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夏の出来事  作者: モノクロ◎ココナッツ
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十話


 正直全く覚えていないので、言われた所で恥ずかしい気持ちすらも沸かないのが正直な所。

 でも何故だろうか。彼女を見る度に少し複雑な気持ちになるのは。


 確かに彼女とは初対面であり、当然ながら会った覚え等は無い。……幾ら女の子と縁のない僕と言えど、これだけの美人と会ったのならば少なからず記憶には残る筈で、ここまでさっぱりと記憶が無いのは少しおかしい。

 ……なのだがどうも感覚として何処か懐かしい気持ちを感じるので、その真逆ともとれる奇妙な感覚に少し戸惑いながらも、この祭りを楽しんでいた。


「と・に・か・く。今から敬語は一切無しね!」


 彼女はまるで言い聞かせるかの様にいきなり人差し指をピッと立ててきたので、思わず気圧される。そんな如何にもいつも通りな彼女の反応に少しホッと安堵していると、背後から「おっ、薫じゃねーか。珍しいなー」なんて言う意気揚々とした言葉が背後からかかる。

 一体誰かと思って振り向くと、そこに居たのはクラスの人気カースト上位に居るであろう、飯島(いいじま)拓哉(たくや)の姿が。


 クラスの人気上位に位置する彼なのだが、だからといって(いん)の側に存在する僕等に対して差別意識や(さげす)む様な対応をするのではない所が凄い所。(むし)ろ何でそんな事も知ってんの? と言わんばかりに博識であり、そこら辺のオタクよりも深い造詣(ぞうけい)を持っているので、時たま"本当にこいつは陽キャなのか?"と、疑問を抱く時がある。だが学校に居て他の女子や他のオタク達と話している所を見ると(まご)う事無き本人であり、まるで砂漠のど真ん中に現れたオアシスの様に、その周りには男女問わず人々が溢れて水に群がる動物達の様にも見えてしまう。

 ……こんな言い方失礼なのだが、他に言い方が思い浮かばなかったので、どうか勘弁してほしい所。……いや、本人達には口が裂けても言えないけどね。


「……おー……」

「んだよその反応!」


 その振り返った先に大勢のクラスメイト達の姿が目に入り、思わず言葉を失いそうになるのだが、何とかその眼の前の光景を理解して言葉を発した所。

 ……人って本当に予想外な自事態が発生すると言葉が詰まるよね。


 だが彼は僕のそんな様子を全く気にした様子もなく、陽気な笑顔を携えたまま近寄って肩を組んでポンポンと手を弾ませた。


「……なぁ、"イベント"の進捗状況はどんな感じだ?」


 だが次の瞬間にその表情は一気に真顔となり、少し前に爆発的な人気が出ていた、戦艦や駆逐艦、潜水艦などの船を擬人化して戦わせるゲームの期間限定イベントについて尋ねてくる。


 その表情は一切の遊びが感じられない程に真剣で、本当にゲームの話をしてるんだよな? と一瞬不安になってしまう。

 そんな彼の心を何だか無性に()し折りたくなり、「……新艦全部掘ったぞ」と、今回のイベントの成果を彼に告げると、瞬時にして彼の表情は苦痛に歪んだ。


「一体何周したんだ……?」

「ストレートで通過」

「……は?」

「ストレート。ゲージリセットなし。撤退なしで通過」


 先日イベントを走った際、第2ステージにて敵のゲージを最初に削った際、まさかのイベント限定ドロップが一発で来るとは思っていなかったのだ。

 なのでそのまま前段作戦をすべてクリアし、ゲージ破壊による確定報酬を受け取り、現在減った資源を取り戻している最中である。


「……んで飯島よ。貴君の進捗はどうなんだい?」


 僕は資源をカンストさせてイベントに挑む所謂(いわゆる)米帝(べいてい)プレイという状態だったので、現状、後日開放される後段作戦にて余程沼らない限り、無事完走できるだろうと踏んでいる。……全部掘って完走できると良いなぁ……なんて淡い期待を抱いていると、背後から「ふふふっ」と鈴を転がした様な透明感のある笑いがこぼれ落ちる。


 何だと思ってふと振り返ると、そこには香菜さんが口元に手を添えつつ笑っている姿が目に入る。

 彼女からしたらただ笑っているだけなのだが、見ている僕としては何とも言い難い色香(いろか)を感じる。

 そんな彼女を二人で眺めていると、当の本人である香菜さんはその視線に気付いて小首を傾げながらどうしたの? と言わんばかりにぎこちない笑みを浮かべた。


「……お主、もしかしていつの間に彼女……!」

「ちげーよ。それだけは違う。……親戚の香菜さんだよ」


 初めて聞いたそのドスの効いた声に少し恐れを抱きつつ、香菜さんとはそう言う関係ではない事を彼に伝える。……いや、お前その人気っぷりで彼女一人いないとかどうなんだ? 本来なら"同志よ"と言わんばかりに歓迎するのだが、ここまで来ると逆に心配になってしまう。


 すると僕達の会話が気になったのか彼女はひょこっと覗き込む様に「一体何を話しているの?」と尋ねてきたのだが、その可愛さに僕と飯島はつい言葉を失ってしまう。


「……お前、頑張れよ」

「えっ、あ、あぁ、うん。お前もな」


 その彼女の反応を見た飯島はと言うと、何かを悟った様な穏やかな笑みを浮かべつつ、今しがた一緒に行動していた同級生達と共に屋台を回る為か、Uターンする様に行ってしまった。……何で僕の方へと合流したんだろうと疑問に思ってしまうのだが、過ぎ去ってしまったものを今更考えても何も変わらない。


 香菜さんに向き直って「じゃあ、僕達も行きましょうか」と言いつつ先を歩こうとするのだが、そこでふわりと掌に温もりを感じてふと手を見ると、その華奢でいて雪の様に綺麗な手が繋がれており、意識してか否かは分からないが、指の間に指を絡める所謂恋人結びの形に結ばれていた。


 ……おかしいな。さっきは普通の結び方だった筈なんだけどなー……なんて、まるで自分自身を煽るかの様な事を考えながら、顔が真っ赤になる感覚から必死に意識を逸らそうとする。

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