第九話
『ここって、ドリームキャッスルの中で、一番広い部屋なんだ!』
「うわっ?」
決して、ナレーションに驚いたわけではない。
しかし、思わず声が出るほど驚いたのは事実。一歩どころじゃなく後ろに下がっても、仕方がないだろう。
『うわお! ウルノ王子とリーノ姫が、ボクたちにあいさつしたいって!』
「あ、ああ……人形か。人形、だよな…?」
目の前に、突然人間大の人形が二体も現れば、驚く。
子供なら喜んで抱きつきそうだが、この不意打ち、本当に驚かされた。
『ドリームランドの王子様、ウルノ王子って、すんごい優しいんだ! 困っている人を見かけたら、すぐ助けに来てくれるんだよ! 毎日毎日、沢山の人を幸せにしたいって、ボクらの話も熱心に聞いてくれるんだ!』
左手には、立派な王冠をかぶり、赤い外套を羽織った、白いシャツに茶色のズボン、そして金色の杓状を持った、王子様。
『みんなも知ってる、ドリームランドのお姫様、リーノ姫は、この国で一番可愛いんだ! それからそれから、ウルノ王子と一緒に、困ってる人を幸せにしてあげたいって、いっつも頑張ってるんだ!』
右手には、色とりどりの石がはまったティアラを乗せた、ピンク色のひらひらとしたドレスを着た、お姫様。
『みんなも、ウルノ王子とリーノ姫に会えて、嬉しそうだね!』
この部屋も前の部屋と同じような造りだが、より一層豪華になっている。
左右には、一山の黒だかり…を表現したかったのか、沢山の人形や妖精たちが、群れをなしてギャラリーと化している。
皆、憧れの王子様、お姫様に会えて、笑顔を浮かべている。
ただ一つ、違和感があるとすれば、王様とお姫様は、何故か二人とも黒髪で、よくよく見ると、目も黒…いや、茶色い。
何故か、先にあった昔話にいた、人形の姿かたちを無視しているのだ。
ついでに指摘すれば、金髪碧眼がスタンダードな御伽噺からは浮いてる容姿でもある。
この二体の人形だけコスプレ感が漂っているが、遊びに来た子供たちが親しみやすいように、こんな姿にしたのだろうか?
ならば、何故先程の人形劇と色を合わせないのか………廃園になった以上、気にしても意味はないが、気になるところだ。
『ねえねえ、聞いてよ! リーノ姫がさ、案内したい場所があるんだって!』
そんな下らない物思いに耽っていたら、元気なナレーションが耳に飛び込んでくる。
その声に意識を戻し、天井に向けてた目を戻せば、私から見て右側の、つまりお姫様が、微笑みながら腕を差し出していた。
頭二つほど低い人形が、白い手袋、ロンググローブだったか…兎に角、手袋をはめた手を伸ばしていた。伸ばしたまま、動かない。
『さあさ、早くリーノ姫の手をとって! 先に行こうよ! どこに案内してくれるのか、ボク気になる気になる!』
一体なんだ? と疑問に思いかけ、ふと、閃いた。
なるほど、これは客の中から一人選んで……と言うやつか。選ばれた客は、アトラクションの最後に土産でももらえるのだろう。
だが、今は私しかおらず、他に誰がいるわけでもない。
無視しても先には進めまい、と軽い気持ちでお姫様の手に手を乗せてみれば。
「うお、っと」
軽く握られた感触がして、手を戻しかけるところだった。
いや、本来なら喜ぶのが正しいのだろうが、恐怖体験…もとい、噂の調査をしにきた身としては、驚く。
当たり前のように客としてアトラクションの流れに沿っているが、ここは、十数年放置されてた『廃園』ドリームランドであって、『夢の国』ドリームランドではない。
ただまあ…普通に、楽しんでる面も否定できないが。
「で、どうすればいいんだ?」
このまま腕を引っ張って案内してくれるのかと思えば、お姫様はあっさりと手を離し、くるりと背を向ける。
…なるほど、お姫様の手をとったら、人形が動いて先へ行ける、そんな仕組みになっているのか。
『それじゃあみんな、レッツゴー!』
「はいはい」