表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/20

第二十話 外堀は埋まった

最終話です。

 それからサラは七日滞在した後、母国へ帰った。その一週間は目まぐるしく、王妃候補として、首脳陣への顔合わせだ晩餐だのがあり、正直、よく覚えていない。


 お伽噺のような世界は身一つで飛び込むにはやはりハードルが高かったが、予想に反してサラへの当たりはそれほど酷くなかった。どうやら、ベルベットローズがあの後、「私は小娘が気に入った」と反発を抱いている者達へ、牽制を行ったからだった。

 ベルベットローズが人間の番を認めるということは、反発していた者たちの気運を大いに挫いた。


「ベルベットが選んだ子なら間違いないと思うよ」


 アンドリュースの父親(熊)も賛成し、ますます反対派は何も言えなくなった。


 しかし、それで全て丸く収まったわけではない。子供ができ、王の証のである金色の目を持つ者が人間だった場合どうするのか、許すのか、許さないのかなど様々な懸案が出された。


 アンドリュースはその中心に立ち、一つ一つの懸案に向き合った。しかし、サラ以外を嫁にするつもりはないということだけは彼の中で揺るがなかった。


 一方、サラも獣人のいろはを知るところから始め、王妃になるための必要知識を得ていった。兄弟たちのこともあり、母国を拠点に暮らしてはいたが、リュカに連れられて外交官とも会うこともあった。


 リュカがニポ国の特使に任命されて支援を行うようになると、周辺の人間の国もすり寄ったり、傲慢な態度で突然来たりしたが、それをアンドリュースはリュカに全て押し付けた。


「お前は俺のために死ぬ寸前まで働け」


 そう言われた裏にはサラと喧嘩しただのなんだの言われたが、自分の番をニポ国に呼んでイチャついているのが気に食わなかったのも一つの要因だった。


 とはいえ、リュカが人間の国を取り持ってくれたおかげで、アンドリュースは国内のごたごたに専念できたわけである。絶対本人は言わないが、「本当はね、感謝しているんだよ」とサラがこっそり言ったことがあった。



 一方、サラは控えめで素直な性格が功を奏して獣人たちとも打ち解けるのに時間はかからなかった。


「さすが王が選んだ方だ……」と言う者もいれば、「さすが王を手懐けた方だ……」と言う者もいた。


 アンドリュースとは会えてもゆっくりできる暇はなかった。ただ、サラとアンドリュースの誕生日の間をとった一日だけは、一切人を寄せ付けず、二人で過ごしていたらしい。




 気づけば五年、経っていた。


 そして、今日はルリの八歳の誕生日だ。アンドリュースもこの日はサラたちの家に来ていた。ケーキを囲み、満面の笑みでルリはロウソクの火を消した。


 その日の晩、ルリはサラにこっそり話をした。


「あのね、サラお姉ちゃん。私、もう一人で起きれるし、一人で眠れるよ。勉強も頑張っているし……お料理とお裁縫はまだまだだけど、少しずつできるようになったよ。だからね……」


 ルリはサラの手をとって微笑んだ。


「アンドリュースのお嫁さんになって。私はもう大丈夫だから」


 突然の告白にサラの目に涙が浮かぶ。


「やだ……ルリの誕生日なのに、私がプレゼントをもらったみたいじゃない……」


 涙を流すサラに、ルリはぎゅっと抱きついた。


「お姉ちゃん、大好き。たくさん幸せになってね」

「ありがとう、ルリ……」


 まるでサラの方が妹になったみたいにルリの腕の中で泣いていた。



「アンドリュース!」


 ルリはサラと話した後、アンドリュースの元へ向かった。涙をボロボロ流しているサラにギョッとして、どうしたと近づく。

 戸惑っているアンドリュースに、ルリはにんまり微笑んで、銀色の耳に内緒話をした。


「遅くなっちゃってごめんね。誕生日おめでとう」


 それにピンときて、ルリとサラを交互に見つめる。ははっと、心底嬉しそうに笑ってルリの頭を撫でた。


「ありがとう。今までで一番のプレゼントだ」


 その言葉にルリも嬉しそうに微笑んだ。



 これはアンドリュースとルリだけが知っている話。ルリは毎年かかさず誕生日プレゼントをくれる彼に聞いたことがあった。


 “アンドリュースの欲しいものって何?”


 聞かれる度にアンドリュースは同じ事を答えた。


 “お前の姉さん”


 “むぅ……他に欲しいものはないの?”


 “ないな。それ以外、欲しくない。くれるか?”


 “やだ! サラお姉ちゃんはルリの!”


 そんなやり取りを毎年していた。だから、ルリは八歳になった誕生日になったら、アンドリュースに誕生日プレゼントをあげようと決めていた。アンドリュースの誕生日は一週間後。ちょっと早いが、直接、渡したかったから、許してほしい。


 ルリのお許しがでて、他の兄弟たちにも聞いたが、皆、同じ返事だった。


「よかったー! やっとだね! もちろん反対なんかしない! おめでとう!」

 と、マリは涙ながらに喜んだ。


「サラお姉ちゃんが幸せならいいよ。アンドリュース。サラお姉ちゃんを宜しくお願いします」

 と、セイヤは父親のように頭を下げた。


「別にねーちゃんがいいんなら、いーんじゃねぇの? ……は? バカっ! 寂しくなんかねぇよ! ガキじゃあるまいし!」

 と、お年頃なコウヤは悪態をつきながらも賛成した。



 妹弟たちの賛成を得て、二人は最後の一人に挨拶しに出掛けた。それは、養父タカへだった。


 お墓の前に立ち、サラは涙ながらにアンドリュースを紹介して、”お嫁に行きます”と報告した。アンドリュースは、墓石の前に跪き、真剣な表情で言った。


「必ず幸せにします。お嬢さんを俺にください」


 それにまたサラは涙した。




 そして荷物をまとめて、仕事の引き継ぎやら色々した後、サラはニポ国を旅立った。




 久し振りに訪れる獣人の国は以前に比べると自分に案外、馴染んでいる気がした。最初は靴擦れを起こして仕方がなかったハイヒールも今は割りと足に馴染んでる。お伽噺のような世界に溶け込んできた証拠だろう。サラはもうこの世界を絵本のような別世界とは感じない。


 自分がこれから歩く世界だと認識できていた。



 王宮に向かうとツンとすましたモンテールが待っていた。


「サラ様、お待ちしておりましたわ」


 変わらない態度に微笑みながら、サラは新しい自分の部屋へと案内された。案内されている途中、サラはモンテールに話しかけた。


「モンテールさんとまた一緒になれて嬉しいわ」


 そう言うと彼女はツンとすました態度を変えずに飄々と言った。


「王妃様のお世話役なんて、とても御給金がいいんですよ。他の人にはやらせません」


 五年経ってもブレない彼女だったが、どことなく赤らんだ頬は、彼女がお金のためだけにここに居るのではないことを物語っていた。


 案内された部屋は前にみた客室よりもずっと広かった。大きなベッドがあり、愛らしい水色の花がいくつもあるカバーがかかっている。


「ここでお待ち下さい」

「あ、はい……分かったわ」


 一緒に荷物の整理をしてくれるのかと思ったが、そうではないらしい。モンテールはさっさと部屋から出ていってしまった。


 仕方ないので、一人で整理を始める。すると、後ろでドアが閉まる音がした。そして、鍵がかかる音も。


 モンテールだろうか?と思って振り返ると、相手は素早い動きでサラを抱きかかえた。あっという間にベットに放り投げられた。片付けようと開いた鞄から荷物が散らばる。


「ちょっ……なに!?」


 怒りながら振り返ると、投げた相手はにやりと笑っていた。


「アンドリュース……」

「やっと来たな。待ちわびたぞ」


 ジリジリ詰め寄られ、身の危険を感じる。逃げ出そうと後ずさるが、あっさりベッドの隅に追いやられた。

 アンドリュースは獰猛な獣の瞳を爛々と輝かせていた。いたぶる気満々なのか、尻尾が揺れている。それをサラはじとっと見た。


「まだ、荷物の整理が終わってないんだけど……」

「後でやればいい」


 アンドリュースの手が伸びる。


「……散らかしたままだと、落ち着かないし」

「俺は落ち着いてる」


 プツンと胸元のボタンを外された。


「アンドリュースが落ち着いていても……私は落ち着かないの。まだ、昼間だし、その挨拶だって」


 首筋が顕になり、番の証をするりと撫でられた。


「サラ……」

「っ……」


「愛してる」

「っ!」



「だから、もう黙ってろ」



 金色の目が一瞬だけ視界いっぱいに広がり、サラは観念して目を瞑った。



 外堀は埋まった。

 後は幸せになるだけだ。


(おまけ) 不健全な会話です。


アンドリュースとリュカ。電話中。まだ嫁ぐ前の話。


「リュカ、サラの家に防音室を作れ」

「はぁ? なんで、防音室」

「変な声が聞こえたら嫌だろ?(偉そうな態度)」

「変な声って……お前は何をする気だ……」

「言わせたいのか?(にやり顔)」

「聞きたくないから、絶対言うな(呆れ顔)」

「じゃあ、頼んだぞ」


そして、出来た防音室。


「防音室……! 欲しかったの。ありがとう、リュカ」

「あ、え? ははっ……(サラちゃんも声を気にしてたのか?)」

「よかったわね、ルリ。これで好きなだけお歌が歌えるわよ」

「わーい!」

(歌??)


ルリ大合唱。ひどい音痴。


「ルリにたくさん歌わせてあげてかったのだけど、この通りだから」

(あぁ、なるほど……)


その晩、リュカとアンドリュースの電話の会話。


「防音室できたぞ」

「そうか。ご苦労」

「(ジト目)……お前が変なことを言うから誤解したじゃないか」

「(物凄く嬉しそうな声) ほぉ……何を想像した?」

「何をって……」

「な に を 想像した?」

「っ! ……うるせぇ! とりあえず地獄に落ちろ!」

「もちろん、そのつもりだ。まぁ、サラは道連れだがな」

「………はぁ(何も言えない)」


別の日のサラとアンドリュースの電話の会話。


「防音室できたんだってな?」

「うん。ありがとう」

「(悪い声)……リュカが俺たち二人が防音室を使うと勘違いしたらしいぞ?」

「え……?(ドキドキ)」

「二人で使うか?」

「……私、意外と歌はうまいのよ?」

「そうか。それは唱わせがいあるな」

「き、聞きたかったら、また今度ね。じゃあ!」


電話を切った後


サラ(電話越しだとアンドリュースの声が色っぽく聞こえて、ダメだわ……)


アンドリュース(歌はうまいか……まるで夜だけに啼く小鳥だな。今度、その声を出させてやろうか。楽しみだ)


防音室が使われたかどうかは内緒の話。




ここまでお読みくださいましてありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ