後ろにいたロビンに真っ直ぐと向けられていた。


 「や、やぁ、リリア。久しぶりだね」


 ぎこちなく手を上げるロビン。

 一方、リリアと呼ばれた女盗賊はまだ警戒している。

 

 「なに、あなた達知り合いだったの?早く言ってくれれば良かったのに」


 「実はそうなんですよ、幼馴染なんです」


 「そ。とりあえず、あなた……リリア?話を聞かせてもらえないかしら」

 

 セラフィナは腕を組みながら問いかける。

 リリアはゆっくりと視線をセラフィナへと戻した。


 「話って何さ」


 「あたしは今世界のお掃除係をやってるんだけどね。あなたが近くの遺跡で散らかした件について聞きたいのよ」


 リリアの肩が、わずかに揺れた。


 「私がやったとは、限らないでしょ?」


 「じゃあ否定するの?」


 「……」


 セラフィナの視線を正面から受け止めきれず、リリアは目を逸らす。やがて、小さく息を吐き、ぽつりと口を開いた。


 「私が、やったわ」


 ロビンが驚いたように、リリアを見た。


 「どうして、そんなことを……」


 「ちょっと、なんであなたが驚いているのよ。噂で聞いたって言ってたじゃない」


 「あくまで噂じゃないですか!僕は信じてなかったんです!」


 重い空気の中、リリアが口を開いた。


 「あんたの……あんたの母ちゃんには世話になったからさ。薬代を、と思って……」


 「……え?」


 「っ……、だから!あんたの母ちゃんの病気を治してあげたかったんだよ!」


 これにはセラフィナも驚いて、口をつぐんでしまった。

 二人とも、動機は同じだったのだ。ロビンの母親のために、盗みを働いていたのだ。


 「あの宝、換金出来れば薬代になると思った。でも、ちょっと惜しくなって手元に残してたんだ。そうしたら……」


 リリアは唇を噛みしめた。


 「噂を聞いた人たちが遺跡に向かって、次々と行方不明になったのね」


 「そう……私のせいだ」


 セラフィナの目には、リリアは反省しているように見えた。


 「どうして宝を返しに行かなかったの?」


 「持って帰ってくるだけでも、命からがらだったんだ。あの石像群の中、最奥まで行って宝を置くなんて、私にはとても出来やしないよ……」


 そこまで言って、リリアはセラフィナから目を逸らした。


 しばしの沈黙。


 セラフィナは、ふうっと息をつき、リリアの肩に手を置いた。


 「事情はわかったわ。じゃあ、お掃除といきましょう」


 「掃除……?」


 「あなた一人じゃ無理でも、二人、三人居たら大丈夫かもしれない。そうでしょ?」


 そして、軽く笑って言った。


 「大丈夫、あたしがついてるわ」


 リリアは目に涙を滲ませた。

 ずっと後悔していたのだろう、何人も何人も、行方不明者が出る度に自分を責めたのだろう。

 あの日、あの場所から、宝を持って逃げ出してしまったことを。

 ずっとそれが、心に刺さったままだったのだ。


 「今度は一緒に行きましょ?このあたし、魔法使いセラフィナが、あなたを守る盾になるわ」


 「いやいや!魔法使いが盾になってどうするんですか!?」


 すかさずロビンがツッコミを入れる。


 「あっ、それもそうね。じゃあ後ろから魔法を撃ちまくるわ!!」


 少しだけ頬を赤らめて、恥ずかしそうに笑った。

 ロビンは、僕が囮をやります!と意気込んでいる。


 そんな二人を見て、リリアもつられて笑ってしまう。


 「……ありがとう」


 その目には、もう涙は滲んでいなかった。


 「よーし、じゃあ作戦会議しましょう!リリア、そろそろ部屋に入れてもらえるかしら?」


 「あっ、すまねぇ、ずっと家の前で立ち話をさせてしまって」


 三人は家の中に入り、それぞれ適当な場所に腰を下ろす。


 「じゃ、役割を決めていくわよ」


 「……でも、あの遺跡、本当に“宝を返すだけ”で済むのかな」

 リリアの呟きに、二人が顔を見合わせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。