41.魔導具生成しただけなんだがな?2
(さすがに少しばかりやばいか。こんなものがあるなんて知られたら、たちまちのうちにいろんな勢力が接触してきて、平穏な生活が脅かされてしまうだろうしな)
おそらく真っ先に動くのは聖教国だろう。
お尋ね者のグレアムがここにいる。
そう悟り、大量に暗殺部隊をここへ送り込んできて、あっという間に村ごと滅ぼされてしまうだろう。
グレアムは取っ捕まり、彼が作った魔導具の更なる改良のために監禁される。
村人たちはラフィもろとも、口封じと称して皆殺しにされる。
それぐらいは平気でやる連中だ。一瞬にして大切な人たちの未来ある人生がすべて奪われてしまう。
さすがにそれは、あってはならなかった。しかし――
(う~ん。だけどなぁ……そうは言っても、これ、あった方が絶対便利だと思うんだよなぁ)
相変わらず一人、納得したような納得できなかったような顔を浮かべていると、マルレーネがもう一度深い溜息を吐いてから、残念そうな顔をした。
「はぁ……まったくもう。テレビ電話じゃないんですから、文明レベルを数百年も引き上げてしまいそうなもの、作らないでくださいよ。ていうか、やっぱりグレアムさんって本当は私と同じであっちの世界の記憶、あるのではないですか? ときどき、どう考えてもこの世界には存在しないような異質なもの作ってますし、ネーミングセンスもそう。双方向カメラもそうですが、昨日の夜作っていたスキルガチャというものもそうです。本当に、私が知っている前世のおじさんにそっくりですよ」
そう言って、マルレーネは目を細めてじっと見つめてくる。
そんな彼女に、「ん? 前世ってなんのことだ?」と、クリスがきょとんとするが、グレアムは赤毛の彼女を無視して口を尖らせた。
「そんなこと言われてもな。単にふと、頭に浮かんだ固有名をそのまま命名したり作ったりしてるだけだしなぁ。現に、今回だって、ただ遠方で仕事している最中にラフィが寂しくないようにと思っただけだし、いきなり前世とか言われてもな」
マルレーネが言う前世云々に関しては、グレアムにはまったく心当たりがない。
前世や魂という考え方それ自体は別段、奇異なものとは思っていない。
しかし、記憶が蘇るという理屈はまったく理解できない分野だった。二人分の記憶として存在するのか、それとも前世と今生それぞれの記憶が完全に混ざり合って当然のように一人の人間として存在しているのか。真剣に考えてもよくわからない話だった。
だから当然、ネーミングがどうたらとか、スキルガチャが異質とか言われても、グレアムには理解不能だったのである。
ちなみに、マルレーネが言うスキルガチャというのは、クリスタルサボテンから作られるスキル晶石にランダム性を付与した、ただのおもちゃのことである。
元々生み出されるスキル晶石には属性や因子といったものがあり、その属性次第で付与できるスキルの種類が変わってくるという性質がある。
そのため、グレアムが育てているクリスタルサボテンは、スキル晶石の属性が同じになるよう品種改良されているのだ。
しかし、スキルガチャと命名したクリスタルサボテンには、敢えてそれが施されておらず、むしろ同一のものができないようにと、調整まで加えられていた。
なぜそんなことをしたのか。理由は簡単だ。どんな実ができるかわからない方が、娯楽要素があって楽しいからだ。
しかも、このスキルガチャは仕事用に用意したわけではない。
文字通り、ラフィのためのおもちゃとして作ったのだ。
そう。つまり、正真正銘、可愛い娘のためだけに作った、単なる娯楽アイテムでしかなかったのである。
超高級品であるスキル晶石を作り出す希少価値の高いクリスタルサボテンを、ただのおもちゃに作り替えてまで。
そんなわけで、昨夜もそうだったが、ラフィのためにおかしなものばかり作っているせいか、グレアムはマルレーネに思いっ切り呆れられてしまったと、こういうわけである。
「本当によかれと思ってやってるだけなんだけどな?」
一人納得いかず、腕組みして天井を見上げるグレアムに、マルレーネは諦めたように溜息を吐いた。
「とにかくです。今後は気をつけてくださいね。グレアムさんって普段は頭が回るのに、ときどき、放っておけないぐらいおかしなことやらかすんですから」
「そうかぁ? 俺に言わせれば、マルレーネの方がよっぽどもあぶなかっしく感じるんだけどな」
「はい?」
「いや、だってさ。俺たちが常識に思っていたことを平気で覆してくるだろう? 料理とか風呂とか、いろいろと。野菜を品種改良して、新しい薬草生み出したときには本当に驚かされたけどな」
マルレーネは医療の知識もあるらしく、この世界では原因不明の死病として扱われていた高熱病すら治療してしまうような薬を生み出している。直接彼女が作ったわけではないが、村医者や村の錬金術師に助言を与えて、薬草開発や薬の調合を主導したらしい。
そのときに作り出したのが新種の薬草だった。
「あのときはたまたまですよ。私もさすがに製薬に関する知識は持ち合わせていませんし、職業柄、殺菌薬や抗菌薬という薬品の存在を知っていたから、この世界でも作れないかと思って試行錯誤した結果、うまくいっただけのことです。私がしたことなんてそれぐらいです。グレアムさんほど、とんでもないものは作っていませんよ」
「いやいや、俺なんかよりも格段にやばいと思うけどね」
お互い一歩も引かず、ニコニコし合っている二人を見て何を思ったのか、それまで成り行きを見守っていただけのクリスが、
「お前ら、本当に仲がいいな……」
そうどこか、拗ねたように呟くのだった。




