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12(300).聖母の幻影

洞窟の奥からは、生物らしき臭い。

獣人の女剣士は、瞳孔鋭く周囲に気を配る。

前方を行く間諜らしい服装の同胞の声に意識を戻す。


「ドゥルーガ様、この先に3つ・・・」

「・・・いや、どこかおかしい奴が2つ交じっているかもしれません。」

「この先に、怪しい仕掛けは無いようです。」


「ご苦労。」

「お前たちは、後方へ下がれ。」

「ここからは、我々の領分だ。」


「はっ!」

「それでは、我らは後方に下がります故、ここからはお気をつけて。」


「あぁ、サポートは頼むぞ。」


風の様に駆ける先行部隊の最前列からは、隊の左右に別れ後方へと下がる数名の間諜達。

部隊を任されているドゥルーガは、彼ら姿を横目に確認し、前方へと意識を集中した。

やがて、洞窟の奥で響いていた足音は大きくなり、小さな明かりが彼女達の瞳孔を光らせる。

ドゥルーガの後方を走る魔導士は、視線を変えることなくドゥルーガへ声を掛けた。


「ドゥルーガ・・・アレはヤバいかもしれないよ。」

「僕の魔力探知でも・・・1つにしか感じ取れない。」

「あれは、魔力を外部に発散している状態に似ているんだ。」

「魔力発散知っているよね。以前にあっただろ?」

「聖母の時のあれだよ。あのと」


矢継ぎ早で話すサラマ。

先ほどまでは、走ることに集中し青色を青くしていたとは思えない程だ。

彼の輝く瞳に、ドゥルーガは手を額に当てため息を吐き、彼の話に声を重ねた。


「サラマ、わかった。わかったよ。」

「で、問題と対処は?」


ドゥルーガの声にハッとしたサラマは、地面に向けため息。

その姿にトリリジャータは微笑む。


「サラマ様、大丈夫ですよ。」

「それで、問題点は何なのですか?」


「ありがとう、トリジャータ副兵長。」

「そうだね、問題点だね。」

「あの魔力は対処が難しい・・・」

「以前は・・・ルシアくんだったかな。彼がいた。」

「今回は、代わりの魔導具を使うしかないよ。」


ドゥルーガが、首意を傾げ唸る。


「おい、サラマ。」

「重要な部分をまとめて話せ。」

「お前ら魔導士は、そういう所がかなわん・・・」

「私達は、何をどうしたらいい?」


「・・・」

「そうだよね・・・・」


トリジャータは、前を走るドゥルーガの背を睨む。

そして、目から光を失うサラマの肩に軽く手を置き声を掛けた。


「サラマ様は、悪くありませんよ。」

「ただ、危険性を伝えようと必死だっただけです。」


「トリジャータ副兵長・・・」

「いいんだよ。 話は相手に伝わらなきゃ意味無いんだ。」


サラマは、トリジャータに微笑みを返し、ドゥルーガの背に視線を向ける。

そして、一息吐き声を返した。


「問題は、相手の周囲が常に魔力飽和状態になっている事だ。」

「その場にいるだけで、魔力譲渡をされ続けているという事だね。」

「その意味は大丈夫だね。」


「あぁ・・・あれか。」


「質問は無いね?」


「あぁ・・・」

「ここで、ルシア殿か・・・確かに重要だ。」

「質問はない、進めてくれ。」


変化の無いドゥルーガの背に、眉を顰め引き締まった表情で考えを告げるサラマ。

その姿に先ほどの頼りなさはない。

トリジャータは、口元を緩める。

そして彼の肩に置いた手を静かに退けた。

宮廷魔術師長は、一瞬視線を彼女に向け頷く。


「では次だ、対処の話に移るよ。」

「今回は、魔導具を使う。」

「出発前に配布した布だ。」

「東方で最近作られた物だというけど、効果は本物だよ。」

「コイツを付けていると魔力譲渡の影響を緩和できる。」

「ただし、支援効果も緩和してしまうから気を付けて欲しい。」


「サラマ様、先読みをしていたんですね。」

「さすがです!」


「ハハッ、褒めても何も出ないよ。」


二人の和む空気に、ドゥルーガは口元を緩める。

そして、表情を引き締め直し、全体へ向け声を飛ばす。


「お前ら、サラマの話は聞いていたな。」

「敵は近い、気を引き締めていくぞ!」


「「「ウゥーー!」」」


ドゥルーガの声に呼応する獣人達。

士気は高く、その進行は加速した。

先を進む、2つの足音には声が混じり遭遇を予感させる。

一つは、低く通る声だ。

そこに感情は無く、ただ淡々と命令に従っている様に感じられた。

そしてもう一つは、高すぎる訳ではないが心地良い訳でもない声。

ただ、その言葉の節々には角があり、聞く者を不快にさせかねない程。

女性は、愚痴ともとれる囁きと共に場違いにも思える足音を響かせていた。

ドゥルーガの耳は後方へ畳まれる。


「居たぞ・・・」


彼女は手を上げる。

それは、部隊を制し進行を止めた。

空間には、1つの灯火。

それは、ドゥルーガ達の表情を浮き上がらせる。

松明を持つ巨漢の瞳は彼女を見据えていた。

そこには、感情など無い。

漢は、肩に担いだ女性をゆっくりと脇へ降ろす。


「獣人の女か・・・」

「自制の取れた体・・・悪くない。」


その発言は、敵味方から不快の意を返される。

視線は皆厳しい。

その反応に、男の表情はようやく人間らしさが現れた。

しかし、そこにあるのは後悔などではなく恍惚だ。


「ふん・・・これもまた一興。」

「貴様らは、ソラス様の邪魔でも画策しているのか?」

「・・・」

「まぁ、聞くまでも無いか・・・」

「おい商人・・・下がってろ。」


空気は一変し、場は緊張の包まれた。


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