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第3話 イェーガーの占い師マーロット

坑道内に入り200m程進んだ分岐道までは天井にランプが点いていた。私たちが目指している場所は右、現在工事が進んでいる坑道内の湖だ。魔物はどうやら湖を中心に増えているらしい。


 私たちは右の坑道へ入り、湖のある場所への入り口に近づきランプを点ける。


「さて、アキハさん。ここからですね」


 袖口からブレードを出したカノンは腕がなる、と言わんばかりに意気込んでいる。


 案外好戦的なのだろうか


「そうだね。敵が分からない以上油断はしないようにしようね」

「はい!」


 意気込んだカノンに微笑み私は先行し、湖へと近づく。





 湖の付近はかなり暗く、手に持ったランプでは照らせる範囲は決まっている。だが、遠くから魔物の咆哮だけは聞こえている。まずは視界を確保しなければ。


「カノン。まずは魔法で一気に視界を確保するから、見えた魔物から徹底的に倒して」


 私の言葉に分かりました。とカノンは言うと身構える。私は剣を抜き、回路を発動させる。刀身の回路が青に光る。


 そして私は魔法を発動させ、剣を振るう。


 イメージは炎の鞭。この世界における魔法の一般に於いてはファイアウィップと呼ばれる魔法。それを振るうと炎は一気に広がり、辺りを明るくする。それを確認する間もなく、カノンはブレードを振りかざし魔物に走り切り裂く。


 魔物はゴブリン。そしてゴブリンの親玉的存在の中級魔物。


 辺りに炎が燃え移ると、私も風魔法を発動させ、ゴブリンに攻撃を始める。私の使う魔法、風というより突風に近いそれはゴブリン数体を壁に叩き付け瀕死にさせる。


「流石です!」


 カノンからの称賛に耳を傾けながら魔法を炎に変え、刀身に熱を帯びさせ、風魔法で身体を手近なゴブリンへと跳躍させ、切り裂く。




 呆気ない。と言ってしまえばそれきりだ。坑道内の魔物。ゴブリン掃討は物の数分で終了し、私は、ゴブリンが入って来ていた小さな抜け穴を炎魔法に系列する魔法。熱を一気に放出する爆発系魔法でそこを破壊し入って来れないようにした。


 正直、ゴブリン位なら大したことは無い。作業員たちが倒せなかったのは魔法が使えない事が大きいだろう。


「アキハさん。戻りましょう?」

「うん」


 頷き、私は素直にカノンの強さに驚いた。敵を数十対近く切り倒し、息を全く切らしていない。彼女が仲間になって本当に心強い。




「え!? もう終わったてェのか?」


 案の定、責任者のおっちゃんは驚いていた。


 まぁ、こんな小娘2人の事なんか期待していなかっただろうが。


「主任! マジで全部片付いてます!」


 坑道内を覗きに行った1人の言葉に作業員たちは「おお!!」と言いながら私たちに拍手をする。


「こりゃスゲぇ。嬢ちゃん達、約束の報酬はすぐに持ってくるから」


 はい。と私は言うと一息つく。


「嬢ちゃん達。お前ら首都へ行くのか?」

「はい」

「んなに強ぇってこたぁ・・・軍所属か・・・ギルドへ入るのか?」


 そう思うのは当然だろうが違う。目的は別にちゃんとある。


「いえ、私は探している物があって」


元の世界。日本へ帰る為の手段だ。


「そうか・・・だったら報酬とは別に俺からの餞別だ。これ、受け取ってくんな」


 そう言って責任者は一枚の紙切れを渡してきた。マーロットの占い予約券。


「これは?」

「あ、アキハさん! これ! 凄い物ですよ!」


 突然カノンが叫ぶが、私には価値が全く分からない。そんな私の顔を見てか、カノンは一度呆れた様な表情を浮かべた。


「このマーロットって言うのは首都唯一のギルド、イェーガーに所属する占い師です。占う内容は様々で、探し物なんかは絶対に見つけてくれるってヤツで、予約は3年以上一杯なんです」

「そ、そんな凄い物を?」


 聞いて私は驚き責任者に聞く。本当に貰ってもいいのだろうか。


「いいさ。俺はこれを知り合いのツテで貰ったんだが・・・正直この工事が忙しくてな」


 まぁ、責任者だし。


「そういう事さ。探しモンがあるなら使ってくれや。悪くてもヒント位は手に入るだろうさ」


 そういう事なら――


「ありがたく使わせていただきます」


 そう私が答えると1人の作業員が小さな箱を私に差し出した。開けてみると輝く宝石が幾つもあり、私はまたもや驚く。


「現金じゃねえが、こんだけありゃお前の助けになる筈だ。そっちのゴスロリの嬢ちゃんも、同じのがあるぜ」


 この宝石。売ってしまえば相当な額だ。日本円的には・・・幾らだ?


 しかし、何にせよ。貰うには大きすぎる額だ。


「おっと、受け取れないってのは無しだぜ。俺達鉱山の男は恩義を忘れない。・・・頼む、貰ってやってくれ」


 最後の頼み込むような言い方に私は諦め、それをリュックに詰める。


「世話になりました」


 私に続き、カノンも頭を下げる。


「いいさ。それよか首都へ行くにはさっきの坑道を左に行きな。出た先すぐに線路が走ってる。それを辿れば首都だ。嬢ちゃん達、頑張れよ」


 責任者の言葉に私とカノンは再度礼を言うと、言われた通りに洞窟を進み、外へ出る。言われた通り線路が通っている。


 それに沿って歩く中、私はカノンに声を掛けた。


「カノンさ。私に付いて来てるけど今までは何を?」

「あ、私元々メイド養成校の生徒でして・・・お恥ずかしながら学校を退学させられまして」

「どうして?」

「その・・・あまりに家事が下手過ぎまして」


 そ、そうなんだ。と私は小さく笑いながらカノンを見た。


 それさえ出来ればメイドになれただろうに


「アキハさん。折り入って頼みがあります。何か探し物があるのなら、私を仲間に咥えていただけませんか?」


 真剣な顔のカノンに言われ、断る理由は無い。


「いいよ。こっちこそ、付いて来てほしかったし」


 カノン位に強ければ願っても無い。


「はい! お願いしますね」

 

 ぱあっと笑みを浮かべたカノンのその言葉に私は出来る限りの笑顔で微笑み返した。



 首都、ローゼンバーグ。西の大国、ローゼンバーグ王政国家首都だ。その都市に入る頃は鉱山都市から2日経っている。


「凄い・・・」


 これが私の素直な感想だった。首都と言われるだけあって大通りがあり馬車が走り、大きな駅があり、街には警備のための憲兵。太刀を携えた軍人。商人、大きな店。立ち並ぶ建物。


 奥には大きな時計塔が見える。


 村の風車とは大きさが全く違う。


「首都すげーッ! ひろーい! 人多いー!」


 隣で燥ぐカノン。


 止めて恥ずかしい。


 そう思った私はカノンの手を握り「取りあえずギルドに行こう?」と言う。


 人目が集まりそろそろヤバい。道行く人が笑っている。これじゃ田舎者だ。まぁ、私は田舎者だけど。


「はい。イェーガーのマーロットさんの所ですよね」




 ギルド、イェーガーは首都の中心街。セントラルパークの隣にあった。建物はかなり大きく目立っていた為発見には困らなかった。


 建物の前に扉まで行くと、修道服でタバコを吸っている子供が居た。彼女は私に気付くと「あ、報告通り」と言いながら近寄って来た。


「いらっしゃい。頬に傷のある女の子に連れのゴスロリ。・・・照会は済んでるよ。さ、中に入って」


 どうやら話は済んでいるらしい。言われるがまま中へ入ると、ガラの悪そうな屈強な男達。かと思いきや武装した女性陣。若い男性。子供。ギルドのメンバーだろうか、あまりにバラバラだ。


「ちょっと、付いて来て」


 キョロキョロしていると子供は手招きしてきた。着いて行くと2階へ案内された。


 すると階段すぐ側のテーブルを囲む長椅子に座るように言われ、私とカノンは大人しく座る。


「さて、オリバーから言われてるから。あんたの探し物占ったげる」


 いきなり言った子供。オリバー?


「ねぇ、オリバーって、オリバー・アズエル?」


 オリバー・アズエル。私を村へ案内してくれ、稽古までしてくれた恩人。


「そそ。そして私はマーロット。宜しく~」


 この子供がマーロット? あまりに想像していた人物と違い、となりのカノンを見ると同じ事を思っていた様だ。


「じゃ、占うから。構わない?」


 言われ、私とカノンは頷く。


「オッケー。・・・聖霊よ、私にその力を貸し与え、迷える者に救済の手を」


 呪文だろうか、マーロットがそれを唱えると彼女の目の前から小さな半透明な小鳥が飛び出し、私の周りを数周飛び回ると花びらが散るように消える。


 これで終わりなのか、マーロットはタバコを咥え火を点ける。


「ごめん。力になれないや・・・あんたさぁ、どういう経緯か知らないけど異世界人な訳ね」


 異世界人。に頷くとカノンは驚いたような顔で私を見る。


「オリバーに言われて嘘だと思ってたけど・・・あんたの探し物。占おうと思ったらさ、跳ね返されちゃった」

「跳ね返された?」

「それって?」


 私に続き、カノンが聞く。


「あんたには一種の呪術に似た物が掛ってる。私の魔法じゃ探れない、でもヒントはあるよ」


 ヒント?


「うん。探し物は探し出せって」


 ヒントと言うには漠然としすぎている。


「ま、あんた達・・・面白そうね。取り敢えずさ、イェーガーに入んな。どっちにしろ今のままじゃ上級魔物には勝てないし。あんたの見たドラゴンにも簡単に殺されるでしょうね」


 その言葉を聞いて「ドラゴン見たんですか!?」とカノンは大声を上げた。


 とりあえず声は出さず頷く。


「ここでのクエストを熟して、レベルアップも兼ねてるって考えてて。魔法も覚えられるし、戦闘能力も上がる。良くない? ここ採用倍率高いけどあんた達2人は特別。今すぐ入れてあげられるよ」


 一人で決めていい事ではないのでカノンを見ると「構いませんよ」と言いたげな表情。


「それに、オリバーの推薦でもあるし」


 オリバーが推薦してくれているなら―――


「これから宜しくお願い致します」


 私はイェーガーへの所属を希望する返事をした。するとマーロットはタバコを取り出した灰皿に押し付け「契約完了」と言うと立ち上がった。


「じゃ、これからあんた達2人の宿舎を用意する。取り敢えずこれから1か月。先輩たちに協力してもらいながらクエストを熟して行って」

「はい」


 私とカノンは口を揃えた。


 どうやら、本当の旅はここで過ごさなければ始まらないらしい。オリバーが推薦したのはまだ私の実力が足りていないのをしっていたからだろう。


 だったら、オリバーの気遣いは無駄にしたくない。


「アキハさん。頑張りましょう!」

「うん」


 拳を構え意気込むカノンに私は小さく返し、マーロットに続き宿舎へ向かい、荷物を置いた。


「じゃ、早速依頼を受注して。いきなり始めるよ」


 マーロットに言われ、1か月間が始まった。

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