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(四)

エピローグ

 またケーキを作ったら連絡するから、遊びにおいで。

 別れ際、トオル君は笑顔でそう言った。

 安藤さんは、夏休みに入ったらバイトに来ないか、と誘ってくれた。

 重ねられる約束に、胸が暖まる。

 

 自分の本心が見えないまま、望む未来の形が解らないまま、下した決断に後悔ともつかない感情を引きずっていたけれど、決して取り返せない事なんかじゃない。いつでも戻ればいいし、迷わず進めばいい。

 自分のずっと先を歩く人達が、そう言って笑って背を押してくれる。

 それが、どんなに心強いことか。

 ふふっと笑い、私は今日も駐輪場で、暑苦しく晴れた空を見上げていた。目を閉じて耳を澄ませば、体育館やグラウンド、格技場で、色んな部活動の音がする。

 ……剣道だけが特別じゃない。でも、私には特別だったんだ。

 好きで、好きだから、背を向けた。今は向き合うことが出来ない。山積する言い訳の中、それだけは本心だった。自覚できてる。



 懐かしいな、そう思う事がある。

 戻りたいな、そう思っているのかどうかは、自分にもよく解らない。

 昇華しきれないのは自分が子供である証拠なのだと思う。

 いつか。

 そう、細い願いを掛けながら、日々を過ごす。

 いつか。

 幻想めいた逃避だろうかと思いながら、そう願うしかない。

 私が、自分だけの答えを見つけられますように。

 そうやって、幻想なんかじゃなく、現実を見据えて、若さという財産を投じていくんだ。

 晴れ渡る夏の青空に、懐かしい匂いと音が響く。声が聞こえる。

 辞めてから一カ月と経っていない剣道部が活動する格技場を振り返り、私は竹刀の感触が残る手を、閉じ開きした。



 

 もうすぐ、夏休みが始まる。




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