第1話 筋肉こそ正義!
ルクサリス侯爵家の朝は早い。
日の出と同時に、屋敷の庭へ響き渡る声がある。
「お嬢様ァァァ!! あと二十回!!」
「もちろーん!!!」
うら若き少女の声とは思えない雄叫びとともに、巨大な武器が宙を舞う。
――ガッキーーーーーン!!
全長一・五メートルを超える鋼鉄のウォーハンマーが、訓練用の鉄塊を吹き飛ばした。
「まだまだ軽いですぞ!」
少女――アナスタシア・ルクサリスは、片手で軽々とウォーハンマーを持ち上げた。
さらりと流れ輝く金髪。
透き通るような青い瞳。
誰もが見とれる美しい顔。
しかし、その優雅な表情からは想像できないほど、身体は鍛え抜かれていた。
「よろしい! 身体が温まってきましたな! では筋トレメニューこなした後、剣の素振り千回、屋敷周りを二十周!」
「はい!」
家令のじいやは満足そうに頷く。
彼は元S級冒険者。
魔物との戦いで剣が折れた際に、素手で魔物を殴り倒したという伝説まで持つ豪傑だった。
「筋肉は裏切らなーい!」
「はい!」
「魔法には魔力切れがあるッ!」
「はい!」
「しかし、筋肉は全てを解決するーっ!」
「はい!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝の日課をこなしたアナスタシアは、朝日に向かって両腕を折り曲げ背中で魅せる。
「キレてる、キレてるッ!」
「もはや大円筋 が羽根ッ! 飛べます! 飛べますぞ!」
「ナイスバルク!」
じいやは努力の後の声援を忘れない。
アナスタシアの身体は、筋肉だけではなく、自信に満ちた精神によっても支えられているのだ。
そこへメイドたちが青ざめた顔で駆け寄ってきた。
「お、お嬢様!」
「数十名の盗賊団が砦に立てこもったとの報告が!」
「警備の騎士たちでは対応できず、また、人質を取っているため手出しもできない状態のようです」
アナスタシアはじいやの方を向き、満面の笑みを浮かべる。
「鍛え上げられた筋肉を使う時が来たようですな!」
「この上腕二頭筋の出番というわけね」
アナスタシアは不敵な笑みを浮かべる。
「いえ、お嬢様……」
「神聖魔法を期待してのことだと思います……」
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