咒縳
学校を出て道端に立ち、自分がどれほどちっぽけな存在であるかを思い出すかのように、習慣的に夜空を見上げた。そう考えるのも、何の前触れもなく、自分がこれほど自由自在に物理現象を操れるようになったからだ。これは、別の世界や次元がずっと私たちの世界を注視していて、今まさに直接介入しようとしていることを意味しているのだろうか?
その後、俺は嵐山の方向へ視線を向けた。嵐山の四方八方から無数の黒い影が集まって形成された巨大な網が、嵐山をすっぽりと覆い尽くしており、追跡しようとしているその「線」をうまく抽出できそうになかった。俺は向きを変え、道路沿いを歩き、線路を越えて、依頼人の娘が姿を消す直前に訪れたという喫茶店の前にたどり着いた。スマホのマップ機能の補助を通じて、彼女特有の痕跡を分離し、見つけ出すことに成功した。
痕跡をたどっていくと、ある私有地の空き駐車場に行き着いたが、痕跡はそこで唐突に途切れていた。このような突然の消失は、死でなければ、心霊的な出来事に連れ去られたということだ。俺は再び能力を視神経に集中させた。案の定、空き地の中央に、地上から約1メートルの高さに浮かぶ黒い影の塊があった。それは周囲の光を飲み込むブラックホールのような暗黒の球体で、その後ろからは細い紐のような黒い影が伸び、嵐山方向の空へと向かって一直線に繋がっていた。
「嵐山まで行ってみるしかなさそうだな……」
俺はその黒い影を見つめながら、ため息をついた。
1時間近くかけて、俺はその黒い影をぴったりと追いかけ、嵐山付近までやってきた。しかし、黒い影は天龍寺の上空を通過しようとした矢先、まるでちぎれた黒い紐のように、天龍寺の上空で宙に浮いたまま静止していた。道を最後まで進むと、その突き当たりが天龍寺だった。この真夜中、予想通り各門はすべて固く閉ざされている。だが幸いなことに、この付近に一般の民家はない。暗がりで「空間折り畳み」を利用すれば、何の障害もなく潜入できる。
道なりに進み、天皇陵の前を通り過ぎれば、嵐山に入れる。あの黒い影が途切れた方向からして、位置はこのエリアの周辺のはずだ。しかし、白い玉砂利が敷き詰められた天皇陵の前の小道を通ろうとしたまさにその時、何の予兆もなく、一人の人影が俺の目の前に虚空から現れた。
「あんたが誰で、どんな理由があろうと、ここには……」
夜行装束に身を包んだ若い女性が目の前に現れた。彼女が言葉を言い終わる前、俺がまだ状況を呑み込めていないうちに、手に握っていたスマホが勝手に離れ、目の前1メートルほどの空中に浮かび上がった。スマホの画面が強烈な白光を放ったかと思うと、それに伴って一筋の純白の光線が天から降り注ぎ、彼女を包み込んだ。その時になって初めて、彼女の体に何本もの黒い影が絡みついていることに気づいたが、それらも純白の光に照らされ、次第に消え去っていった。
「きゃっ……」
突然の出来事に、彼女は一瞬その場で凍りついた。無理もない。俺にとっても二度目とはいえ、やはり少し慌ててしまうのだから。純白の光線が消えるとともに、俺は手を伸ばしてスマホを掴み取った。そして、コホンと咳払いをした。
「あの、俺は怪しい者じゃないんだ。」
言い終わったそばから、こんな時間にこんな場所にいる時点でどう見ても怪しいと自分でも思った。しかし、このタイミングでこの言葉以外に何と言えばいいのだろう。様々な映像作品の中で、キャラクターがどのような心理状態でこのセリフを口にしているのか、今ならよくわかる。
「信じるわけないでしょ!? どう見ても怪しすぎるわ。」
彼女は気丈に振る舞っていたが、あの白い光線に驚いているのは明らかだった。無意識に両手を上げ、指を何度か動かして何かを確認しているようだった。突然、彼女は俺を睨みつけた。その目には警戒心に満ちていたが、一抹の困惑も混じっていた。俺がどんな言い訳をして説明しようか考えていると、彼女は大きく深呼吸をし、構えを解いた。
「どうやら、ただの一般人じゃないみたいね。あんたの目的がはっきりするまで、一時的に行動を制限させてもらうわ。」
「もし断ったら?」
「警察を呼ぶだけよ。」
彼女が警察の手帳を取り出すのを見て、俺も首を振りながら彼女について行くしかなかった。彼女は手招きし、嵐山方面の門へ向かうよう促した。仕方なく、彼女の後ろをついて歩く。俺たちは「北詰交番」という看板が掛かった建物の外にたどり着き、彼女は引き戸に手をかけた。
『ガラッ——ガッ』扉を半分ほど引いたところで、片側の引き戸が引っかかって動かなくなり、もう片方はスムーズに最後まで開いた。すると彼女は右足を上げ、思い切り蹴り飛ばした。『バンッ!』とものすごい音がしたが、それは彼女の手の勢いで引き戸が枠に激突した音だった。その蹴り自体は、全くの無音だったのだ。室内はそれほど広くなく、標準的な和室で、到底警察の詰め所には見えない。和室の中央には低い座卓があり、その上には茶器のセットが置かれていた。微かに、空気中から淡い花の香りが漂ってくる。
「そこに座ってて。ちょっと確認してくるから。」
俺は座卓のそばであぐらをかき、彼女をちらりと見上げた。
「それと、黙って逃げようとか考えないでね。警察があんたを探し出すのなんて簡単なことなんだから。」
そう言い残し、彼女は和室を出て奥へと消えていった。
卓上の茶器を見て最初に頭に浮かんだのは、喉の渇きを潤すことではなく、まさか指紋とDNAを採取するつもりではないか、ということだった。そう考えると、警察官をやっているあの友人にひどく影響され、自分が神経質になりすぎていることに気づいた。和室内の様子を見回したが、特に変わったところはなく、伝統的な和室にあるべきものばかりだった。数分、あるいは十数分が過ぎた。わざわざ時間を気にするようなことはせず、ただ入り口から斜めに差し込む陽の光を眺めていた。やがて、足音が響き、次第にこちらへ近づいてきた。
「こちらへ来てください。」
先ほどの女性警官は、あの夜行装束から比較的ラフな部屋着に着替えていた。俺は何も言わず、立ち上がって黙々と彼女の後を追った。廊下を抜け、ある中庭に出ると、そこにはすでに老若男女、三世代にわたる15人が集まっていた。突然、先ほど女性警官の身に起きたことがまた繰り返されると直感し、無意識にポケットのスマホを掴もうと手を伸ばしたが、もう遅かった。
スマホはまた勝手に宙に浮き上がった。目の前で起きた現象に皆が口を開いて尋ねようとするより早く、15本の純白の光線が天から降り注ぎ、俺と女性警官を除く全員を完璧に包み込んだ。彼らに絡みついていた影のような鎖が崩れ去り消滅していくのに伴い、純白の光線も次第に姿を消した。
しかし、皆が我に返って俺に質問しようとしたその時、火葬塚の方向からくぐもった低鳴りが響いてきた。同時に、山林にいる様々な鳥たちも一斉に警戒の鳴き声を上げ、まるで凶地から逃げ出すかのように四方八方へ飛び去っていった。音のした方へ、俺たちは天皇火葬塚の方向を振り向いた。
元は雲一つない水色の空だったが、地面から突如として噴出した黒い影が、太い縄のように一直線に雲を突き抜けた。ほんの一瞬のうちに、深淵の渦のような黒雲が激しく擾乱し、嵐山地域の上空を徐々に覆い尽くし、狂暴な勢いで回転し続けた。そしてその黒い影も時間とともに急速に膨張し、容赦なく周囲のあらゆるものを呑み込んでいく。
「千年の間守り抜いてきた呪いが、ついに解き放たれてしまったか……」
一人の老人が、目の前の光景を見て絶望的な声で呟いた。
皆はすっかり取り乱し、口々に慌てふためき始めたが、誰一人として有効な解決策を出せる者はいなかった。
「あなたが本当に預言にある、千年守られ続けたこの封印を解くことのできるお方なら、どうか我々をお助けください!」
別の老人が俺の服を掴み、恐怖と期待の入り混じった表情で俺を見つめた。
『呪いなんて解けるわけないだろうが……』と心の中でツッコミを入れながらも、老人を一瞥し、空中に浮いたままのスマホへと視線を移した。
「今の状況で、どう対処すればいいか分析してくれ。」
手を伸ばしてスマホを取り戻し、サポートAIを起動して、この惨劇を食い止める方法を導き出してくれることを祈った。
『空間異常の分析を完了しました。以下の手順での処理を推奨します。』
十数秒の演算を経て、AIが解決策を提示した。
『第一に、守護代の全員が呪いの外周に均等に散開してください。その後、携帯端末のネットワークを経由して「空間折り畳み」を連携実行し、拡散中の呪いをせき止めます。』
『第二に、清淵本人が呪物のコアが存在する地点へ自ら赴き、至近距離から直接浄化を行ってください。これにより解除が可能です。』
スマホから発せられた冷たい機械音を聞き終えると、中庭にいた全員が静まり返った。AIが何を言っているのか、誰一人として理解できなかったからだ。無理もないことだが、今は一分一秒を争う事態であり、一から説明している暇は到底なかった。
『実行しますか?』
スマホは確認画面のまま、俺の選択を待っている。
「すべて指示通りに動くのじゃ。」
外見からして70代か80代くらいの3人目の老人が前に出た。他の者たちも一斉に俺の方を見た。
「ああ、わかった。」
そう言って、俺は『はい』をタップした。
『携帯端末の連携が完了しました。全員、ナビゲーションに従って指定の位置へ向かってください。』
この音声ガイダンスを聞いた後、全員が自分が向かうべき場所を突然理解したかのように、全く躊躇することなく、走ったり跳躍したりして一斉に中庭から離れていった。みんな、どうやって行く場所がわかったのだろうと考えていた矢先、地面にスマホのマップ機能のナビゲーションと同じような案内矢印が表示されていることに気がついた。俺は案内に従って多宝殿を抜け、天龍寺と嵐山の境界にやってきた。視界に飛び込んできたのは、花期を過ぎたソメイヨシノの広大な樹林だ。案内指標は南を指していた。
『全員が指定位置に到着しました。準備完了です。実行しますか?』
俺は樹林の前に立ち、周囲の地域を容赦なく呑み込みながら徐々に拡大していく呪いの黒影を見つめ、スマホを取り出して『はい』をタップした。目に見える一筋の光線が俺を起点として放たれ、守護一族が配置された一つの点に繋がって線となった。続いて、守護一族のすべての点を繋ぎ合わせて円となり、次第に膨張し、あらゆるものを容赦なく貪り食う漆黒の呪いを包囲した。その呪いが俺たちの構築した結界に触れた瞬間、ついに拡大を停止した。呪いがこれ以上広がらないことを確認し、俺は直接、呪いの黒影の内部へと足を踏み入れた。
呪いの黒影の内部に入ると、果てしない暗闇以外、何も見えなかった。いや、地面にはまだ案内の矢印が見えているので、道に迷うことはない。能力を視神経に集中させてみた。期待したように全てがはっきりと見えたわけではないが、もはや完全な闇ではなくなり、大小様々な黒雲がこの呪いの空間に漂っているのがわかった。
案内に従って前へと進む。しかし……見えない圧力が肩に重くのしかかってくるのを感じた。しかも一歩踏み出すごとに、その見えない力は重みを増していく。この物理的な重圧を耐え抜く方法はいくらでもあったが、これに伴う精神汚染こそが最も恐ろしいものだった。それは心の底を直接覗き込み、人間の最も深い秘密に直接触れ、それを様々な流言飛語に変換して、俺の周囲を付き纏った。幼い頃の記憶、両親が亡くなったこと、友人のこと、同僚のこと。
少し歩くと、道端に暗い黒影の斑点が散らばった花が多数咲いているのに気がついた。よく見ると、花からは絶えず黒い煙が立ち上っているようだ。薄暗くてよく見えない山道を、案内に沿って慎重に進む。道中、呪いの影響なのか、空気中に様々な腐敗臭が充満していた。3、4分ほど歩いただろうか。距離からして、津崎村岡局の銅像付近まで来ているはずだ。あと少し方角を変えれば、今回の目的地である火葬塚にたどり着く。
「果てしない長夜のような呪いの嵐に囚われた、同命の方よ。」
銅像の近くまで来た時、上方、つまり銅像のある位置から、静かな女性の声が聞こえてきた。
「権力者に迫害された同じご縁のある者として、私にもう一度、この場所のために力を尽くさせてくださいませ。」
銅像を見上げると、黒雲のせいで闇に紛れていた銅像が、突如として淡い光を放ち始め、周囲十歩ほどの空間を徐々に照らし出した。その静かで落ち着いた声は、ずっと繰り返されていた流言飛語をも掻き消した。
「恐ろしいのは、目に見え、肌で感じる迫害ではありません。時の流れと共に、自らの心が死んでしまうことです。」
「この土地のために力を尽くそうとする命であるならば、たとえ対立する者がどれほど権勢を誇る者であろうとも。」
「千年残されたこの呪いも、その宿命を終わらせるべき時が来ました。私があなたに纏わる不浄なるものを祓い落としましょう。」
言葉が終わった瞬間、足元から幽玄な青い光が放たれたのを感じた。無意識に下を向くと、足元に五芒星の陣が形成されていた。続いて、その五芒星の陣が浮かび上がり、全身をスキャンするように通り抜けた後、頭上で一秒ほど停止して消え去った。
その瞬間、体に纏わりついていた様々な違和感が一気に消え去った。再び銅像を見上げると、もう声は聞こえなかったが、そこから放たれる光が消えることはなかった。俺の心の中に、津崎村岡局に関する無数の記憶が入り乱れて駆け巡った。厳かに一礼をした後、今回の目的地へと歩みを進めた。
今回は、再び漆黒の呪いの内部に足を踏み入れても、先ほどの圧迫感や流言飛語が現れることはなかった。案内に沿って進み、ついに火葬塚にたどり着いた。呪いの影響で、ここには無数の黒雲が高速で移動している以外、一角から漆黒の潮のように外へと溢れ出し続けている藁人形があるだけだった。
どのように処理すべきか考えていた矢先、一筋の純白の光線が天から降り注ぎ、藁人形を的確に包み込んだ。そして、その純白の光線に照らされて初めて、俺のスマホがまたしても勝手に飛び出していることに気がついた。
その時、藁人形はまだ抵抗しようとしているのか、ゆっくりと空中に浮かび上がった。すると純白の光線は、出力を上げるかのように徐々にその範囲を拡大していった。だが、光線の変化に伴い、小脳の辺りから伝わる激痛が徐々に俺の意識を蝕んでいく。どうやら、今回の「空間折り畳み」のネットワーク連携と純白の光線の出力変化は、俺の脳の限界を超えようとしているらしい。しかし、この呪物を消滅させるまでは、まだ倒れるわけにはいかない。
純白の光線が呪いの影響範囲を完全に覆い尽くすと、藁人形も徐々に崩壊し、消え去っていった。そして俺の意識も、その純白の光線に直接同化され、真っ白な世界へと変わっていった。




