第六話
「明かり、点いてるのか」
石と砂と埃と、雑草と。
そんなものに塗れた床を踏みしめた一言目は、自然と口から出た。
何せ、廃園して随分年月が経っているはずなのに、アトラクション内に明かりが灯っていたからだ。
『やあやあやあ!』
「うおっ?」
『夢の国の、ドリームキャッスルへようこそ!』
「おい……おいおいおい。嘘だろう」
そして、女性の威勢がよいナレーションまで生きていた。
アトラクションに入る前から薄々予想はしていたが、やはり内部の電気も通っていた。いや、このドリームキャッスルだけかもしれないが。
しかし、他のアトラクションも同様だとすると、馬鹿にならない電気代がかかっているはずだ。
…費用は一体だれが負担しているのか。その金額はいかほどか。現実的な話に、悪寒が走る。
「ぞっとするな…」
『今日はボク、妖精のアリーが、みんなを案内するよ! よろしくね!』
気を取り直し、周囲を観察する。
当然のように、廃棄されていた内部の清掃は、なされていない。
だが、汚れていても絵本の挿絵をそのまま復元したと分かる城内は、ありきたりというべきか、まさに夢の世界というか、なんというか。
ドリームキャッスルの内部は、白い石壁…を模した壁紙に、高価そうに見える棚や鏡が設置されている。
燭台型の電燈が周囲を照らしており、天井を見上げれば、蜘蛛の巣や埃で装飾されいているシャンデリアもぶら下がっていた。
こういう場所にあるような『ここは何の間である』だとかいう説明文は見た限り、ない。
それがないので、どのようなアトラクションかは不明だが、予想するに、人間のガイドか何かが先導して夢の城を体験するようなものなのだろう。
妙に明るい、自称妖精のナレーションは、お姫様の友人だかドリームランドに生息しているという設定にして、客の没入感を演出する、と。
…だがまあ、当然ではあるが、拷問室だなんて物騒なモノがあるような気配はない。
思い出し、床をこすってみるも、土と埃と雑草を取り除いた先に現れたのは、柔らかい色調をした、青と白のチェック柄の床だ。
「まあ、あるわけないな」
『それじゃあみんな、用意はいい? よし! それじゃあ改めて! ドリームキャッスルへようこそ!』
「はいはい、と」
快活なナレーションに、けどもそぐわない、鈍い金属音を立てて開く扉。
しかも、長年作動してなかったせいか、半分程度開いたまま動かなくなった扉に失笑しつつ、身を滑り込ませる。