第七話
『昔々、あるところに、小さな村がありました。
村の近くには森があり、小さな家がありました。
そこには、とても美しい娘と、母親がいました。
二人は時折村にやってきては、綺麗な刺繍がされた布を、食べ物と交換していました。
そうやって、二人は慎ましく暮らしていました。
そんなある日、ドリームランドの王様が村にやってきました。
近くの村や町の様子を見に来たというのです。
村の人たちは王様がやってきたことに驚きましたが、盛大におもてなしをしました。
村でとれる野菜や果物、花などを王様に見せたり食べてもらったり。
中でも、綺麗な刺繍がされた布を王様はとても気に入り、作った人に会いたいと言いました。
村人たちは喜んで、森にある小さな家から、母親と娘を呼んで王様と会わせます。
「ドリームランドでも見たことがない、この綺麗な刺繍だが、君たちが縫ったのかね?」
「はい、私の娘が作りました。ほら、王様にご挨拶をしなさい」
王様の問いかけに、母親が答えました。
「こんにちは、王様。その布の刺繍は私が縫いました」
「ほう! 娘よ、名は何と言う?」
リーノ、と答えた美しい娘を前に、なるほどそれは、と大層感心した王様。
是非とも、その娘をドリームランドに連れて行きたいと考え、ふと、息子である王子様のことを思い出しました。
「このような身も心も優しい娘は、ドリームランドにも滅多にいない。そうだ、この娘を王子のお嫁さんにしては、どうだろう?」
なるほど、良い考えです。
そうと決まれば、王様は娘をドリームランドへ誘います。
突然の話に母親も娘も驚きましたが、喜んでドリームランドへ行くことへしました。
小さな村の、森の奥に住んでいた娘がドリームランドへ向かえば、王子様が綺麗で心優しい娘に一目ぼれをして、あれよあれよという間に結婚することになりました。
そうして、二人は幸せに暮らしましたとさ』
……最後は中々に強引で、有名な童話を思い出しかけるが、大体そのような感じの話であった。
妖精のナントカというナレーションに、最初に案内されたのは長い通路であった。
少し薄暗い通路、その左右の壁に、先の御伽話を元にした各場面が、人形劇形式で表現されていた。
具体的には、ドリームランドのお姫様である、リーノという娘のサクセスストーリーである。
だが、設置されているのはただの人形ではなく、一定の周期で同じ動作を繰り返す自動人形、機械仕掛けの人形で、客を飽きさせない作りになっている。
当然ではあるが、先に進んでいくことで、人形劇も進んでいく。
長閑で、何故か和洋折衷の古い家屋が並んだ村と、その背景にある、山。森にぽつんと立っている、質素な家、というか小屋。
金髪の少女と、似たような顔をした母親…の人形が、数人の村人たちと笑顔で交流している様子が表現されている。
次は、四頭立ての白く細工までされた立派な馬車が、遠くからやってくる場面。
そこから降りてきたのは、赤い外套を着て王冠を被った、白髪に白い髭の王様…の人形。
その王様の下に、食べ物を始めとした様々な物品を抱えてやってくる村人たち。
『おもてなし』の一つである、黒の糸で巨大な花の刺繍が施された布を手にした王様が、目と口を丸く開いて驚きを表現している。
五枚の花弁の中に、同形の花が刺繍してある、と傍から見ても気合の入った一品なのだが……どうもこの刺繍、紙に模様を印刷した物ではない。わざわざ布に刺繍したのだろうか? だとすれば、無駄に凝っている。
続いて、明後日の方向を指差す王様と、驚きの表情を貼り付けた母娘が会話している様子が、更に豪華な馬車の窓から顔をのぞかせ、笑顔で手を振る娘の姿が並ぶ。
場面は変わり、ドリームキャッスルへ。
当然だが、この全体が傾いたアトラクションではなく、物語にあるような、童話的で立派な城だ。
きらびやかな城内で、王子らしい金髪の男と、ウェディングドレスだろう、白いドレスを着た娘が並んで手を繋いでいる。
二人は笑顔で、周囲の人形たちも飛び跳ねたり、満面の笑みで手を振ってみせたり、花を投げるような動作を繰り返している。
…めでたしめでたし、といったところか。
全体的に、人形の動きがぎこちないのは、年月が経っているからだろう。
『それじゃあ、次はお姫様になったリーノに会いに行こう!』
これで、アトラクションの前半が終わったのだろう、ナレーションの声を背に、前には立派な扉が待ち構えていた。




