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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第4章 魔大陸決戦編
165/216

監獄突入

「ん~、お前はいらんな」


 ズキュ!


「はぐっ!」


 全身黒ずくめの侵入者がモノを選別するように呟く。

直後、衛士の1人が額に短剣を突き込まれて死亡する。


「お前は……少し寝てろ」


 ガン!


「あぐ……」


 さらに手近なところにいた衛士の頭を鷲掴みにする。

そして、そのまま壁に後頭部を叩き付け、気絶させた。

まるで流れるような動き。

一切の淀みも無駄も無く、躊躇も無い。


「さて、大分減ったな」


「ヒッ!?」


 監獄の入り口付近では死屍累々の光景が広がっていた。

奇妙なのは、はっきりと死者と生存者が分かれている事だ。

殺された者達は急所を一撃されており、完全に即死だ。

だが、生き残った者達は意識こそ失っているが命に別状はない。


 侵入者は何かの基準で衛士たちを選別しているのだ。

だが、衛士たちにはその基準が分からない。

かろうじて分かるのは、殺された者達に貴族の幹部が多い事だろうか。


「(いや、まてよ……)」


 1人の衛士がふと気づく。

殺された者達に共通点があることに。

監獄は重要な施設であり、衛士たちの権限が強い。

なので、中には増長し囚人に暴力を振るったりする者もいた。


 貴族出身の幹部では、特にその傾向が強い。

その結果、衛士には2つの派閥ができてしまった。

1つはあくまで仕事として、真面目に職務に取り組む者達。

もう1つは横暴に振る舞う者達。


 以前は前者の方が人数も多く、主流だった。

しかし、反逆が起きるとそれは逆転してしまった。

王族派の貴族たちが囚人として連れてこられ、グラーダ派の人間が大勢赴任してきたのだ。

それからこの監獄の空気は一気に悪くなった。

彼らのストレス解消の場として使われ始めたのだ。


「(あいつは無事、あいつらは殺されてる。じゃあ、俺は……)」


「や、やめろ! 俺を誰だと……」


 ドズッ


 隣で喚いていた衛士が、額に短剣を突き込まれて絶命する。

吸血鬼は生命力が強いが、急所を貫かれても無事でいられるのは相当の高位個体だけだ。

自分だったら間違いなく死ぬ。


「お前は……」


「(俺は真面目にやってきた。恥じることなど無い!)」


「寝てろ」


 ガンッ


 後頭部に感じる衝撃。

消えゆく意識の中、彼は安堵していた。

自分のこれまでが認められたような気がした。

少しだけ、誇らしかった。


---------------------------


「さすがはシミラ。良い仕事をしてくれる」


 衛兵たちを薙ぎ倒しながら、フィオは感心していた。

王城に侵入したジェイスとルーナにシミラは同行した。

任務は当然護衛だが、彼はそれ以外にも+αで働いてくれたのだ。


 シミラは王城中の者達の記憶を調査したのだ。

そして、それを基に抹殺リストとでも言うべきモノを作り上げた。

そのリストに載った者達は皆、当然のように札付きだ。


 グラーダに取り入って権力を得た者が大半だ。

少数だが、夜王が存命の頃から隠れてアレコレやっていた者達もいるようだが……。


「まあ、これもサービスの一環か」


〈キュー〉


 せっかくグラーダを始末しても、その後国が混乱したままでは成果が半減だ。

人々が平穏な生活を取り戻してこそ歪みは減るのだ。

まあ、歪み版空気清浄機であるフィオがいるので、現在北大陸はかなり健全な状態なのだが。


 歪みの浄化という権能は、自然に発動し続けているパッシブスキルのようなものだ。

それでも権能は権能、使うほどにフィオは神の力に馴染んでいく。

事実、彼は『ヒト』を『選別』することに抵抗を覚えなくなっているのだ。

この世界に来たばかりの頃と比べると、その精神は大きく変質している。


 ともあれ、フィオは今後国のお荷物になりそうな連中を徹底的に刈るつもりでいた。

リストに無い者達は、全員気絶させているのだが、実はそれもフィオなりの気づかいだった。

真面目に職務に励む衛士達にとって、不審者を見逃すというのはやってはいけない事だろう。

しかし、立ち向かったが力及ばず、なら対外的にも言い訳は立つ。

はずだ。


「分かりやすくて良いじゃないか」


「キュウ?」


 フィオが言う通り状況は分かりやすかった。

侵入者に対し、最初はリスト対象者も非対象者も捕縛しようと挑んできた。

だが、勝ち目が無いと解るや否や彼らの行動は綺麗に分かれた。


 リストに無い者達は勝てないと解りながらも大半は挑みかかり、叩き伏せられた。

リストにある者達は我先にと逃げ出し、奥へ奥へと去っていった。

結果、入り口付近は気を失った者達で埋め尽くされ、奥へ行くほど死体が増えていくことになった。


「さーて、これで残るはほとんどがリストにある奴らか。さっさと終わらせて貴族たちを解放しようかね」





 一方、リスト対象者達は巣穴に追い込まれるように監獄の奥に逃げ込んでいた。

その中にはグラーダの取り巻きの一人である貴族が含まれていた。

彼の名はムオデル・エレボス、この監獄のトップである所長であった。

他の多くのグラーダ派貴族同様、彼も若く長子ではない貴族の子息だった。


「はあ、はあ、何なんだ、あいつは……」


「所長! 早くこちらへ!」


「分かっている! 俺に命令するな!」


 優秀で穏健な夜王による統治は平穏と繁栄をもたらした。

しかし、平和な時代しか知らぬ若い世代の貴族の中に、その価値が解らない者達が現れたのだ。

彼らは平和である事が当然であると考え、それ以上を求めた。

そして、グラーダと自分たちならば、より上手く国を動かせると考えるようになった。


 そこに根拠など無かったが、彼らはできると信じた。

たしかに彼らには活躍の機会が与えられなかったのだから、できないと決めつけるのは早計だっただろう。

しかし、彼らの実務経験が圧倒的に不足しているのもまた事実だった。

彼らにその気があれば親はいくらでも仕事を回しただろう。

だが、彼らはコツコツ小さな仕事からやっていく事が耐えられなかった。


「クソッ! 役立たず共め……。たった1人の侵入者も倒せないとは……」


「ですが、アレは異常です。下手をすれば夜王陛下より……」


「王はグラーダ閣下だ!」


 結局、グラーダが彼らの不満の受け皿となり、彼の派閥は大きくなった。

そして、グラーダのクーデターによって彼らは権力を握ることに成功した。

だが、そこで彼らの明暗が分かれる事になる。


 実際に実務に携わったことで、有能な者とそうでない者がハッキリと分かってしまったのだ。

有能だった者は良かった。

グラーダから能力に相応しい立場と仕事を与えられ、多少の経験不足はあれど仕事をこなせたのだから。

では、無能とまではいかなくても有能ではなかったものはどうなったのか?


「そうだ、俺はまだこれからなんだ!」


「……」


 さほど実務能力が必要ない、しかし高位の役職に就く事になった。

彼のように。

この監獄は重要な施設ではあったため、優秀な職員が揃っている。

逆に言うと所長という役職は飾りのようなものだった。

だが、名声だけを求めるムオデルは、施設のトップという立場だけで十分満足だったのだ。


 何しろ、ここにはグラーダに逆らった貴族たちが投獄されている。

父や兄も含む、これまでは自分の上に立っていた者達。

牢の中の彼らの姿はムオデルの自尊心を大いに満足させてくれた。

彼らが自分に向ける蔑みの目すらも心地良かった。


「おい! お前とお前!」


「は、はっ!」


「何でしょうか!」


「ここに残って時間を稼げ! いいな!」


「ええ!?」


「し、しかし……」


 ここまで自分を警護してくれていたベテランの衛士2人に、足止めを命じるムオデル。

返事を聞く事も無く、取り巻きを連れてさらに奥に進んでいく。

そこは重犯罪者用の封印牢。

強大な力を持つ貴族でさえ無力化する特別な牢獄だ。


「所長、どうするのですか?」


「このタイミングでの襲撃だ。目的は地下の貴族どもに決まっている」


「な、なるほど……」


「奴らを人質にとれば、望みはある!」


 根拠も無く確信するムオデル。

しかし、彼は解っていない。

人質作戦とは自分の退路も断つ、諸刃の作戦であるという事に。

やはり彼はボンボンらしく経験が足りていないのだった。



グラーダ派貴族達は出た直後に退場が多い。


死ぬために登場してるみたいですね。

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