お春〜女剣士〜
秀晴は床の間を少し出た後、立ち止まり振り返る。
「おい、のぶながああ!!!」
先程の冷静で忠実な従者の顔はどこにいったのか。秀晴は額に青筋をたてながら信長を怒鳴りつける。
「うおお。いきなり何だ?!」
信長もあまりの変わりように体をビクつかせる。
「先程の態度は何だ?!失礼であるぞ!!」
「何のことだ?」
信長は首をかしげる。それは更に油に火を注いだ。
「気安く触ろうとしたり、脅したり、何なのだ貴様は?!ふざけるのも大概にしろ!!」
「ああ〜、そのことであるか〜、すまぬすまぬ。まあ、どんな器なのか気になったものでな。」
「はあ?!」
秀晴は顔を真っ赤にしながら、信長を怒鳴りつける。それを見て、信長は大爆笑する。
「しかし、貴様先程とは別人のようだな!わっはっは!」
「うるさい!」
怒鳴りつける秀晴、陽気に笑い飛ばす信長、仲が良いのか悪いのか。まるで兄弟みたいだ。
秀晴が弟で、信長が兄。いや、逆か?
「おい!何をやっているんだいさっきから」
何者か背後から何かで頭をゴツンと叩かれた。
「何をする?!ってお春殿」
そこには、綺麗な黒髪を現代で言うポニーテールのように結んだ女性が立っていた。格好は純白の剣道着に赤色の袴を着ていた。まさに女剣士の稽古装束である。
「さっきから何をわーわー騒いでいるんだい。アホらしい」
「こやつが、態度が悪い、気安くさわるななどと怒ってくるのじゃ。俺は何も悪くない!」
「何被害者面してるんだよこの野郎!!」
お春は呆れて物も言えず、その場に立ちすくんでいる。
「はああ。もういい加減にしなよ!」
お春の怒号が飛び、二人は一斉に動きを止める。
「あんたらさ、何を同じことをブツブツブツブツ繰り返すんだい!ふざけんのも大概にしな!」
二人はお春を前にし、子犬のように縮こまる。
「あと、ここはまだお屋敷の中なんだよ!迷惑するだろ!」
「すみませんでした・・」
女は強しとはこの事だろう。
「さあ、早くあんたんとこの家、行くよ!」
「へ〜い」
三人は屋敷を出て、森の奥深くに入っていく。陽の光が三人の顔を照らす。
「そういや、俺はまだ姉ちゃんの名前を聞いてないんだが」
「あ〜、すっかり忘れてたよ。私はお春だ。まあ、春らしくはないんだけど。こう見えて私は女剣士なんだよ。武術が大好きでさ。」
お春はひまわりのように明るく笑った。
「女剣士とは珍しいのお」
「でしょ?実際の戦場にでたこともあるんだよ!まあ、その経験を生かして村を不審な者から守ってるんだ」
「おなごなのにすごいな〜」
そんな事を話しながら、3人は目的地についたらしい。
そこは村とは少し離れたところにあったが、平屋の2階建てだった。長年住んでないようだが、きちんと手入れはされているみたいだ。ホコリも一切ない。
「案外きちんと手入れをしているのだな」
「いつ新しい住人が来るか分からないからね。」
当たり前だと言わんばかりに言葉を返す。
「しかし、2階建てとは珍しいな。」
信長は顎に手を当てて、ひどく感心しているようだ。
「まあ、ただでさえ土地が少ないからさ。1つの家に何人も住むこともあるし、血はつながってないけど、家族として暮らす場合もあるからね」
お春は、荷物の整理をしながら答える。
「今日からここで3人で住むんだもの。2階建てじゃないと狭すぎてたまったもんじゃないからね」
「一緒に住むのか?!」
信長はまさか一緒に住むとは思っていなかったようだ。目を大きく見開き、口をあんぐりと開けている。
「そうですよ。まったくなんでこいつと一緒に住まなきゃいけないのか」
秀晴は不満そうに荷物を整理する。
「悪かったな〜」
信長は秀晴の嫌味を上手く受け流す。
「まったく仲が良いのか悪いのか。2階は私が使ってもいいかい?」
「ええ。男2人と同じ部屋なのは気まずいでしょうし」
「俺にだけあたり強くないかー」
信長はお春と蘭様と自分との対応の違いに不満らしい。頬をぷっくりさせ抗議する。
「何だその顔は?!それはなお前のことが嫌いだからだ!」
そんな事をいっているが信長の顔が面白すぎてにやけを隠しきれていない。そんな二人を見てお春は大爆笑。
「ふはははっ!ほんとに仲が良いんだねえ!」
お春の笑いがリミッターとなり、二人もこらえきれず大声で笑い出す。
「わっハッハッハ!こんなに誰かと楽しく笑ったのは久しぶりじゃ。子供に戻った気分じゃの!」
「まあ、あんたは戦国武将だもんな〜!あ、そうだ!みんなで朝ごはんでも食べないかい?」
「そうですね!私もまだ食べてませんでした!」
「俺も食べておらん!」
「よし、じゃあみんなで作るか〜!」
「え?!でも、料理したことないです・・」
秀晴は不安そうに答える。まあ、朝からゲタものを食べるのは最悪すぎる。でも、その不安を笑い飛ばすかのように信長は言った。
「何事も挑戦じゃ。失敗したらそれもまた良し!気合いいれてやるぞ〜!」
信長は腕まくりをしてやる気満々。お春ももう手を洗うなり、準備を整えている。
「とんでもないものが出来ても知りませんからね」
秀晴もやるしかないと心を決める。
「その意気だ!さあ、はじめよう!」
お春は明るく二人に言った。まだ出会って数分しか立っていないが、かなり仲良くなったみたいだ。




