【09】共同体
波乱の再演は、文音が考えた二人一役という奇策により無事に幕を下ろした。
舞台上では10年ぶりの大賞を勝ち取った演劇の主演、七星文音へ実行委員からインタビューが行われようとしていた。
「いやー、本当に素敵でした! どうしてここまで本格的に『クリミナル・クリスタル』をやろうとしたんですか?」
「えっと、それは」
ダイヤの声は、澪が舞台裏から当てていた。文音の声がそれとは似ても似つかない状態となっていることに、音響ブースの2人の顔は真っ青になる。
「バレる、絶対バレるって……! ってかもうバレたぁ――っ……」
「どうやって言い訳するんだろう、七星さん……」
司会もその違和感にはすぐ気づき、眉を顰める。
文音は素直に全てを語り始めた。喉の痛みにびくつきながらも、微かな声で慎重に言葉を発する。その表情は誇らしげだった。
「えっと、早朝にはもうこのような声になっていて……。それでも、ダイヤ役は誰にも任せられませんでした。だから、信頼できる人にセリフだけをお願いしました」
「す、すごい……。そこまで想定されていたんですか?」
「いえ、今日の朝に……」
視線を下手側、音響ブースがある方へ送りながら語った文音の嘘のような真実に体育館は地鳴りのようなどよめきに包まれ、文化祭2日目の演劇再演は幕を閉じた。
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文化祭は幕を閉じ、日も暮れていた。校門の前で、澪と文音はふと足を止めた。
文音は澪にぴたりと寄り添い、次々と学校を後にする生徒たちの足音にかき消されそうな声でつぶやいた。
「……終わって、しまいましたね」
「うん」
「私は、明日から……どのように生きていけばいいのでしょうか」
「お、燃え尽き症候群?」
「……燃えかすすら、残っていません」
文音の心には劇を完遂したこと、10年ぶりの大賞を出したこと以上に深い別の感情があるように澪は感じ取った。
(そりゃ、寂しいよね。高校生活最後の楽しい行事だったんだもん)
「澪さん。本当に、今日まで多大なご迷惑をおかけしました」
「……そんなこと、思ってないよ。大変だったけど人生トップクラスに楽しかった」
それは彼女が求めた言葉ではないらしく、文音は俯いてしまう。
「えーっと……。今日までよく頑張ったね。うん、本当に頑張った!」
澪が文音の頭を髪が乱れるほどに撫でても、彼女は表情を曇らせたままだ。
「だ、ダイヤの死に際、何度見ても綺麗だった! いやー、あんなに綺麗な死に際は今後また10年待ちだろうね!」
澪がいくら言葉を尽くしても、文音の寂寥感を拭ってやるには程遠かった。
「うぐ……。……男装した文音ちゃん、超絶かっこよかったっ!」
それが正解だと言わんばかりに、文音は澪へ重力に身を預けるように抱きついた。澪は息を詰まらせ、文音は回した腕に精いっぱい力をこめる。
「私たち、やっと青春できたね」
堪えていた感情が決壊し澪の制服を濡らす文音の震える身体に、彼女もまたそっと手を回した。
創世記と恋物語IFストーリー『結晶』おわり




