序章 名も無き者の談
──ここはどこだろう?
気付けば暗いところで蹲っていた。
暖かくも冷たくもない、暗いところだ。
──わたしはなんだろう?
思い出せない、わからない。
わたしがわたしであることしか覚えていない。
──どうしてここにいるのだろう?
少し前、わたしはもっと安らげるところで眠っていた。
──わたしはどこにいたのだろう?
それは思い出せる。大きくて優しい存在の中にいた。
暖かくて、包み込んでくれて、安らげる場所を与えてくれた存在だ。
──そこにかえることはできるのだろうか?
無理だ、と本能が告げている。
あの安らげる場所に帰ることは不可能だった。
──それでもかえるところがあるのはしっている。
大きくて優しい存在、その胸に帰ることは許されているはずだ。
──かえろう、かえるんだ、かえらなくちゃいけないんだ。
あそこに帰らなくてはいけない。
それはわたしに許された、当然の権利だった。
──でもこわい、ここがどこかもわからない。
ここはわたしのいた場所じゃない。
わたしは無理やり喚ばれたのだ。それはわかっている。
無理やり喚ばれて、何かを言われて、わけがわからなくて……逃げたのだ。
そして、この暖かくも冷たくもない暗いところに隠れたのだ。
そこまでは思い出せた。
──ああ、はやく、はやく、はやく、帰りたい。
確固たる意識さえ定まらぬわたしの心は、その一念に塗り潰されていく。
わたしのあるべき場所へ、わたしが帰るべき世界へ──。
わたしは帰らなくてはいけないのだ!!
「……ゃあ……ゃああああっ……おぎゃああああああああああっ……」




