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千年を越え思念  作者: 弥六合
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平日

 正午近い容赦ない烈日が、その熱を大地に降り注いでいる。重い足取りでバスを降り、冷房の効いた空間から離れると、瞬時に頭と四肢にまとわりつくような熱気が伝わり、しばらく適応できなかった。明け方の人探しの依頼が終わった後、数時間は泥のように眠った気がする。後頭部の痛みは引いたものの、四肢はまだ思うように動いてくれない。


 城が前町のバス停で降り、見慣れた帰り道を歩く。カーブの先にある幼稚園から、子供たちのふざけ合う声が聞こえてきた。依頼を終えた後、この決まった帰り道を通るのが俺の日常だ。子供たちの歓声が、少しだけ精神を癒やしてくれる。


 真夏の狂暴な日差しの下、時折陽炎で歪み、水気で反射する道を歩きながら、額の汗を無造作に拭った。児童公園を通り過ぎる時、時折吹く微風が体にまとわりつく熱気を少しだけ奪い去ってくれる。ほんのわずかでも、その涼しさが心地よかった。ふと公園に目を向けると、ブランコが軋む音が聞こえた。だが、風でブランコが揺れているわけではなかった。とはいえ、体の疲労が思考を鈍らせており、それ以上音の出処を探ろうとは思わなかった。人気のない路地を曲がると、そこに俺の事務所がある。


 門を押し開けると、玉砂利の敷かれた小道が事務所の玄関まで続いている。入って右側は塀、左側の庭には小さな池と、名前も知らない草花が植えられている。真夏の炎天下、気化した水蒸気と草花、そして土が混ざり合い、雨上がりの土の匂いに微かな花の香りが混じったような匂いがした。一般的な二階建ての古い家屋で、一階を事務所、二階を居住スペースにしている。池のそばにあるテーブルと椅子のセットは、亡き両親のお気に入りの場所だった。生前、仕事漬けでほとんど一緒に過ごすことのなかった両親は、死ぬ時でさえ仕事が原因だった。残された遺産だけでも一生遊んで暮らせるはずだったが、とある事情により、この事務所を開かざるを得なくなったのだ。


 事務所に入ると、まず目に入るのは受付の丹波口ヨゾラだ。彼女は透明な強化ガラスのデスクの左側に座り、右側には30インチのモニターを接続したパソコンが置かれている。背後の壁際にはスチールキャビネットが二つ並んでおり、この事務所の書類がすべて収められている。


「帰ったぞ。」


 体が疲弊しきっていた俺は、ドアを入るなりソファにどさりと座り込み、そのまま背もたれに寄りかかった。


「あ、おかえりなさい、清ちゃん。ちょっと待ってて、水、みず……」


 ヨゾラは少し慌てた様子で立ち上がり、飲み物を取りに行った。

 俺は彼女の雇い主だが、ヨゾラはずっと友達のような呼び方をしてくる。まあ、俺自身も気にしてはいない。


「この時間は本当に暑くて死にそうだ。」

「とりあえず、冷たい麦茶でも飲んで。」

「悪いな。」


 ヨゾラが差し出した冷たい麦茶を受け取り、一口飲む。その冷たさが口から食道、胃へと落ち、やがて四肢へと広がり、体の煩わしさを解消してくれた。


「で、結果はどうだったの?」

「簡単に言えば解決した。過程は……まあ、聞かないでくれ。」


 最後に四、五時間も気絶していたことを思い出すと、またヨゾラに小言を言われそうだ。


「ターゲットの他に、その友達も一緒だった。それに、巫女が一人おまけでついてきた。」

「そう、人が助かったならそれでいいわ。残りの後始末は私に任せて。」


 幸い、俺が倒れた後にあの婦人警官が駆けつけてくれた。彼女の話によれば、その巫女も人命救助の依頼を受けていたらしい。三人の学生はそのまま巫女が連れて帰り、俺は部屋に運ばれて休まされたというわけだ。


「そろそろお昼ね。清ちゃん、何か食べたいものある?」

「何がいいかな……」


 書類をファイルに挟んでテーブルに置き、適当にテレビをつけてソファにぐったりと寄りかかる。ファイルを片付けて定位置に戻すと、ヨゾラが目を輝かせながら小走りで俺の前にやってきた。その勢いに圧倒され、一瞬何を食べたいか思いつかなくなった。


『ドン、ドン、ドン』


 ドアを叩く音が響いた。


「どうやら、今日も外食になりそうだな。」

「清渕、いるか!」


 『バンッ』という音とともに、俺と同年代の男が入り口に立っていた。その瞬間、ヨゾラの顔にほんのわずかな不快感がよぎり、すぐに元の冷酷な表情に戻るのが見えた。俺にはそれが解せなかった。あの日、俺とこいつで一緒に彼女を助けたというのに、なぜヨゾラはこいつに会うたびに冷たくなるのだろうか。

 ドアの前に立っているこの「彼」は、幼稚園の頃からの腐れ縁だ。両親が亡くなった後のさまざまな手続きも、この事務所の設立申請も、すべて彼が手伝ってくれた。


「徳政、そんな大声を出さなくても聞こえてるぞ!」


 こいつの名前は二条徳政。現在、京都府南警察署に勤務している。どうせ出かけることになるだろうと、俺は起き上がってリモコンでテレビを消した。


「家にいたか。今日もまた頼みがある。」


 俺の声を聞くや否や、俺を引っ張り出そうと近づいてきた。こんなことはもう何度目か分からないが、それも無理はない。犯罪捜査会議というものはだいたい十時頃に開かれる。会議が終わればちょうど昼時だ。長引いたとしても、昼休憩は取らなければならない。だから、何かあると必ず昼時に俺のところにやってくる。俺としても食費が浮くのだから、願ったり叶ったりだ。


「で、今日は何を食うんだ?」

「刺身でも食いに行くか。」


 二条に引っ張り起こされる前に、俺は自らソファから立ち上がり、何気なく食べたいものを口にした。


「ヨゾラも食べるか? 少し遅くなるけど。」

「いつものやつでお願い。」

「ああ、分かった。じゃあ行くぞ。」


 ヨゾラは二条が入ってきたのを見ると、すぐにパソコンの前に戻ってデータの入力を始めていた。二条の問いかけに礼儀として一瞥をくれただけで、キーボードを叩く手は全く緩めなかった。

 二条もとうに慣れているらしく、俺の腕を掴んで外へ向かった。車に乗り込むと、俺たちは鴨川沿いを京都駅方面へと向かった。なぜ二条がわざわざ鴨川沿いを遠回りするのかは分からないが、俺もこうして自然の近くを走るのは好きだった。


「どうした?」

「何か感じなかったか?」

「何を感じるって?」

「真正面から蜘蛛の糸にぶつかったような感覚だ。」

「車の中で蜘蛛の糸にぶつかるわけないだろう? 蜘蛛の糸があったとしても、車の外側にぶつかるはずだ。」

「それは分かってる。でも今、鴨川のこの道に入った時、確かに感じたんだ。顔には何もついてないけどな。」

「明け方の件で疲れすぎてるんじゃないか?」

「そうかもな。」


 急に何かにぶつかったような気がして顔を手で払ったのを、二条に見られていた。本当に疲れているのかもしれない。俺はそれ以上気にするのをやめた。


 鴨川沿いを北へ進む中、二条は車の窓を開けた。吹き込んでくる風には微かな草木の香りと土の匂いが混じっていた。これがバクテリアによる有機物の分解で発生する化学的な混合臭だと科学で証明されていても、これが大自然の匂いであることは否定できない。


「この道で正解だな。京都には何でもあるけど、やっぱ大自然の恵みが最高だろう。」

「それは言えてるな。」

「時間はそんなにかからないが、少し休んでおけ。」


 俺はリラックスして目を閉じた。まだ疲れが残っていたのか、数秒で眠りに落ちてしまった。


「着いたぞ。ほら、降りるぞ。」


 肩を何度か揺さぶられ、目を覚ました。二条の方に目をやると、もう降りる準備をしていた。

 駐車場を出た後、路地をいくつか抜け、やがて現代とは完全に不釣り合いな町屋の並ぶ通りに出た。少し歩いて、「みや田」という名の店の前で立ち止まる。見間違いでなければ、外には「仕度中」の札が掛かっていた。しかし、二条はノックすらせず、その年代を感じさせる重厚な木の扉を直接押し開けて入っていった。俺もすぐ後ろに続いて店内に入り、扉を閉めた。


「二階のお座敷、ご用意できております。どうぞおあがりやす。」


 店員はそう言うと、自ら先頭に立って奥へ案内した。少し傾斜のある木製の階段を上ると、微かに軋む音がしたが、丁寧に手入れされていることが伝わってくる。午後の営業前だというのに、空気中には木の香りと微かな炭火の匂いが漂っていた。


「すぐに食事を。それと、もう一人前、見繕ってくれ。」

「へえ、承知いたしました。」


 店員は一礼して和室から退出した。


「まずはこれに目を通してくれ。」


 二条は一つのクリアファイルを俺の前に押し出した。

 内容は、双子の姉妹が一緒に暮らしていたが、現在姉が家で死んでいるのが発見されたというものだ。現場の家具は散乱していたが、侵入の痕跡は見当たらない。現在妹は行方不明だが、周辺の監視カメラには妹が外出する姿は全く映っていない。あとは双子の個人情報、近隣住人の取り調べ内容、それに相関図が一枚入っていた。


「警察の見解は?」

「警察がどう見解を出せるって言うんだ。今のところ、隠し通路でもないか探して回ってるよ。何せこの古都だ、何があっても不思議じゃない。」

「とりあえず位置を特定してみる。」


 俺は地図アプリに妹の情報を入力し、彼女の家から半径約一キロの範囲を検索して、スマホをテーブルに置いた。数秒ほどで測位が完了した。


「ここは……」


 二条が地図の画面を覗き込む。


「お前んちの隣の児童公園じゃないか?」

「本当だな……」


 ふと、入り口からノックの音が響いた。


「へえ、お食事のご用意が整いました。」

「あぁ、入れ」


 二条は俺に黙るよう目配せし、店員に料理を運ばせた。

 配膳を終えると、二条は軽く手を振って店員を下がらせた。


「まずは食おうか。話はその後だ。」

「いや……刺身を食いに行くって言ってなかったか?」

「刺身で間違いないだろう。」


 テーブルいっぱいに並べられた最高級の和牛の肉片を見つめる。魚の切り身など一切れもない。言葉というやつは本当に厄介だ……。金持ちの生活というのは、一般人には想像もつかない。食えないわけじゃないが、こういう生活は好まないのだ。

 二条はそう言うと箸を進め始めた。俺も自然とそれ以上は何も言わなくなった。


「一つ、先に知らせておくことがある。」

「なんだ?」


 十分ほど経った頃、二条が突然口を開いた。


「明け方の件と今回の事件で、上層部はお前のような人間が存在するという事実に目を向け始めている。」

「なんだ? 俺たちを捕まえて研究でもするつもりか?」

「映画じゃあるまいし。上は専門の部署を設立して、この件を公の場に出すつもりらしい。」

「混乱を招くとは考えないのか?」

「憶測を呼ぶくらいなら、直接公表して管理下に置くというのが上の決定だ。」


 二条は食事を終え、食器を脇に片付けながら話し続けた。


「それに、元々裏で活動している暗部があるだろう。お前が遭遇したあの一族のことだ。」

「そういえば、その内の一人は確かに警察の身分を持っていたな……」


 職権を振りかざして俺を脅迫してきたあの婦人警官のことをふと思い出した。


「まあ、そういうわけで、その時が来たらお前にも協力してもらいたい。」

「断る。」

「すぐ断るな。お前が仕事嫌いなのは分かってる。ただの顧問としてでいい。」

「考えとく。」


 二条は不機嫌になる様子もなかった。俺の性格をよく分かっているからだ。食事が終わると、俺たちはまず食器を隅へ寄せた。


「この場所に間違いはないな? あの児童公園だろう?」

「間違いないはずだ。」


 二条は話題を変え、今日の要件に戻った。


「それじゃあ、行ってみるか。」


 そう言うと、二条は立ち上がって書類を整理した。俺も自分の荷物をざっと確認して立ち上がり、二条の後に続いて階段を下りた。


「お待たせいたしました。こちら、お折りのご用意が整っております。」


 二条はそれを受け取り、店員に目配せして下がらせた。店の外に出ると、静まり返った古い街並みを前に、心の中に突然不安がよぎった。今朝の件といい、今回の事件といい、何かが起ころうとしていることを暗示しているかのようだ。できることなら、俺の周りでは何も起きてほしくない。ただ平穏に暮らしていくこと、それだけが俺の願いなのだ。

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