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道参人夜話  作者: 曽我部浩人
第五章 ~ がしゃどくろ
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第3話 巨人は夜に訪れる




「──女風呂はいいお湯でやしたか?」


 部屋に戻ってみれば、幽谷響(やまびこ)が帰っていた。

 出迎えついでに皮肉まで飛んでくる。


「ああ、最高だったよ。入れるものなら君も入ってくるといい」


「へへっ、先生も言うようになりやしたね。拙僧が入ったら変態扱いされて官憲(かんけん)に捕まるだけでございやすよ」

 後でのんびり男風呂に入ってきやす、と幽谷響は鼻で笑った。


 僧衣のままのところを見ても帰ってきたばかりらしい。

 風呂上がりの信一郎とマイルは旅館の浴衣に着替えていた。そのまま座卓につくとおもむろに幽谷響が仕事の話を振ってくる。


「依頼主に会ってまいりやしたが、今回の仕事は外道退治……というより怪獣退治みたいな赴きがございやすね」


 幽谷響のいきなりな話に信一郎は眉をひそめる。

「怪獣退治? なんだか私たちの管轄じゃないような気がするんだが……」


「おお、怪獣退治か! ゴジラか? ガメラか? パシフィックリム系か? 龍ではない巨大生物を狩るのは初めてだ!」


 眉をひそめる信一郎とは逆に、マイルは瞳をキラキラ輝かせていた。


「事件の概要はこんな感じでございやす」


 この温泉郷の近くに軽張(かるばり)ダムというダムがあり、その下流には軽張村という村があるそうだ。


 一週間ほど前の晩──その軽張村が巨大な何かに襲われたのだ。


 その日から巨大な何かは夜毎にやってきては、村の建物を一軒一軒ひっくり返すように壊していくという。


「……その巨大な何かが外道だっていうのか?」

「まだ断定できやせんが恐らくそうだろうと……これは破壊された村の写真でさ」


 幽谷響は座卓のうえに数枚の写真を広げて見せた。

 どの家も屋根を剥がされ、壁を倒され、家の基礎まで根刮ぎ解体されている。


 パワーシャベルなどの重機でできる芸当ではない。

 強引でありながら繊細な力仕事の結果だった。


「まるで巨大な人間が丁寧に家を分解したかのような有様だな」

 写真を見たマイルは見たままの感想を述べた。


「へい、左様で……家を壊される現場を目撃した住人たちも、似たようなことを仰っておるそうでさ。巨人が家をバラしているようだって……」


「その巨大な何かを見た人たちはなんて言ってるんだい?」


「総じて巨大な人に似た何か、と仰っているそうでやすね。何人かはあれによく似ていたと仰っているそうで、ほら、あの人気アニメの巨大ロボットで、エンバーだかエバだか……エヴァンジェリンでございやしたか?」


「……もしかしてエヴァンゲリオンか?」


 新世紀エヴァンゲリオン──。

 それに登場する汎用人型決戦兵器に酷似しているらしい。


「エヴァンゲリオンと戦えるのか!? それはまたとない機会だな!!」


 それを聞いたマイルは舞い上がっていた。

 こういう好戦的なところは悲しいほど父親そっくりである。


「まあ、相手がそのエヴァなんたらかどうかはともかく、巨人のような外道であることは間違いないようでございやす。軽張村の人々のためにも早急に決着をつけてほしいとのことで……」


「事情は大体わかったよ。でもさ、その外道は何がしたいんだろうな?」

 信一郎は何気なく訪ねてみた。


 どうせ幽谷響は、何が起きているかを把握しているはずだ。


 しかし、その情報が開示されるのは事件が終わった後である。

 だとしても疑問ぐらいは提示してみるべきだろう。


「外道はたったひとつのことしか頭にないんだ。その巨大な外道が軽張村の家屋を破壊しているのにはそれなりの理由があるはず……そういえば、家を壊された人たちは無事なのかい?」


「へい、どういうわけか死者はゼロ。逃げる時に怪我をした程度で」

「ますますわからないな……何がしたいんだ?」


 顎に手を当てて考える信一郎に、マイルが自分なりの意見を差し込んできた。


「何かを探して……あるいは誰かを捜しているのではありませんか?」


 家の破壊の仕方に徹底的なものを感じる、隅々まで調べて隠されているものがないか探しているようだ。写真を見たマイルはそう感じたという。


 答えを求めるようにマイルは幽谷響をジッと見つめた。

 純真無垢なマイルの瞳に、幽谷響も居たたまれなくなったらしい。


「……この軽張村ってのは新・軽張村なんでございやすよ」

 ほんの少し口を割る気になったようだ。


「かつて軽張ダムの貯水湖の底に軽張村があったそうで……25年前、ダム建設の話が持ち上がったので軽張村の住人は今の軽張村へと移住したんだとか」


「村のあったダム底から巨大な外道がやってきて、村を壊して何かを探す……因果関係バッチリだな」


 ダム建設で村が沈む──それに反発する人々は必ずいる。


 そして、ダム建設という巨大事業には莫大な利権が絡む。

 金と欲が絡めば人間は何をするかわからない。


 ダム建設に反対した人間が沈められていてもおかしくはない。


 そうした人が外道になったりしたら……。


「ダム建設に関わった者で外道と化したと思しき人物は皆無でございやすよ?」

「あれ? 私の推理って全然的はずれかよ?」


 ミステリードラマなどでよくあるパターンだから、そういう話の流れかと思ったが違うらしい。不審な死亡者や失踪者はいなかったそうだ。


「軽張村は不便な土地だったそうで、今の新・軽張村への移住はとてもスムーズに行われたそうなんでさ。反対意見もあんまりなかったそうでございやす。移住した村民のその後は確認できたやし、今の村に移住しなかった人も追跡調査できやした。ダム建設に絡んで不審な死を遂げた方なんて一人もおりやせんぜ」


「……それじゃあ、その外道は一体なんなんだ?」

「そいつは本人に直接お伺いするしかないんじゃありやせんかね?」


 ──こいつ、何らかの真実を握っている。


 信一郎は幽谷響の態度からそう直感した。

 だが、はっきりとした裏付けが取れていない感じである。


 問い詰めてもこれ以上の情報を並べるつもりはあるまい。


「うむ、倒す前に話を聞けばいいのだな。では出会い(がしら)に斬りつけるのは控えることにしよう」


 そして、マイルは想像以上に物騒な性格をしていた。

 思考回路は完全に父親譲りである。




「なんにせよ今夜──ダムから上がる前に決着をつけちまいやしょう」




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