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国を追われた元最強聖騎士、世界の果てで天使と出会う ~辺境に舞い降りた天使や女神たちと営む農村暮らし  作者: 鳴神衣織
【第三話】新たな日常と奇病騒動

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40.魔導具生成しただけなんだがな?1

 食事中に軽く騒動に巻き込まれてしまったものの、そのあとは至って平穏な時間が流れていった。


 食事の片付けも終わり、グレアムは予定していたスキルマテリアルを順調に作り続けていた。


 その甲斐あり、マロとチョコが使用するマテリアルの補充分は手早く終わり、その後、前々から作ろうと思っていた便利アイテムの着手に乗り出した。


 これさえ完成すれば、たとえ今後、いつか村の仕事で遠出しなければならなくなったとしても、お留守番している愛する娘が寂しい思いをしなくてもすむ。


 そう思ったからこそ、遠隔地にいながら娘の様子を確認できる道具があれば安心できるのではないかと考えたのである。

 そんなわけで、早速、作業に取りかかっていたのだが、


「ところで、グレアムは先程から、何を熱心に作っておるのだ?」


 村に戻るまでの少しの時間をくつろいでいたマルレーネとクリスのうち、赤毛の方がそう口を開いていた。

 彼女は、箱状のものをガチャガチャ組み立てているグレアムへとにじり寄ると、手元を覗き込むようにする。

 それを見ていたマルレーネも、ラフィを膝の上に乗せたまま、目を細めながら近寄った。


「私もその物体、()()()()()()()()で見たことがあるような気がして、ずっと気になっていたのですが。グレアムさん? それはいったいなんですか?」


 疑うような視線を向けるマルレーネと、興味津々といった雰囲気のクリス。

 二人の女性に左右を挟まれてしまったグレアムは、ばつが悪くなって苦笑した。


「いや、これはだな。家にいながら遠隔地の様子が見られるようになる画期的な魔導具の一種なんだよ。名づけて双方向()()()! これを一組セットで使用すれば、離れていてもいつでもラフィとお互いの姿を確認し合い、会話できるようになる便利アイテムなんだ。既にこれを作るための魔晶石(コア)も、万屋を通じて入手しているから、あとは組み立てるだけだしな」


 そう得意げにニヤッと笑って説明すると、クリスはわかったようなわからなかったような、そんな表情を浮かべて、「ほう……」とだけ声を漏らしたが、一方で、マルレーネは呆れたように額を抑えた。


「グレアムさん……」

「うん? なんだ?」

「あなたはいったい、何をなさっているのですか……」

「うん? 何とは?」

「何ではありません。いいですか? 以前、グレアムさん教えてくれましたよね? 遠隔地を映し出す遠見の水晶球ですら、最上位魔法を駆使してやっと作れるようになる魔導具なのだと」

「ああ。確かにそう説明したね。現に、それの模造品をコアとして仕入れたしね」


 マルレーネとはそれなりに長い付き合いとなる。

 グレアムが旅の最中に仕入れた情報や、細かな知識の一部を、せがまれるままに彼女には話してあった。

 世界には人間だけでなく、いろんな獣人種がいると説明したときにはなぜか、彼女は瞳をキラキラさせていたような気がする。

「猫耳族はいますか!?」とかなんとか。

 遙か東の大陸ノーラスにはエルフが住んでいるんだぞと、説明したときなどは、


「エルフ!? それってあの、耳が細長い種族のことですか!?」


 と、見たことがないほどに狂喜乱舞していた。

 戸惑い気味にグレアムは頷くと、しばらく彼女はそのまま現実に戻ってこなかったと記憶している。

 遠見の水晶球の話もまた、そんな与太話の一つである。

 マルレーネはきょとんとしているグレアムを見て、更に呆れ果てたような顔をした。


「はぁ……グレアムさん……そこまでわかっているのに、どうして気付かないのですか……。あなたが作ろうとしているものがいったいどれだけ、世界の根幹を揺るがしてしまうものになるのかということを」

「うん? どういうことだ?」


「つまりです。遠見の水晶球ですら一方通行の魔導具なのです。片方からは見えても、もう片方からは見ている相手を見ることは不可能なのです。それなのに、グレアムさんが作ろうとしているものは双方向、つまりお互いに相手の姿を確認でき、会話することまで可能になる代物なんですよ? これがどれだけやばいものかおわかりですよね? 王城にいる王様が、最前線の兵士に直接指示を出し、兵士たちがリアルタイムで戦況を報告できるようになるということです。こんなものがあるだなんて知られたら、とんでもないことになりますよ?」


 軽蔑したような視線を向けてくるマルレーネに、さすがのグレアムも今更ながらにその事実に気が付き、「あ……」という顔を浮かべた。


 王様と総司令官だけでなく、戦場内でも右翼と左翼で頻繁に情報のやりとりを、しかも瞬時に行えてしまうようになるということだ。


 現状の戦争では、伝令兵を使用して指示を伝えるのが常識であるがゆえに、それなりのタイムラグが生じる。


 文章による情報伝達のみ可能とする魔法も開発されていて、主にレンジャーギルドなどで使われているものの、こちらも双方向ではない。ただの情報送信魔法だ。


 それゆえに、人力によるものに比べたら伝達速度は速いが、それでも多少の時間はかかる。


 しかし、グレアムが作ろうとしている魔導具を使えば、時間的ロスがゼロとなり、戦況を有利に進められるようになるのだ。


 それがいかに戦争の根幹を揺るがせてしまうような代物になるのか改めて実感し、自分がやらかしてしまったことを悟るのだった。

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