19/62
序章 びしゃがつくの談
いつの頃からだろう、水音が気に障るようになったのは──。
たった一滴の水が落ちる音さえ聞き漏らせない。
水道の蛇口を閉めた後、シンクへ落ちる水滴の音に嫌気が差す。
雨の夜にベッドで耳にする雨垂れは、異様なくらい心をざわめかせる。
水が怖いんじゃない──液体の発する音が恐ろしいのだ。
原因がどこかにあるのかも知れない。
記憶を遡ろうとすれば、妨げるように水音が鼓膜に響いてくる。
ピチョン、パシャン、ポタリ、ボシャン、バシャ──。
心の奥底に滴り落ちる水音。
──ビシャ。
そして、一際気持ち悪い水音に身がすくむ。
たっぷりと水気を含んだ足が踏み出す時にさせるような水音。
いや、これは足音なのだろうか?
水音にしろ足音にしろ、気持ち悪くて仕方がない。
この不快な水音にこそ真相があり、必死でそれを思い出そうとする。
だけど、そこから先に意識が及ばない。
思い出そうとしても、また水音に邪魔されるばかり。
こうして思い悩んでる間にも、あの音はゆっくり近付いてくる。
いつでも私の後ろに佇み、ぴったりと張り付くように、どこまでも、寝ても覚めても着いてくる。
着かず、離れず、いつまでも、どこまでも──。
──ビシャ。




