第65話 腹毒
腹痛は辛いです
第65話 腹毒
「今回は判断を誤ってしまった。おかげで時空間操作スキルを使う羽目になってしまったよ」
「あの手裏剣攻撃の事ね?」
「そう。あの場面では、ブレスの範囲から退避しつつ攻撃をする方が良かった」
「でも、まあ無事で良かったわ。しかし、時空間操作スキルってほんとにチート技ね」
「それは言わないでよ。僕もちょっとずるいと思う…」
「まあそれは良いとして、フロスト・ドラゴンはアース・ドラゴンよりも動きが速いわね。アース・ドラゴンと同じ作戦では駄目だわ」
「そうだね。次からは、あらかじめ分身の術を使っておこうかな」
「それなら、フロスト・ドラゴンが一体なら問題ないわね」
「うん、二体以上なら、しばらくは時間を止めるよ」
「それでいいの?」
「うん、安全第一だ」
「そう?レンが良いのならいいわ」
それからは、常時分身の術を使いながら、フロスト・ドラゴンを狩っていった。
そして、南東ブロックの攻略を終える頃には、エライザはレベル17へと至っていた。
「やったわ。遂にリザレクションの呪文を習得したわ。これで、レンに万が一のことがあっても、助けることが出来る!」
「エライザ、おめでとう。そうならないように頑張るけどね…」
「僧侶の呪文を全部収得したの?」
「ええ、その通りよ」
「それは本当に凄いし、おめでたいことだね。今夜は祝杯をあげないと」
その夜は、美味しい食事とワインでエライザの偉業を祝った。
翌朝、僕は宿泊施設にあるレストランで朝食を摂っていた、いつもなら来るはずのエライザが、まだ下りてこない。
いつもなら元気いっぱいにやって来ている時間だ。
何かいやな予感がして、そうそうに食事を終えると、エライザの部屋をノックした。
「エライザ、いる?どうかしたの?」
「レン?何だかお腹がモヤモヤして調子が悪いの。昨日食べすぎたかな…」
「悪いけど、今日は迷宮探索をやめておくわ。迷惑をかけてごめんなさい。レンはソロで潜っていて」
「本当に大丈夫?じゃあ僕はソロで潜って…、いや僕も今日は休息日にするよ」
「隣にいるから、何かあったら呼んでね」
「ありがとう。もう少し寝ているわ」
顔色を確認することは出来なかったが、明らかに様子がおかしい。
僕はしばらく自分の部屋で、考え事をしていた。
2時間ほど経ってから、もう一度エライザの部屋を訪ねた。
「エライザ、どう?」
「うーん、あまり変わりないわ」
「試しに、プチヒールを唱えてみようか?」
「治癒系の魔法は病気には効果が無いわ。私も一応試したけど、駄目だった…。もう少し様子をみてみるわ」
「そう?何かあれば遠慮無く言ってよ」
「ありがとう」
エライザが心配だ。
もうしばらくしてから、また、エライザを訪ねた。
「エライザ、具合はどう?」
「レン?お腹が痛いの」
「大丈夫?入って良い?」
「ちょっと待って、今開けるから」
ドアを開けてはいると、エライザは辛そうな顔をしており、顔色もずいぶん悪い。
「レン、私、腹毒かもしれないわ」
「腹毒?」
「レンは知らないの?」
「うん。でもちょっと待って、呪文を受け入れてね」
「………キル・ペイン!」ペインキラーの魔法を唱えた。
ペインキラーの魔法は、一時的に痛みを軽減する魔法で、痛み止めといったようなものだ。
「どう?」
「ありがとう、少し痛みが和らいで、楽になったわ」
「エライザ、さっき言っていた腹毒について教えてくれる?今は、呪文の影響で一時的に痛みが少し引いているだけなんだ。根本原因をなんとかしなきゃ」
「分かったわ。腹毒はね、お腹のモヤモヤや鳩尾の軽い痛みで始まって、次第に下腹の右の方が痛くなっていくの。その痛みがお腹全体に広がったら、もう駄目。徐々に状態が悪くなって死んでいくわ。私の祖母もそうだった。今、私は下腹が痛い状態。もし、このまま悪化していくと…、駄目かもしれない…」
エライザの話を聞いている途中から、前世の記憶が一部蘇り、それが典型的な盲腸(急性虫垂炎)の経過だとわかった。
前世では、盲腸は普通に治る病気で、致命的になることは考えられないが、抗生物質もなく、細菌の概念さえないこの世界では、治療が出来ないまま病状が進んでいき、死に至るケースが多いのであろう。
「エライザ、僕が、前世では医師という病気を治す職業をしていたのを知っているね?」
「ええ知っているわ」
「それなら、僕を信じてくれないか?」
読んで頂き有り難う御座います。宜しければ、高評価、ブックマーク登録をお願いいたします。
明日から、少し投稿頻度が落ちるかもしれませんが、頑張りますのでよろしくお願いします。